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クラウドのコスト増にどう対応するか:CIOガイド

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クラウドのコストは上昇の一途をたどっており、利益率、収益、総売上原価に影響を与えています。組織の拡大に合わせて、効率アップを達成することが不可欠です。

直近のIBM Institute for Business Valueレポートでは、ステークホルダーの79%が、デジタル化実現に向けて最優先で取り入れるべきなのは包括的かつ高度なクラウド機能であると述べています。多くの企業は、クラウドの利点を活用するためにハイブリッド、マルチクラウドのアプローチに軸足を移しつつあります。

しかし、ITファイナンスへの従来のアプローチはもはや目的を果たせず、再評価と再設計を行う必要があります。

IBMレポート「クラウドの次なる飛躍:トランスフォーメーションでビジネス価値を生み出すには」を読む →

古いITファイナンス戦略ではなぜうまく行かないのか

クラウドのコストの高騰と価値の低下は、CIOにとって非常に困難な状況を生み出しており、ITファイナンスとIT調達を管理するための従来のアプローチでは限界が来ていることが明らかになっています。クラウドでは、四半期に1度必要だった資本計画と予算編成はもはや不要となっており、サービスの調達や消費について1時間単位、あるいは1秒単位で注意を払う必要があります。ITファイナンス・チームが集まって打ち合わせを行うまでの間に、会社の経済状況はすでに変化しています。

新しいハイブリッドクラウド環境では、経済面における企業の意思決定を統合した形で財務管理が実施されます。インフラストラクチャー、開発、ITファイナンスの各チームの間でしか機能しない、サイロ型の古い手法はもはや通用しません。

財務管理はガバナンスから押し出されて実際の業務(オペレーション)に移行しており、そこでエンジニアと財務部門が一体となって行動し、早い段階で頻繁に協業が実施されています。ITエコノミクスに関する知識は、ITのあらゆる局面で重要な役割を果たします。調達プロセスは自動化され、契約はベンダーの適応力が発揮できるように構築されています。

プロセス、組織文化、新しい習慣を確立し、すべてのクラウドを完全に可視化するFinOpsは、今後のビジネスに不可欠です。FinOpsでは、運用指標とビジネス成果が重要視されます。まずコスト回避、次に最適化ということです。

コスト増に対応するためにCIOにできることは多いものの、単独で達成できることには限界があります。ITチームや財務チーム、調達チーム、ひいては企業全体がひとつにまとまったとき、CIOの努力が最も報われることになるでしょう。

イノベーションの値札

クラウドがもたらす数多くのメリットを享受していても、クラウド・コンピューティングの実際のコスト管理は難しい場合があります。Gartnerのレポートによると、IBMを導入しているインフラストラクチャーおよび運用部門のリーダー企業の60%以上で、パブリッククラウドの著しいコスト超過のために予算に悪影響が出ているとのことです。

クラウドが持つ経済面での魅力は、移行、モダナイゼーション、プラットフォーム構築などにかかるコストによって薄まってしまう可能性があります。クラウドによってさらなるサービス向上を望む声が高まり、そのサービスの価格も徐々に上昇しているため、企業はコスト削減の機会を失ってしまう場合もあります。デジタル・トランスフォーメーションを進めるイニシアチブは多くの場合、明確なクラウド統合なしに進行するため、ワークロード移行計画はクラウド戦略と混同されてしまう可能性もあります。さらに、クラウド・スイートを活用するために必要な運用上の変更を実施せずにクラウド技術を実装している企業もあります。

IBMレポートでさらに明らかになった点は、経営幹部の79%が、複数のクラウドで実行されるクラウドのコスト管理ツールを非常に重視しており、不必要なコストを回避することによってクラウドの価値を最大化しているということです。

クラウドのコストへの対処が各社の経営陣の議題に上っているのも不思議ではありません。2021年の予測では、IT支出に占めるクラウドの割合は2024年までに5%増加し、ハイブリッドとマルチクラウドだけでIT支出の17%を占めると見られています。回答した経営幹部は、自社企業が2023年までに10種以上のクラウドを運用するだろうと予想しており、2020年の8種類からさらに増加しています。

こうした経済の観点からの転換は重要です。クラウドは、導入後の最初の数カ月の間は、アジリティー、食べ放題ビュッフェのようなサービスへのアクセス、インフラストラクチャーへの即時アクセス、新しいデジタル製品の提供などを約束し、金銭的価値をもたらします。しかし、適切なガードレールの導入やプロセスの変更もなしに、急速にクラウドを採用してクラウド・ベースの製品をスケーリングしてしまうと、クラウドが持つとされているメリットが相殺され、マージンに過度の縮小圧力がかかることになります。

クラウド神話にうまく対処する

では、なぜクラウドのコストが上昇しているのでしょうか。答えは1つではありません。クラウド全体でさまざまなサービスを展開したいという開発者の需要や自由度が高まっていることは、明らかに大きな原動力の1つです。しかし、「パブリッククラウド」神話はまた別の話です(インフラストラクチャーのオーバーホールを進めるには、適切なクラウドと適切なワークロードを見つける方が得策です)。

さらに、無数のサービス、複雑で紛らわしい価格設定モデル、予想外の値上げ、新規開発の規模拡大といった要因のすべてが、コストを管理しづらくしています。

適切なコスト管理が行われない「パブリッククラウドへのオールイン」によって総売上原価が上昇していることに注目するCFOが増えています。多くの企業は、アプリケーションを確実かつ「最適に」配置するための1つの手法として、ハイブリッドクラウド戦略の追求を始めています。アプリケーションを最適に配置することで、全体的な総所有コストを削減することが可能になります。

