IBM Future Design Lab.

「議論」の先へ。新価値創造のためのアクション | IBM Future Design Lab. 天城未来デザイン会議

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2022年9月、IBM天城ホームステッドにて2日間かけて開催された
「IBM Future Design Lab. 天城未来デザイン会議」。

「2035年の未来」を見据え、幅広い領域の専門家の皆様と一緒になって、テーマごとに様々な議論が繰り広げられました。
今回は、「天城未来デザイン会議」に実際にご参加いただいた株式会社HEART CATCH代表取締役、西村真里子氏に詳細レポートを執筆いただきます。

西村 真里子
筆者:株式会社HEART CATCH 代表取締役 西村 真里子氏
国際基督教大学卒。日本アイ・ビー・エムでITエンジニアとしてキャリアをスタート。その後、アドビシステムズでフィールドマーケティングマネージャー、バスキュールでプロデューサーを経て2014年に株式会社HEART CATCH設立。ビジネス・クリエイティブ・テクノロジーをつなぐ“分野を越境するプロデューサー”として自社、スタートアップ、企業、官公庁プロジェクトを生み出している。2020年には米国ロサンゼルスにHEART CATCH LAを設立し、米国でのプロジェクトも進めている。
J-Startupサポート企業、Art Thinking Improbable Workshop Executive Producer 、内閣府日本オープンイノベーション大賞専門委員会委員、経産省第4次産業革命クリエイティブ研究会委員、武蔵野美術大学 大学院 クリエイティブイノベーション学科研究室 非常勤講師。

 

「議論」の先へ。

私たちは、もう、「議論」だけでは満足・安心できない人間になってきている。議論の先の行動が見えないと、その議論自体の価値が薄れるような感覚になる。

かといって、独りよがりの思想に縋った行動だけではインパクトが出せないことも重々承知している。それでは、どのような「議論」がいま望まれるのか?

英語の「議論」、 discuss ディスカスの語源であるラテン語discutereは以下の意味を持つそうである。

dis – 離れた

quatere – 振る/混ぜる

ラテン語の語源は「粉々に砕く」から「散らばる」へと進み、その後古典時代以降は 関係する精神的プロセスを介して「調べる」、そして「討論する・議論する」ようになったようだ。

(参照:https://www.etymonline.com/search?q=discuss

古典時代以降の”精神的プロセス”がどのようなものなのか?気になるところでもあるが、このラテン語の進化を見るに「議論」のプロセスとしては、議論テーマを粉々に砕いてから、調べ、議論するのがそもそもの目的でもありそうである。

また、”dis-離れた”価値観を有する人を集めることも、議論を推し進める作用としては効果的かと思われる。多様性が叫ばれている昨今ではあるが、”離れた”モノやコト、ヒトを集めることが議論を有意義に推進する作用をもたらすとは、ラテン時代から理解されていたことなのではあるまいか。

 

 

 2022年9月に開催したIBM Future Design Lab.「天城未来デザイン会議」では、普段交わらない“離れた”空間で生きている、医師、公務員、会社役員、デザイナー、エンジニア、研究者、テレビプロデューサーに集まってもらい、一度“粉々に砕くべき”価値観を話し合った。

 

粉々に砕くべき価値観とは「消費」「働く」「暮らし方」である。

  • いつまでも消費は消費のままなのか?消費は生産プロセスの一部となりえないのか?
  • AI/Robotによる労働の代替がおきる2035年以降を考えると「働き方改革」ではなく「働く価値」改革が必要なのではないか?
  • バーチャル空間の浸透による「暮らし方」はどのように変わるのか?

※議論のターゲット時代は2035年

 

参加者は以下、普段は “dis-離れた” 場所で活動しているメンバーで、グループに分かれて新たな価値観を議論した。

大村 寛子    ヤマハ株式会社

河合 祐子    Japan Digital Design株式会社

杉本 直也    静岡県

須田 万勢    諏訪中央病院 /聖路加国際病院

関 治之    一般社団法人コード・フォー・ジャパン

瀧本 陽一    浜松市

田子 學    株式会社エムテド

谷本 有香    Forbes JAPAN

土屋 敏男    日本テレビ放送網

戸村 朝子    ソニーグループ株式会社

中西 裕子    株式会社資生堂

西村 真里子    株式会社HEART CATCH

 

IBM / IBM Future Design Lab.

