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電機・電子業界における環境負荷可視化の重要性と進め方

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シリーズ「日本の電機・電子業界におけるサステナビリティー」

第2回は、環境負荷可視化の重要性と進め方を紹介しています。

現状

各国や企業において、気候変動リスクに関する情報開示が喫緊の課題となっています。欧州では、大手企業に対して気候変動リスクに関する情報開示を義務付けており、その流れを追う形で、日本の金融庁も日本企業に対し同様の情報開示を義務付けることを検討しています。
具体的には上場企業や非上場企業の一部の約4,000社が提出する有価証券報告書に記載を求める方向で、早ければ2022年3月期の有価証券報告書から開示を義務付ける可能性があります。これに伴い、東京証券取引所は、上場企業の行動規範「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」の改定版を公表し、サステナビリティーに関する取り組みとその適切な開示を促しています。
こうした現状から、炭素排出量を始めとする環境負荷の可視化は、喫緊の取り組み課題となっているのです。

可視化を実現させる4つのステップ

ステップ1「規制遵守(Comply)」
情報の可視化

気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)対応に向けて、気候変動リスクや炭素排出量についての報告が求められている中、規制を遵守するとともに、投資家や様々なステークホルダーの納得が得られる形で情報開示する事がますます必要になっています。
可視化の対象として、まずは各スコープ(Scope 1, Scope 2, Scope3)、次に、工場または工程や設備ごとの炭素排出量、水や廃棄物の排出量に着手する事が開示のために重要です。同時に、履歴や削減率の管理、傾向分析を行うための、データ統合管理基盤の構築、またはその構築に向けたロードマップの策定がより一層重要となります。

Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス), Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出, Scope3:Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)

ステップ2「エンドツーエンド最適化(Optimise)」
サプライチェーンのエンド・ツー・エンドの環境負荷可視化と最適化

サプライチェーンのエンド・ツー・エンドの環境負荷可視化(GHG排出量、電力消費量、再エネ比率、廃棄物量など)を実行し、領域毎に取組課題や削減目標が確定すると、ロードマップが策定されます。
削減目標を確実に達成するために、各製造工程、調達過程、輸送モードなどの見直しをすることはもちろん、環境負荷のデータについても、自動化やIoTを導入することで、精度が高い実績値や予測値を算出する事が重要になります。
更に、エンド・ツー・エンドの環境負荷最適化を考えるためには、分析も実施し、次のステップとなる製品とサービスの刷新にスムーズに移行する事が理想です。

ステップ3「製品とサービスの刷新(Reinvent)」
環境負荷の軽減を織り込んだ製品とサービスの刷新

エンド・ツー・エンドの環境負荷可視化を実現し、企業が自社の製品やサービスの刷新を実施するタイミングでは、現状の製品の環境負荷を少なくするように、製品・製造・物流・消費のそれぞれの過程を再設計する必要があります。
更に、新製品のリリースを見据えて、設計や試作の段階でサステナビリティーを織り込む事を、戦略と業務の中に落とし込む必要があります。
この刷新のフェーズで重要になってくるのは、エンド・ツー・エンドの環境負荷可視化を元にシミュレーションし、設計上の変更が調達、生産、物流などの過程における企業の経済負荷(コストや作業負荷)へのインパクトのみならず、環境負荷へのインパクトについても分析することです。そして最終的には、企業戦略と照らし合わせて統合的な判断が出来るようになる事です。
ここで欠かせないのが、AI技術です。データ分析を補うような業務と運用を設計し、企業自身も刷新する事が重要です。

ステップ4「サステナブル・リーダー(Lead)」
統合的な可視化と社会貢献の実現に向けて業界横断で協業

Reinventの次の段階は、サステナブルという視点を加えて刷新された製品とサービスをより継続的に進化させていく事です。
刷新のフェーズで導入したシミュレーションやデジタル・ツイン技術から、製品のライフサイクルに合わせ、必要となる新技術を付き合わせることが必要となります。個々の製品設計のみならず、新技術を組み込んだ結果の製品やサービスのライフサイクル全体における経済的・環境的インパクトを統合的に評価できる基盤が必要になります。
ここで重要になってくるのは、業界横断的なサステナビリティーの推進です。個々の製品やサービスだけではなく、複数企業または業界横断でサステナビリティーを推進していくステージにおいては、業界横断のプラットフォームや公開データと常時連動しつつ、個々の企業のKPIや開示情報を各種のステークホルダーに提供していく事になります。

結論

上述の通り、可視化の実現には、様々な要素を組み入れ、然るべきステップを踏んでいく必要があります。現状の規制遵守から考えると、リーダーのポジションに至るには、業務・システムともにステップに応じて増強し、変革していく必要があります。企業の最重要視するKPIも変わる事が予想されます。
これらの変革に備え、可視化や可視化の先にあるシミュレーション技術、業界連動のロードマップを常に検討しながら足元の情報開示やステークホルダーとの会話を実施する事が、これからの環境負荷に関する可視化を進める鍵になります。

小野 真理の写真

小野 真理
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部

製造業の戦略やリスク調査、M&A、デジタル・トランスフォメーション(DX)を目的とする、ITシステム導入、ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)、リスク管理などの案件を中心にコンサルティング経験を多数有する。オーストリアと米国のMBAを持ち、米国、日本をはじめとし、東南アジア、欧州、北南米のプロジェクトや赴任経験、また、バーチャルでのプロジェクト推進経験を多数有する。

シリーズ「日本の電機・電子業界におけるサステナビリティー」


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