IBM Consulting

DXの実現をリードするプロジェクトマネージャーの育成

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著者:寺田 由樹   (Yoshiki Terada)
日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社 デジタル事業部第二インダストリアルソリューション統括部長。プロジェクトマネージャーとして電機電子をはじめとする多数の製造業のお客様への生産システムの提案からデリバリーに従事。この経験を活かし、PM人財の育成/拡大をめざすイニシアティブ活動に取り組んでいる。

 

はじめに

デジタル技術の発展に伴い、ITプロジェクトにおいても大きな変化が起きています。近年は早期のデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)推進を目指す企業も多く、従来のウォーターフォール開発に加えて、アジャイル開発プロジェクトも増えてきています。早期の投資対効果を見える化するために、短期間での要件実現を繰り返すケースも多く、アジリティーも非常に重要になっています。

DXを推進するためには各企業の基幹系システム等に収集されているデータを見える化し、分析/利活用できるソリューションが必要となります。そのシステム化においては多様なデータを活用する業界や業務に関する知識(インダストリーナレッジ)も求められています。
 
一方で、IT業界での人材不足は引き続き、大きな課題にもなっています。今後もIT人材の需要は高まることが予想されますが、人材不足はプロジェクト実行に影響を与える大きなリスクにもなりかねない状況にあります。このような環境の中で、DXの実現をリードするプロジェクトマネージャー(以下、PM)への期待は更に高まり、重要な役割を担っています。
 
表1に示すように、デジタル事業に対応する人材(※1)として、様々な職種の要員が求められています。従来のシステム設計/開発を担うアーキテクト/エンジニア/プログラマーに加えて、ユーザー向けのデザインを担当するデザイナー、データ分析のスキルを持つデータサイエンティスト等の全ての職種が重要な役割を果たすことは言うまでもありません。このような様々な職種のメンバーを束ねて、デジタル事業の実現を果たすプロジェクトをマネージするのがPMの役割となります。デジタル技術の発展の中で最新のITテクノロジーに関する知識も常に習得していくことも重要です。また、企業の情報システム部門だけではなく、経理部門、管理部門、上位マネジメント等に加えて、業種や業界を超えた業際横断での多くのステークホルダーをリードし、迅速なプロジェクト実行を進めることもPMの役割となります。
様々なステークホルダーとの迅速な意思決定においてはコミュニケーションスキル/ネゴシエーションスキル等のヒューマンスキルも求められます。

表1.デジタル事業に対応する人材
[出典:情報処理推進機構(IPA) DX白書2021]

デジタル事業に対応する人材

 
PMは全てのプロジェクトにおいて、必要不可欠な存在であり、人材不足の中で、DXの実現をリードするPMの育成を進めていくことは重要なテーマになっています。
日本アイ・ビー・エムデジタルサービス(IJDS)では、DXの実現をリードするPMプロフェッションの拡大/強化を目指すイニシアティブ活動を継続して行っています。その活動内容を紹介します。

 

PMイニシアティブ活動の概要

IJDSでは図1に示すように、以下の3つのエリアにフォーカスして、イニシアティブ活動を推進しています。

1. Visibility(ビジビリティ)向上
2. Profession Capability(プロフェッション ケイパビリティ)向上
3. 若手PM育成

図1.PMイニシアティブ活動概要
IJDS PMイニシアチブ活動

 
当PMイニシアティブチームは各部門からの自薦他薦のPMメンバーで構成されており、これら3つのエリア(チーム)に分かれて活動しています。各エリアの活動内容をそれぞれ紹介します。
 
 

1. Visibility(ビジビリティ)向上

PMプロフェッションの社内外におけるVisibility向上(プロジェクトマネージャーとしてやり遂げた業績を他の人に認知してもらうこと)をめざし、様々な情報発信を推進しています。
DXプロジェクトは多くのステークホルダーが関わり、様々な事業分野を超えた業際横断での実行となるケースもあります。様々なステークホルダーとのリレーションを強化していくためには、社内外で多くのメンバーとつながり、情報を集め、自ら発信し、多様な気づきを得ることが求められています。多様な状況に応じたマネジメントスキル/経験を発信し、共有することで、互いに変革を起こすカタリスト(触媒)になるような活動が重要です。このような活動を通じて、デジタルエミネンスを高めていくことが当活動の目指すところとなります。
 
