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公益業界におけるインテリジェント・ワークフロー実現に向けて

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公益業界に訪れている環境変化

公益業界において、生産性向上はいつの時代でも重要な課題であったが、近年その難易度が高まっている。なぜなら、公益業界を取り巻く環境が安定的ではなく、常に変化し、時には急激な業界構造の変化すら生じる世界に変わってきたからである。具体的には規制緩和や、再エネ・VPPなどの新領域、自由化領域における消費者ニーズの変化など、公益事業者が取り組むべき新たな課題には枚挙に遑がない。

一方で、公益業界の社内の仕組みは、安定的な業界に根ざした信頼性の高いものであったが、上記のような環境が大きく変化し続ける状況においては、硬直性といった負の側面が際立つ場合も増えてきている。極めて広範なお客さまに画一的なサービス提供を想定した業務・システムは、極めて巨大かつ複雑であり、軽微な業務見直しであっても、基幹システムの改修は、一朝一夕には対応しにくい状況でもあった。このような状況においては、小さな業務見直しが効率性を高める可能性があっても、システム改修の困難さから、非効率な業務を甘受し続けるか、業務変更部分を人手による対応としてでも効率化を追求するか、といった判断が迫られることもあった。つまり、ワークフローを変更するということは、非常に大きなハードルがあった。

2018年に発表された「経産省のデジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)レポート」をご覧になられた方も多いと思うが、その中でも現行システムの維持費に8割のコストが使われており、本来成長させたい分野には2割しかコストを割けていないという現実が述べられている。公益業界においても例外ではなく、既存システムの維持に多くのITリソースが割かれ、基幹システムの改修による業務効率化は限定的にならざるを得ない状況ともなっていると言われる。

このような中で、近年、柔軟な対応が迫られる業務ニーズと、小回りがききにくい基幹システムとの双方をつなぐ仕組みとしてDXツールの活用に注目している。それは、一部の手作業を単に代替するRPAの活用と言った、いわゆるデジタル化(DXの“D”のみ)だけではなく、業務そのものあり方を変えるトランスフォーメーション(DXの“X”)としてのDXツールの利用である。ツールを駆使することにより、業務を新たな発想で再構築するといったトランスフォーメーションにもつなげうることによって、ワークフローに対する考え方自体を変えられると思っている。それがDX時代における「インテリジェント・ワークフロー」という考え方だ。

インテリジェント・ワークフローとは何か?

インテリジェント・ワークフローとは、これまでの基幹システムに実装されたワークフローをすぐには変更できないものとして静的と捉えた場合、それとは対照的に、業界環境の変化や新たな効率化余地に柔軟に対応しうる動的なワークフローである。静的な世界においては、業務は一度定義すると容易には変えられないものであり、例えばそれはシステム導入時においてベストプラクティスと言われていた「世界的なパッケージソフトの導入」にて代表されるような仕組みであった。それに対してインテリジェント・ワークフローとは、その時に存在するDXツールを自在に操りながら、最も効率的なワークフローに変化し続けられる仕組みである。

現時点で有力な実現方法は、2つほど考えられており、IBMではすでに実現させて頂いた事例も生まれている。1つは、大規模基幹システムの外側で、別途ワークフローを管理させるという考え方であり、ビジネス・プロセス・マネジメント(BPM)ツールを活用する(図1を参照)。例えば、送配電事業においては通常、送・配・変、それぞれで個別のシステムを有し管理している。従って、例えば系統に関する横串横断の業務プロセスを最適化しようとした場合、各システムそれぞれと連携を取る新たなシステムの開発(もしくは既存システムの改修)が必要となる可能性があり、各部署の了解を得るだけでなく、多くの既存システムに影響を及ぼすことが、実現に向けた障壁だった。これに対して、BPMを活用することによって、ワークフローをDXツール側に持たせ、データのやり取りだけを基幹システムと行うことによって、業務を柔軟に変えられるだけでなく、基幹システムへの影響も最小限に抑えられる可能性が出てきた。これによって、基幹システムへの影響から躊躇されてきたワークフローのこまめな変更に対する実現可能性が、大いに高まることとなった。

もう1つが、基幹システムがカバーする領域をある程度限定し、DXツールで担える領域は、率先してDXツールでの対応を前提とするという考え方だ。DXツールも、年々、高度化、多様性を増しており、現時点でのDXツールを活用した最適な業務は、数年後には最適ではないかもわからない。そのような状況も想定した上で、今後様々なDXツールが新たに出てきた場合でも、それと接続して活用できるような仕組みとしておけないかという考え方だ(図2を参照)。これまでの電力業界における基幹システムは安心・安全という観点も踏まえると、安定的に同じ処理にするための仕掛けが必要ため、しっかり定義できていること、不用意に変更できないことなど、DXとは反対の視点が重視されていた。しかし、今後は柔軟な対応が必要な部分は周辺のソリューションで実現し、基幹システムはできるだけ小さくするという考え方も増えてくるのではないかと思う。

インテリジェント・ワークフローの実現方法を説明する図1と図2

これまで述べきた実現方法において示唆される点は、インテリジェント・ワークフローとは、最適・あるべきワークフローというもの自身が常に変化し続ける中において、常にそれを実装・運営し続けられる状況を作り出せることである。

例えて言えば、ワークフロー自身が、自ら意思を持ち、現状発揮されている業務の効率性に対する問題および世の中で活用可能な最新DXツールを想定した上で、ベストと思われるワークフローに次々と変化(進化)していけるような姿であり、まさにワークフローが知性(インテリジェント)を持っているかのような状態である(実際、ワークフローが業務の状態を見ながら、自動で切り替えられるツールなども出てきている)。

まとめ

これからの時代、あるべき業務を何年かけて議論したとしても、環境変化の早さによってその結果は打ち消されてしまう(すでに“あるべきではない”)かもしれない。重要なのは、最初から完璧なワークフローを作ることを目指すのではなく、その時々の状況を勘案しながら、変化に柔軟に対応し、常によりよいワークフローに高度化し続けられる環境を整備することなのではないか。インテリジェント・ワークフローはそれを実現する中心となる概念であり、これにより、公益業界の業務効率が、更に一段高まることを期待したい。


インテリジェント・ワークフロー・ソリューション
エネルギー・公益事業テクノロジー・ソリューション

記事の著者

櫻井 奈津実
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
公益サービス営業部


永和 優
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
公益デジタル変革ソリューション部
マネージング・コンサルタント

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