ビジネスの成長は規模の拡大に伴って減速することが多く、業務効率の向上は、公開市場における企業の価値を決める重要な要因となります。

戦略の立て直し

何十年にもわたって従来のITファイナンスの手法を実践してきた場合、それを断ち切るのは難しい場合もあるでしょう。テクノロジーが企業のバランスシートに与える影響を詳細に可視化するには、さまざまなソリューションを取り揃えたポートフォリオが必要です。

このような取り組みを設計し、実施するときは、短期的活動、中期的活動、長期的活動という、主に3つのブロックに分けて考えることが有用です。

短期的活動(今後60日)

どんな組織にとっても最初のステップとなるのは、クラウドだけでなくテクノロジー計画全体に至るまで、IT運用の実際の基礎となるコストを総合的に理解することです。例えば、ある大手ライフ・サイエンス企業では、専任のデータ・サイエンティストを採用して、クラウドネイティブの請求ツールからの出力結果を徹底的に分析しています。このデータをもとに、開発チームの支出における異常値、ひいては「悪しき行動」へとつながる値について、コンポーネントごとの詳細な資料を作成しています。

企業はまた、ITファイナンス、調達、開発の各チームにサード・パーティーのオブザーバー(チーム内外の人員)を組み込み、既存のワークフローのプロセスと欠陥をマッピングする必要もあります。チームのリーダーはこの情報をもとに、将来のITファイナンス戦略、ベンダー管理戦略、最適化の機会を工夫します。また、例えば一定期間アイドル状態になったリソースを自動的にシャットダウンするなど、クラウド環境の運用方法をすばやく変更することで、コストを迅速に削減する機会を特定することも考えられます。

中期的活動(今後6カ月)

こうした手法を経て、リーダーは財務管理に関する内部ワークフローとプロセス(つまりコストを追跡、集計、警告し、ビジネス・オーナーや開発チーム、経営陣に報告する方法)を再設計し、再構築する取り組みを強化します。そのためには、従来の戦略のほかに新しい機能を構築する必要があります。これによってチャージバックを実現している企業や、基本予算と予算を調整する方法を確立している企業もあるでしょう。最も重要なのは、ITチーム全体でFinOpsの「腕力」とクラウド経済学の知識を構築する必要があるという点です。

CIOは、新しい機能やプロセスを構築することにより、IT業務や財務業務を段階的に改善することができます。IBMのお客様である、とある銀行は、ITファイナンス機能全体を再設計して、新しいクラウドFinOps機能を20種類も立ち上げ、エクストリーム・オートメーション、AIまたはマシン・ラーニング、および高度なアナリティクスを活用しています。このソリューションを利用することで、同行はアプリケーションやシステムの機能に影響を与えずに、クラウド導入のコスト効率を30%も向上させました。

IT部門の社員全員を再教育してFinOpsに精通させることも重要です。例えば、ある生物医学研究機関は、開発者、製品所有者、ビジネス・アナリスト、および財務アナリストをトレーニングする目的で、FinOpsアカデミーを設立し、ITエコノミクスに関する継続的な教育を行う専用リソースを開設しました。

また、最新のFinOpsとオブザーバビリティー(可観測性)・ツールを利用することで、コスト管理をさらに強化して「単一画面」の管理コンソールを確立するアプローチも考えられます。ただし、常に優先すべきなのは再設計プロセスの方です。ツールでできることは、バラバラで複雑なクラウドネイティブの課金システムへの依存を減らすことのみだからです。

長期的活動(今後1~2年)

長期的には、ITファイナンスのプロセス管理や多くのエンジニアリング・チームとの調整よりも、新製品の開発や企業の変革といった重要な取り組みに集中したいと考える企業が多いでしょう。このプロセスは、社内のFinOpsとマネージド・サービスに関する意思決定の評価を見直すことから始まります。

急速に拡大し続けるクラウド展開、数十億行に及ぶこともあるクラウド請求書、クラウド・プロバイダーのサービス全体にわたって変化し続ける複雑性や価格モデルなどは、新しいITファイナンス戦略の実施手法にすでに変化をもたらしています。プロセスの制御や監視を維持しつつサード・パーティーのFinOps専門家をチームに迎える「two-in-a-box」モデルを選択する企業もあります。また、SAPやWorkdayなどの既存のシステムを利用しながら、IT、財務、調達の各チームの架け橋を構築する能力を持った技術コンサルタントにFinOps機能をアウトソーシングする企業もあります。

ストを回避しつつクラウドの価値を最大化

クラウドの定着が進む中で、企業は利益率を維持し、確立された市場で競争力を維持し、運用効率を向上させる必要があります。そこで中心的な役割を果たすのがCIOです。新世代のCIOは、チームがITエコノミクスを念頭に置いた新たなクラウド・ソリューションを構築する手法に決定的な変革をもたらします。ITファイナンス管理が職場のあらゆる局面に浸透するにつれて、利益率を維持して総売上原価を削減することが、CIOにとっての最大のミッションになります。

コスト削減の取り組みは、ワークロードの適切な配置から始まります。CIOは、ハイブリッドクラウドによって、求められるパフォーマンスを発揮しつつコストを抑えることが可能になるため、ハイブリッドクラウドに関する議論が活発化しています。製品、エンジニアリング、調達、および財務の各チームは、テクノロジー計画全体にわたる正確なコスト・モデル、統合ツール、オブザーバビリティーを導入することで、可能な限りのコスト削減を行い、CEO、取締役会、さらには金融市場が期待するビジネス価値を実現するためのアプローチを得ることが可能になります。

クラウド戦略は始まりに過ぎません。
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この投稿は2022年8月10日に米国Cloud Blogに掲載された記事 (英語) の抄訳です。

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