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IBM ResearchがThink 2023で披露した技術のすべて

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IBM最大のイベント「Think」が5月にフロリダ州オーランドで開催されました。この週に行われた大型の製品発表の多くは、IBMの研究所から始まったものです。

 

Think 2023のステージで、生成AIとwatsonx.aiの未来について説明するIBM上級副社長兼リサーチ・ディレクターDario Gil

 

IBMは5月にフロリダ州オーランドで「Think」を開催しました。この年次のイベントは、ビジネスとテクノロジーに携わるリーダーが集まり、直面する最も重大な課題に対する解決策を見出すためのIBM最大のイベントです。このカンファレンスでIBMは、スタジオ、データストア、ガバナンスのためのツールキットを含む基盤モデルと生成AIのための新しいプラットフォームであるwatsonxをはじめ、たくさんの新技術を発表しましたが、その多くはIBM Research発の技術でした。その中でも最大の発表は、利用可能な最新のAIツールやテクノロジーとIBMテクノロジーを結合するwatsonx.aiを発表したことでしょう。watsonx.aiは信頼できるデータを用いて、個々のタスクに合わせたAI基盤モデルの調整を可能にすることで、大きな規模で企業に価値を提供します。watsonx.aiには、IBMの研究者によって設計または構築された多くのAIモデルや開発スタジオ・ツールが含まれており、それらが今年のThinkのショーフロアに展示されました。

今年のThinkでIBM Researchのチームが披露した技術の全貌を紹介します:

watsonx.ai

ThinkでIBMのCEOであるArvind Krishnaの基調講演の一部として発表されたwatsonx.aiは、IBMの信頼できる基盤モデルの厳選されたライブラリーを搭載するだけでなく、Hugging Faceのモデルをはじめ最新かつ最高のオープンソースモデルで補完されています。このプラットフォームを利用することによって企業のさまざまな課題に対して、生成AIソフトウェアを簡単に実験、調整、展開することができます。

watsonx.aiテックプレビュー・プログラムにご興味がある方は、こちらをクリックしてウェイティングリストにご登録ください。また、watsonx.aiの詳細はこちらをご覧ください。また、IBM上級副社長兼リサーチ・ディレクターのDario GilがThinkの基調講演でwatsonx.aiの中身を紹介する様子を以下でご覧いただけます:

 

(クリック/タップで別画面にて動画が表示されます)

 

AIの力を気候変動対策に生かす

今年初めにIBMは、地理空間データの基盤モデルを作成するためにNASAと提携を行いました。基盤モデルは、NASAが一般に公開している衛星画像などのリモート・センシングデータで学習します。Prithviと呼ばれる最初のモデル群は、地表の表面反射率を30mの解像度で観測したHarmonized Landsat Sentinel人工衛星のデータセットで学習されています。

IBMが提供するwatsonx.ai地理空間サービスの一部であるこのモデルは、2023年後半にIBM Environmental Intelligence Suite(EIS)を通じてIBMのお客様にプレビュー提供される予定です。このモデルは、農作物、建物、そのほかのインフラに対する気候関連のリスクの推定や、カーボンオフセット・プログラムのための森林の現状評価とモニタリング、そして洪水や山火事など気候変動による災害を軽減し適応するための戦略を企業が作成するための予測モデルの開発などに役立つと考えられます。

Thinkのショーフロアでは、IBMの研究者が地理空間データを可視化するためのインターフェースを披露しました。この技術についての詳細はこちら

耐量子化による安全性を確保した未来へ

IBMは、2020年代の終わりまでに、実用的な量子コンピューターが、企業のコンピューティング戦略に対する考え方に影響を与え始めると考えています。また、量子コンピューターは、オンライン上のあらゆるものの安全性を大きく変えるでしょう。従来の暗号化手法は、未来の量子システムには簡単に破られる可能性があります。今こそ、量子コンピューターの脅威から企業を守る方法を考える時です。

IBM Researchは、量子コンピューティングの最先端を常に押し進めるとともに、将来起こりうる量子の脅威からシステムを確実に保護することにも取り組んでいます。今年のThinkでは、耐量子のロードマップを発表しました。これは、量子コンピューティングが利用できる未来に必要なサイバーセキュリティー能力を企業が確保するために、私たちがどのように技術を活用する計画なのかを示しています。そしてIBM Quantum Safeテクノロジーのデモも披露しました。これは、組織を「量子的に」安全にするために設計されたツールのセットです。キットには、IBM Quantum Safe Explorerコード解析、IBM Quantum Safe Advisor、IBM Quantum Safe Remediatorなどのツールが含まれます。

