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リアルとデジタルが一体化した世界における保険システム

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ポストコロナにおける経済活動や日常生活が徐々に回復への歩みを進めつつある中、保険業界は大きな変化の波にさらされています。業界内に加え、他業種からも新たな競争相手が台頭し、各保険会社には迅速かつ効率的な業務の遂行、日々進化する顧客ニーズに対応するための変革が求められています。IBMは、テクノロジーの力がこうした保険業界の変革を実現に導けると考えています。実用化が進みつつある先進ITによって保険業界にはどのような変化が訪れるのでしょうか。保険システムの将来像と業界変革に向けたポイント、IBMが考えるシステム・アーキテクチャーについてお話しします。

「ボーダーレス時代」の到来と鍵になる4つのテクノロジー

クラウド技術やモバイルデバイスを活用したデジタルサービスが登場し、リアルな世界でのサービスの一部がデジタルで再現されるようになりました。しかし、利用者目線で見ると、現在ではまだデジタルとリアルのサービスは別のものであり、企業単位でサービスが分断されている状態です。今後、テクノロジーによりリアルとデジタルの境界が取り払われて一体化し、企業横断・業界横断で作り上げられたサービスが主流になっていきます。IBMではそうした近未来を「ボーダーレス時代」と呼んでいます。

ボーダーレス時代に合ったサービスとは、真に利用者の立場になって最適化された体験を伴うものであると同時に、サービスを提供する企業にとっては競争優位の源泉になります。リアルとデジタルの間にあるさまざまな“境界線(ボーダー)”を取り除くためには、次に挙げるテクノロジーの実装が不可欠です。

  • デジタルとリアルを結ぶ技術
  • 組織を超えて繋がり、共創する技術
  • 自律的に判断し最適化する技術
  • IT環境にとらわれないための技術

そして、上記の技術は2025年に普及段階を迎える10の先進ITによって実現できるとIBMは考えます。

IBMの技術リーダーたちが注目する10の先進ITについてはこちらの記事をご参照ください。

先進ITの活用によって変わる保険業界の姿

では、先進ITは保険業界にどのような変化をもたらすのでしょうか。
IBMは、保険業界に大きな3つの変革が起きると考えています。

    1. ヒトを自由に――トータル・エクスペリエンス革命によるリスク窓口の実現

先進ITによるリアルとバーチャルを組み合わせたサービスにより、将来的には時間や場所にとらわれないコンタクトが可能になります。例えば、保険交渉はお客様ごとに区切られたメタバースの個別の空間で行うことができます。さらに、将来の自分の姿をVRで見ることで、自らの健康問題をリアルに考えられるようになります。
代理店・営業担当者にとっても、自由な働き方が可能になり、今まで以上にお客様対応に注力できるようになります。

    1. ヒトを守る――大量・長期・リアルタイムなデータを対象としたリスク分析基盤

現在の「万が一の病気・事故に備える」保険から、「病気・事故に遭わない」ための保険サービスの提供へ変貌します。具体的には、健康診断結果に基づく健康アドバイスが、保険会社からスマートウォッチなど自分のデバイス宛てに送られてきます。これらと連携し、食事や健康状態のデータが蓄積され、収集データを基にした最適なサービスが提供されます。

    1. ヒトが寄り添う――新たな保険サービスを支える業界を超えた共創プラットフォーム

将来的には他業種を巻き込み、業界を超えた共創プラットフォームにより、人々のワーク・ライフ全体をカバーするものになると考えています。
例えば、お客様が病気の診断を受けると、関連した保険サービスや食事のアドバイスが受けられる統合型のサービス形態(健康プラットフォーム)。保険契約の中でレンタカーを借りると、事故発生時に保険サービスが組み込まれている形態(旅プラットフォーム)です。