1.1 外部発信
社内の各部門から選ばれたPMプロフェッションの社員はプロジェクトマネジメント学会(※2)が主催する年2回の春季/秋季大会、およびその国際会議のProMAC(※3)などにおいて多数の論文を発表しています。学会での発表は、同じプロジェクトマネジメントに携わる方々から幅広い指摘や意見をもらうことができ、また学会で得られた知見や気づきは今後のPM活動に非常に良い効果をもたらします。
そこでPMイニシアティブチームでは、発表に至るまでの準備を支援し、社員の積極的な論文発表を後押ししています。それに付随し、このような活動に積極的に取り組んでいる社員の実績を広く社内外に紹介し、PMとしての認知度を高めるようにしています。
 
1.2 学会についての情報連携
プロジェクトマネジメント学会(※2)やPMI日本支部(※4)等で開催される研修やセミナー等の情報を社内にてアナウンスし、社外での活動への参加も推進しています。社外での様々な情報収集/情報連携を通じて、社内での活動では得られないような多様な気づきを得ることも非常に価値があります。
 
1.3 社内での情報発信
上記のような学会活動に加え、プロジェクトマネジメントに関する社内外での研修やセミナー情報、PMイニシアティブチームの取り組み内容も、社内のブログ記事やPMレターなど様々なチャネルを通じて全社員向けに継続的に発信しています。多くの社員が日常業務では得られない多様な情報を収集し、活用頂くことで新たな価値創出のきっかけにもなると考えています。
 
 

2. Profession Capability(プロフェッション ケイパビリティ)向上

PMプロフェッションとしてのスキル習得やレベルアップを支援し、社内外での資格取得を推進しています。 
DXプロジェクト実行には従来のウォーターフォール開発に加えて、よりアジリティーを求め、短期間での開発プロセスを繰り返すアジャイルのスキル/経験も求められています。このようなスキル/経験を社内外に示すことができる様々な資格取得の支援を進めています。
 
2.1 社内外の認定資格取得推進
いわゆるプロジェクトマネジメントに関連する外部認定資格は数種類あり、またIBMグループ内においても、PMスキル/経験のレベルに応じた複数の認定資格が存在します。それらの資格取得に必要な学習や各種の情報を連携しています。また、資格取得のためのHint&Tipsを定期的に発信するなど、認定資格取得のための支援を行っています。
特にDXプロジェクトに求められるアジャイルのスキル/経験を示す資格として、PMI(※5)のAgile Certified Practitioner (PMI-ACP)®の資格取得の推進も実施しています。 

2.2 資格取得者からのフィードバック
上記のような資格取得を経験したメンバーから、取得をめざした経緯や必要な学習内容等の体験談を共有してもらい、これから資格を取得するメンバーのサポートに役立てています。特にアジャイルに関する資格取得が進んでいますが、まだまだ取得者は少なく、その体験談は非常に価値ある情報として活用してもらっています。

2.3 事例/研修情報連携
ここ最近で特に適用が進んでいるアジャイルプロセス/プロジェクトに関する事例の紹介や、アジャイルスキルの習得に有益な研修情報の連携も随時行うようにしています。また、アジャイルコミュニティーなどで発信されている情報も連携し、活用を推進しています。
 
 

3.若手PM育成

人材不足の環境下においてPMスキルを持つ要員を獲得するには、外部の人材活用や採用と並行して、社内メンバーのリスキリングによる対応の強化が求められています。そこで、若手社員がPMという職種に興味を持ち、将来のキャリアの選択肢として検討できるよう、いくつかの取り組みを行っています。
DXプロジェクトにおいては多様なステークホルダーとの連携がより強く求められるようになっています。年齢や世代による考え方のギャップも少なからず存在する中で、若手PMの育成のためには若手がPMに興味を持って頂く機会を増やすことも重要ですが、同時に中堅/シニア層のメンバーが若手の考えを知り、多様性を受け入れるような取り組みも求められています。
 
