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Future of Insurers#1 〜保険会社の未来予想図

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藤田 通紀

藤田 通紀
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
保険・郵政グループサービス事業部
パートナー 保険サービス部長

金融機関及びコンサルティング業界でのプロフェッショナルとして20年以上の経験を有し、経営戦略、セールス・マーケティング、教育・研修からオペレーション、またアートとデジタル等の幅広い分野での専門性を有す。トランスフォーメーションに関わる実務と理論に基づいたアドバイザリサービスを提供。著作・講演多数。
MSc(英ウォーリック大)MBA(英ウェールズ大)PgDip(英エクセター大)修了

 

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始まりの始まり

デジタル化の加速による2045年のシンギュラリティは、現在の人間の活動と意識への変容を余儀なくされる程の変化が訪れると共に、そこに至るまでのここから24年間の進化は、今から過去24年よりも遥かに大きなものとなると考えられています。

これは現在のノーマルな生活洋式の「終わりの始まり」と称されることもありますが、否、所謂ニューノーマル(もしくはポストニューノーマルの方がより正しい認識か)の「始まりの始まり」と捉える方が、余程前向きな時間軸との相関性があるのではないでしょうか。

経済活動において、過去24年間の中では、主役のプレーヤーの多くは業態変化、縮小ないしは退場し、消費者行動に至っては、現在購買行動やその認知に必要とされるスマホやそれらのアプリケーションは存在していません。

保険会社においては、その進化が表面的にはややその速度が遅いようにも感じます。それは、保険商品が事故・災害・疾病・死・長寿などの、ヒトの活動によって生じる原理原則に紐づいているとの見方が存在しています。その一方で、保険会社のオペレーションは、生産性向上を軸としたテクノロジーを応用したバックオフィス改革や、契約者(もしくは新規の契約者)に向けた、申込書や契約関連の書類のデジタル化、また契約状況をP Cやスマホから確認できるなどの変化はありました。しかしこれらは、既存のツールのデジタル化(ペーパレス化)であり、保険契約者の行動が大きく変容したものとは言い切れないでしょう。

しかし、今後24年間に起きる変化は、医療や物流、また移動手段に大きなパラダイムシフトがあると考えられています。再生医療やゲノム進化による必要な保障の多用化、物流や移動手段の他種化による保険数理や保険対象及び保険料の変化など、既存の保険の概念を超えたポストニューノーマルに適用した保険商品とその開発とオペレーション、またコンサルティングが必要とされると思います。

本章では、契約者(クライアント)と保険商品、また働き方について想定される未来の定義を行い、次章よりその詳細を考察していきたいと思います。

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ヒトの生活と生きる価値の変化

ヒューマンエラーはヒトが活動する上で避けることが出来ないリスクであり、またヒトの活動は有期であることから須く死を迎えます。そのリスクファクターは、ヒストリカルデータの平均・分散理論によりある程度の精度を保つ数式と集積されたデータからの確率によって推論され、保険商品設計の柱となります。

これらの保険数理は、生命・医学的な観点から連続した線形モデルが一般であり、ある意味回帰分析によるものに近しいと言えます。これまでの保険商品の基本的な骨子が損保や生保の範囲内に収まっていた事を考えると、ヒトの生活や生きる価値そのもの自体に、ライフスタイルの観点から大きな変化が無かったとも言えます。

 

今後の24年間は果たしてその通りに進むでしょうか?

例えば、2040年には日本の単身世帯は約39%に対し、夫婦と子世帯は約23%、また子供を持たない夫婦割合は約21%Xで、単身世帯がマジョリティとなると予測されています。(国立社会保障・人口問題研究所は『日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)』(2019年推計)また、米国ワシントン大学保険指数評価研究所によると2040年時点の日本の平均寿命の予測は85.8歳です。ヒトの価値観が昭和平成と同様のものであるとは限らないでしょう。住宅は、マイホームから、投資用マンションに、最近ではホテル住まいのサブスクリプションのような賃貸契約が人気になり、住居の概念は大きく変わっています。

車の所有からレンタカー、そして現在はカーシェリアングが日常化し、自動運転や空飛ぶ自動車の搭乗の黎明期である現在、10年後の自動車保険のあり方は、誰の何処に補償が必要となるでしょうか。

