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進まない物流DX 。その原因と物流クライシス対策のすすめ

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物流クライシスとは

「物流クライシス」という言葉を聞かれたことがあるでしょうか。日本では近年、高齢化によるトラックドライバーの労働人口不足や「物流の2024年問題」などを背景に物流危機が起きる可能性があると言われています。

物流の2024年問題:働き方改革関連法によって、2024年4月1日から自動車運転業務における時間外労働時間の上限規制が適用され、トラックドライバーの年間960時間に制限されることで生じる諸問題。

このような物流を取り巻く現状と課題は今に始まったことではなく、ここ数年至る所で何度も取り上げられており、持続可能な物流をどのように構築していくか各社で議論が進められてきています。

国土交通省においても、令和3年6月に閣議決定された「総合物流施策大綱(2021年度〜2025年度)」の中で、取り組むべき施策として「物流DXや物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化(簡素で滑らかな物流の実現)」が挙げられ、物流の効率化に向けた自動化や荷主・物流事業者等の関係者の連携・協働を円滑化するための環境整備を推進しています。

ここで言われている物流DXとは「機械化・デジタル化を通じて物流のこれまでのあり方を変革すること」と定義されており、主な取組例を下記のように挙げられています。

物流分野の機械化

  • 幹線輸送の自動化・機械化
  • ラストワンマイル配送の効率化
  • 庫内作業の自動化・機械化

物流のデジタル化

  • AIを活用したオペレーションの効率化
  • 荷物とトラック・倉庫のマッチングシステム
  • SIP物流(物流・商流データ)や港湾関連データ連携基盤

また、物流DXを目指して機械化・デジタル化に取り組みたい中小企業でも活用できるものづくり補助金(上限1,000万円)、IT導入補助金(上限450万円)、持続化補助金(上限50万円)など支援メニューが経済産業省などから用意されており、物流危機を乗り越えるため国を挙げて活動を推進しています。

進まない物流DXの実状

このような環境下の中で「DX」と名が付く組織を立ち上げ積極的に取組を行っている企業が多くなってきました。弊社にも「どのようにDXを進めたらよいか」というご相談を多数いただきDX推進のお手伝いをさせていただいております。

製造領域ではスマートファクトリーとして生産ラインの自動化やIoTによる情報の可視化が進んでいますが、物流領域であるスマートロジスティクスの世界ではAGV(Automatic Guided Vehicle:無人搬送車)を利用した自動搬送、AIを利用した在庫補充計画、倉庫内要員計画、輸配送計画などPoC(Proof of Concept)までは実施するも実運用までには至っていないのが現実です。

実運用されない理由として投資対効果が数字で表せずに経営層からの承認がもらえないことが挙げられます。

例えば物流領域における自動化では、物流センター内の7つムダ「歩く」「探す」「照合する」「待つ」「考える」「書く」「2人でする」の中で作業内訳の割合が高い「歩く」から取り組まれるケースが多く(60%が歩行と言われている)、その中で工程間の搬送の自動化ではAGVの導入を検討されています。
AGVを利用した自動搬送では転倒や荷物の転落を防止するために30m/分〜50m/分の速度設定で走行試験をします。(200m/分というAGVも存在しますが、コーナーでの転倒や衝突事故のリスクがあり現場の安全を考えると実用が厳しいと思われます)

それでは人はどれくらいの速度で歩いているのでしょうか。不動産などに表示されている「徒歩何分」は「徒歩1分=80m」という基準があり、この基準から見るとAGVは人の歩く速度より遅くなります。また、人は自身の判断で速度を変更することが可能で、搬送元に荷物が滞留してボトルネックとなっていれば、走ることにより速度を調整して生産性を上げることが可能です。
搬送作業の自動を目的としてPoCを実施すると、人が搬送するよりAGVの方が遅いため、生産性が落ちるという結論になってしまいます。結果投資対効果が出ないと現場から声が聞こえ、実運用に進んでいないことが多いです。

果たして本当に生産性が落ちるのでしょうか。搬送という部分的なプロセスを見たらそうかもしれません。前後のプロセス、例えば、組立作業を前工程とし完成品が溜まったら出荷現場まで搬送、後工程で梱包するという全体的なプロセスがあったとするならば、搬送する部分が自動化されれば、搬送作業の時間を組立作業に回すことにより全体の生産性は向上します。もしかしたら梱包作業の現場で完成品が届くまで発生している待ち時間も解消されるかもしれません。

このように全体的なプロセスから組立作業の生産性は上がり、「歩く」というムダだけではなく後工程の「待つ」ムダも解消され、投資対効果が大きくなると予測できます。
PoCの実施をする時は「どこに影響があるのか」「効果があるのか」を定義して進めること、まずはPoCをやってみてその結果から検討するのではなく、仮説検証をすることが重要になります。

「物流クライシス」が本当に来るかどうかはわかりませんが、その備えのために実用できる物流DXをぜひ進めてください。

猿渡 一仁

猿渡 一仁
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
コンシューマー事業

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