3.1 若手PMによる経験共有
若手社員にPMプロフェッションに興味を持ってもらうためには、同世代からの情報発信が効果的です。一例として、入社数年でPMとして活躍している若手社員が、自身のプロジェクト経験やPMをめざした経緯を書いたブログ記事を社内で発行したところ、当PMイニシアティブチームからの発信の中で最も多数の閲覧数となっており、多くの社員に興味を持ってもらうことができました。併せて、中堅/シニア層は若手PMの思いや考え方を知る機会にもなり、すべての世代に価値がある取り組みとなっています。

3.2 ラウンドテーブル/座談会の開催
PMの業務内容やキャリアを広く社員に知ってもらうために、先輩社員とのラウンドテーブル/座談会を開催しています。様々な経験やキャリアパスを持っている中堅/シニア社員との会話は、今後のキャリアを検討する際に参考になると若手社員に好評です。参加する若手同士での情報共有もでき、中堅/シニア社員は若手の考えを直接聞くことによって、その思いを理解し、多様性を受け入れるきっかけにもなっています。
また、心理的安全性にも着目し、プロジェクトやチームとして心理的安全性を満たす環境を作るためにはどうすれば良いか、ディスカッションし、その内容を社内で広く共有するような活動も実践しています。

3.3 メンタリング
社員がPM資格取得やキャリアを検討する際に、経験豊富なメンバーとのメンタリングは非常に役立ちます。社員が所属する組織やプロジェクト関係者の中から身近な存在のメンターを探すケースもありますが、一方で、異なる組織や異なる業界を担当しているメンターとのメンタリングを希望するケースもあります。いずれの場合も本人の希望に沿ったメンターを紹介し、より良い相談やアドバイスをもらえるよう支援しています。メンタリングはメンターにとっても、メンティーにとっても、多様な考えに触れ、自身の考えを振り返り、変革する機会にもなります。

 

まとめ

ここまで述べてきたように、IJDSのPMイニシアティブチームでは、DXの実現をリードしていくPMプロフェッションの強化/拡大に関するさまざまな施策に取り組んでいます。人材不足の中で、いかにPMプロフェッションの裾野を広げ、PM候補の育成を進めていくかは、非常に重要かつ難しいテーマです。
いわゆるマネジメントスキルの強化は言うまでもありませんが、DX時代のプロジェクトマネジメントには、これまで触れてきたように、以下の4つのスキルが必要となります。

・ プロジェクトマネジメントスキル(ウォーターフォールプロセス/アジャイルプロセス)
・ 業界知識
・ ヒューマンスキル
・ 最新ITテクノロジーに関する知識

これからのプロジェクトマネジメントには、お客様の業界についての詳しい知識、そして多様な人材/チームをリードするヒューマンスキルが求められます。またDXの実現をリードするためには、クラウドやAIなどの著しく進化する最新のITテクノロジーに精通していることも必要です。

IJDSでは、引き続き、お客様のDX推進を強力にリードできるPMプロフェッションの強化/拡大を支えるイニシアティブ活動を推進していきます。読者の皆さんも、これからPM人材の育成を検討することがあれば、本記事でご紹介した取り組みを参考にしてみてはいかがでしょうか。
 

※1:本稿では、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が定義する「デジタル事業に対応する人材」を参照しています。参照元:DX白書2021
※2:一般社団法人 プロジェクトマネジメント学会。参照元:プロジェクトマネジメント学会
※3:International Conference on Project Managementの略称。参照元:ProMAC2021
※4:一般社団法人PMI日本支部(Project Management Institute Japan)。参照元:PMI日本支部
※5:PMI(Project Management Institute)。参照元:PMI(Project Management Institute)

 

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