予測できないパンデミクスによる疾病や死因の変化と同時に、医療の進化は高度医療がコモディティ化し、平均寿命の伸長が予測されます。これはある意味長生きリスクとして既に議論されていますが、身体の半分以上を新しい細胞、もしくはテクノロジーに入れ替えたヒトは、どのように査定していくのでしょうか。そしてこの時代の生きる価値とは・・

シンギュラリティにおける変化は、ヒトはそのままに、外部環境や労働環境の変化に注目が浴びますが、(生命倫理は一先ずおいて)生命にテクノロジーを応用した先についての検討も同時に保険会社にとっては大きな命題となるに違いありません。個人的には、Googleなどのテクノロジー企業が自動運転を軸に自動車業界にインパクを与え続けているように、メディカル・テクノロジー系企業による保険業界参入は十分に想定しなければいけないと感じます。

ヒトの生活と生きる価値の変化の詳細は次稿以降でさらに深く論考したいと思いますが、少なくとも非線型モデルとなる生活様式や価値観は、保険商品に対するシンギュラリティのインパクトとして捉え、何処の保険会社(もしくはメディカル・テクノロジー会社)において、この既存でありながらブルーオーシャンであるマーケットを席巻するのはここ数年の注視すべきポイントとなります。

 

必要とされるデザイナーとしての保険会社

この手の議論をする際に、多く相談を受けるのは「結局ヒトは必要なくなるのか?」という内容がとても多く、それは「ロボットに職を奪われる」という考え方に基づくものと考えられます。私の答えはN Oです。これらは先の産業革命や2000年代初頭のI T革命でも言える事ですが、デジタルワークフォース(A Iやオートメーション)は、ヒトにとって代替労働力になりうるもので、デジタルワークフォースを活用した利益をヒトに還流することが前提となるからです。

少し話が逸れますが、家事のテクノロジー進化は「お手伝いさん」や「主婦」の労働代替となり、女性の社会進出の一助、及び未婚者の増加の双方に影響があったと考えることが出来ます。これは、一方で、現時点でのスキルでは、「始まりの始まり」においてアップグレードが求められる事を示唆します。

この場合にデジタルスキルのアップスキリングがよく議論されますが、残念ながら、ここでいうアップグレードはその旨ではありません。私は、デジタルスキルは、社会人のマナー研修で取り入れるべき「所作」であり、プロフェッショナルとして提供する価値には該当しないと考えています。(それこそブラインドタッチやマイクロソフトのパワーポイントの研修があった時代は今では信じられないでしょう!)

これからの保険会社に必用とされる人材には、査定や税務・法務・業法的判断や、数理計算などの一定のアルゴリズムが成り立つファンクションや、規則正しくパンチするオペレーション(現在アウトソーシング対象となっている領域)そのものは減少していくのは既に様々な場所で議論され尽くしています。ただ、そのメンバーの次のステージは「企画業務」なる謎の定義の業務に振り分けられ、人的出口戦略もないまま、プロセスオートメーションやインフラトランスフォーメーションを進める向きも少なくありません。

 

では、この対象となるヒトの役割は何でしょうか?

現在本領域の知見を持っているヒト(ヒューマンワークフォース)は、如何にデジタルワークフォースが機能するかを「デザイン」することが期待されます。これは、システム化するための業務要件や機能要件を書き下ろす事だけを意味しているのではなく、「始まりの始まり」を意識した、つまり激しい変化に「しなやかに対応し続ける」デザイナーであることが求められます。その条件として、保険領域の専門でもあり、またデジタルの専門である事も求められるでしょう。逆に言えば、デジタル人材が、本領域に流入することも十分可能性があります。

また、営業や保険コンサルタントのような知識と経験、及びコミュニケーションの能力を必用とされる領域は、「ヒトの生活と生きる価値の変化」を契約者別に理解をし、多様化したライフプランをデザインするための、真の意味のライフプランナー(デザイナー)としての価値を高めることが期待されます。一方で、保険商品や関連業務知識を記憶したり、営業事務に時間を費やすことは価値のあるものでは無くなり、相手のライブプランデザインを「デジタルワークフォース」と相談しながら設計することが求められるようになります。もちろん、デジタルリテラシーは最低限求められますが、それ以上の営業支援や戦略に基づいた営業に関するデジタルワークフォースのデザインが営業本部やマーケティング・ブランディング本部、デジタル推進部などに求められるようになるでしょう。詳細は、また次回以降に論考していきたいと思います。

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