耐量子システムおよびツールの将来のロードマップの詳細については、こちらのブログをご覧ください。

エンジニアのソフトウェアコーディングの高速化を支援する生成AI

ソフトウェアを書くには時間がかかり、身につけるのが難しい深い専門知識が必要です。もし、AIがソフトウェア・エンジニアの仕事をより早く終わらせる手助けができるとしたらどうでしょうか?平易な英語をコードに翻訳することができたらどうでしょう?IBM Watson Code Assistantは、watsonx.aiの基盤モデルを搭載しており、あらゆるスキルレベルの開発者を支援します。Visual Studio Codeのようなソースコードエディターに希望のコーディング作業を文章で入力すると、Watson Code Assistantはプログラムコードのレコメンドを返します。詳しくはこちらをご覧ください。

エッジでの基盤モデルの高速かつ安全なデリバリー

今日、かなりのコンピューティングが、エッジにあるスマートフォンで行われていると言うことができます。しかし、エッジ環境で基盤モデルを利用しようとすると、時間がかかったり、データのプライバシーに関する規則により複雑な処理が必要になることがあります。私たちのデリバリーモデルは、この2つの課題に対応しています。データが生成される場所の近くに基盤モデルを配置することで、レイテンシーを下げ、ほぼ瞬時に予測ができるようにします。また、最新のデータ・プライバシー・ルールに準拠するような設定を行なっています。

watsonx.aiは、エッジで基盤モデルを、数週間ではなく数時間で作成することを可能にします。モデルの事前学習をクラウドで行えば、大量のオープンデータと、IBMがライセンスする業界データを活用することができます。また、クラウドの利用は、精度向上のためのモデルの継続的更新を可能にします。

デュベンドルフ空軍基地、チューリッヒ州や他の企業で、基盤モデルスタックを使ってエッジの外観検査を実施した事例をリンク先ではご紹介しています。

セキュリティー脅威をより的確に検知

セキュリティーアナリストは、毎日さまざまなアラートを調査しています。その多くは、疑わしいIPアドレス、ドメイン名、またはファイルハッシュによって生成されたものです。しかし、それでも多くの脅威がすり抜けてしまうのです。過去のセキュリティーインシデントを基に基盤モデルを学習することで、以前は気づかなかった警告サインを検出できるようになりました。セキュリティーモデルに応用したwatsonx.aiが、流れてくるネットワーク・アクティビティーを監視し、悪意のある攻撃の兆候かもしれない異常なプロセスや行動を探します。

AIで接客を改善する

「がむしゃらに働くより賢く働け」という古い言葉があります。会話型AIプラットフォームであるWatson Assistantの最新バージョンは、そんな考え方に基づき、watsonx.aiの大規模言語基盤モデルを搭載することで従業員の生産性を高めながら、お客様により良い体験を提供することができるようになりました。そしてWatson Assistantだけでなく、IBMはWatson Discoveryのすべてのデジタルレイバー製品に新しい大規模言語モデル技術を組み込んで、企業が生産性を向上させ、顧客のためにさらなる価値を生み出すことを支援しています。Watson Assistantの詳細はこちらをご覧ください。

信頼できる企業向けデータのワンストップショッピング

データは現代のAIを動かす燃料ですが、さまざまな制約のある異なるソースからのデータを管理することは、企業が直面するAI導入の最大の障壁の1つです。Thinkで発表されたwatsonxのもう一つの柱は、このプロセスを簡素化するwatsonx.dataです。これは、従来のデータウェアハウスの半分のコストで、オンプレミスと複数のクラウドの両方でワークロードを管理できる、業界唯一のデータストア製品です。また、組み込みのガバナンスと自動化、そして組織独自のデータやツールとの統合機能を提供し、watsonxを簡単にセットアップして使用できるようにしています。詳しくはこちらをご覧ください。

ITオペレーションを俯瞰する

IT環境は複雑で多様であるため、管理者がシステムの全体像を把握することは困難です。ここで,コードと自然言語のための基盤モデルが役に立ちます。IBMはwatsonxにより、IT運用とサイト・リライアビリティーの両方の管理者が、システム全体を見渡し、迅速かつ費用対効果の高い方法でインシデントを解決できるようにすることで、ITOps自動化に取り組んでいます。詳しくはこちらをご覧ください。

これからのAIモデルの基盤

ここ1年は、AIの研究開発にとって記念碑的な1年であり、私たちは、まさにあらゆる業界を根底から覆す生成AIの可能性を初めて垣間見たと言えるでしょう。

IBMでは、「1つのモデルがすべてを支配する」ようになるのではなく、特定のユースケースに対してさまざまな方法でチューニングされたモデルが必要になると考えています。私たちは、言語、地理空間画像、プログラムコード、化学、その他多くのモダリティのモデルを開発しています。また、Hugging Faceと提携し、多様なオープンソースAIコミュニティーにwatsonxがアクセスできるようにしています。企業における生成AIの未来について知っていただくために、今年のThinkカンファレンスの締めくくりとして、IBMのDario GilとHugging Faceの共同創業者兼CEOのClem Delangueがwatsonxの可能性について議論する様子をご覧ください。

 

この記事は英語版IBM Researchブログ「Building a foundation for the future of AI models」(2023年5月12日公開)、「Everything IBM Research showed off at Think 2023」(2023年5月19日公開)を翻訳し一部更新したものです。

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