このように日常的に保険サービスが受けられることで、継続的な契約に結び付けられると考えます。

【先進ITを活用した保険業界変革全体像】先進ITを活用した保険業界変革全体像

業界変革の前に立ちはだかる6つの壁

保険業界で起こる変革の姿(ユースケース)を紹介しましたが、そこに至る道のりは容易ではありません。実現を阻害する6つの壁が存在します。

    1. 組織の壁

トータルな体験の提供には、シームレスなサービス連携・データ連携が必要です。しかし、実際には各々の組織でルールやシステムが異なり、サービスやデータの分断が発生します。

    1. 機会の壁

保険ビジネスの特性上、顧客とのデジタル接点を頻繁に持つことは困難です。デジタル上で商品やサービスを展開する際に接点機会をどう増やすかがポイントです。

    1. マネタイズの壁

変革はコスト削減の施策とは異なるため、効果測定が非常に難しく、企業として取り組みを行う判断がしづらい領域となります。

    1. 学習データの壁、人財・スキルの壁

AI活用のための学習データの質と量の確保ができない、AIを開発する人材が確保できないなどの問題が多く発生しています。

    1. 既存システムの壁

既存システムを活用して、新たな商品やサービスを提供しようとしても、改修にコストと時間が膨大に発生してしまう。変革を行う上で、どのように既存システムを活用するかがポイントとなります。

    1. 管理の壁

より良い顧客体験を提供するためには、データ収集から活用・保全のライフサイクル全般にわたる高いセキュリティー確保と使いやすさの両立の実現が必要です。

変革を支えるシステム・アーキテクチャー

こうした変革実現の壁を乗り越えるため、IBMは既存の基幹システムをデジタル世界に融合させる「ボーダーレス時代のアーキテクチャー」を提唱しています。このシステム・アーキテクチャーは、次の6つの階層で構成されています。

    1. フロントサービス層

営業担当者や代理店などのリアルチャネルと、Webやアプリなどのデジタルチャネルを融合し、お客様に保険会社への最適なチャネルを提供します。また、保険会社は取得したデータを活用してパーソナライズしたサービスを提供し、新たな顧客体験を実現します。

    1. デジタルサービス層

パートナー企業とのボーダーレスな連携、企業を横断したエコシステム全体でのハイパーオートメーションを実現するための共通機能や自動化機能を整備します。

    1. ビジネスサービス層

ビジネスサービス層で求められている安定性と柔軟性の両立を先進ITの活用で実現します。メインフレーム技術で、卓越した安定性・機密性を実現する一方で、基幹系の中にも柔軟性、拡張性、俊敏性が求められる領域もあるため、デジタルスピードに対応可能な基幹系システムを実現します。

    1. パートナー企業との共創/外部連携

他業界とのパートナーシップにより業界を超えたサービスを提供、いわゆる水平分業型ビジネスを実現していく場合、サービスやプラットフォームの連携を可能にします。

    1. データサービス/AIサービス層

あらゆる階層で発生したデータを収集・管理し、そのデータを活用したサービスを企業内のあらゆるチャネル、サービスに提供することが重要となります。さらに、企業間にまたがるデータサービス層を整備し、企業を横断したデータサービスを提供していきます。

    1. プラットフォーム層

マルチクラウド、分散クラウド、クラウド技術をオンプレミスに持ち込むことで、オンプレミスの生産性を高めるクラウドネイティブ・プラットフォーム等の技術を整備します。

【ボーダーレス時代のアーキテクチャー(保険編)】ボーダーレス時代のアーキテクチャー(保険編)

近い将来、リアルとデジタルが一体化する世界がもたらされ、世界中で変革が加速するでしょう。保険業界においても迅速かつ効率的な業務の遂行、業界を超えた他業界との共創などによるさまざまな変革が必要です。IBMは、こうした業界の変化に対応し、変革を推し進めるための先進ITを提供してまいります。

石井 正俊

石井 正俊
日本アイ・ビー・エム株式会社
保険テクノロジー・コンサルティングマネージャ
シニア・アーキテクト

 

木村 和弘

木村 和弘
日本アイ・ビー・エム株式会社
保険デリバリー・アソシエイツマネージャ
シニア・アーキテクト

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