大前もえ、落合和正、風口悦子、金子達哉、岸本拓磨、末廣英之、須藤裕理、高木隆、高荷力、藤森慶太、古長由里子、堀越諒太、村澤賢一、矢野裕佳、八木橋昌也、山田龍平

 

一泊二日の短い時間での議論、しかも、初対面の人ばかりの議論の場の設定としてIBM高荷氏より行動指針として提示されたのは“探求と開示の徹底”である。他の人の意見を興味深く探求していくと同時に、自分の意見も開示していく。各人が自分の貫く姿勢を表明することが不透明な時代を生き抜く態度(Attitude)として必要なのだ。

冒頭で提示した「議論」だけでは安心できないという人間にとって、他人との議論の場において「自分の姿勢を表明する」というのも、議論の前提として必須であることを認識させられる。

 

 さて、一泊二日の議論の結果、今後の行動指針となりうるヒントが生み出された。

【新たな「消費」を考える】

消費について議論したグループがたどり着いたのが「マテリアルマネジメント」という考えである。消費のインターフェイスをマテリアル=素材単位で考え直すことにより、消費が単なる浪費ではなく、次への循環へとつながって行くというアプローチである。そのためには、エネルギー、食、地域、教育、下水・インフラなど現在個別に消費しているプロセスを統合し消費の全貌をデータなどで管理できるような仕組みも必要となってくる。Discussionのラテン語語源にある「粉々に砕く」アプローチを行ったかのように、マテリアル=素材レベルで考え直すことが「消費」を捉え直す上では必要そうである。グループファシリテーターであったエムテド田子學氏が三井化学と組んで取り組んでいる活動はまさに素材レベルで生活を考え直すアプローチのようで、いままで「製品」の裏に隠れていた「素材」が見える化することにより、消費行動が変わることとなりそうである。

 

【新たな「働く」を考える】

IBMの落合和正氏によると2035年にはテクノロジーが変わり(6G, AI, IoT…)、産業の垣根が超越され、リアルとデジタルが融合する時代となり、その結果働き方、経済、価値観が変わると予想される。そのような時代の「働く」は生活のための労働(for the rice)から、ライフスタイルとしての働く(for the life)を経て、人を喜ばせるために働く(for the right)ものになると、グループファシリテーターのCode for Japan関治之氏は発表する。そのためにはベーシック・インカムならぬ「ベーシック・キャピタル」という仕組みも提案された。それは国などから一定金額を受け取り個人個人が投資すべき組織、若者、地域に投資をするという仕組みである。自分のためのベーシックインカムではなく、他者のための投資を促す仕組みを国やある程度の組織が行うというものだ。「働く」は自分のためにではなく、「人喜ばせ合戦である」という視点も今後更に重要な行動指針となりそうである。

 

【新たな「暮らし方」を考える】

遺伝子編集など医療技術の進化により、年齢を重ねても若々しく居られる様になる時代、テレビプロデューサーの土屋敏男氏は「だったら、老人こそ戦争に行くようにできないか?」と語る。未来ある若者が戦争に行くのではなく、そのような時代を作ったシニア層こそが身を張るべきであり、そもそも「戦争を起こさないテクノロジー」の活用にシフトすべきと語る。戦争のためのテクノロジーから戦争を起こさないテクノロジーの時代へのシフト。

土屋氏の言葉をそのまま借りると以下のようになる。

志・思い・フィロソフィーが根底にあり、「社会を前に進める」・「人の為になる」を価値基準にして最新のテクノロジーを活用し実現していくものだ。

そうすることによって、過去の価値観の象徴である物理的な見本の争奪である戦争はなくせる。その思いを強くした。確信した。その未来を子供たちに残すために貢献をしていきたい。

 

志・思い・フィロソフィーの共感を広めるためにはメタバースのような第三世界が必要で、そこで過去に学び、他地域の課題に共感し、自分の人生教訓、懺悔を共有することが未来の暮らし方につながる。浜松市の瀧本陽一氏もデジタル市民も1市民としてカウントする未来を想像しており、メタバース・デジタル空間上は単なるエンタメの場所ではなく、実社会にも作用を及ぼす一つの行動を起こすべき場所となりそうである。

なお、当【新たな「暮らし方」を考える】グループディスカッションの変容はコラボレーションエナジャイザー八木橋昌也さんのブログに詳細掲載されているのでこちらを参照いただきたい。

 

さて、冒頭の議題に視点を戻そう。

「議論」だけでは満足・安心できない人間になってきている背景には、「議論」の結果、一緒に行動を起こす仲間を見つけられたこともある。仲間とともに行動していきたい!と意欲はあれど、ただ、まだ “dis- 離れた”組織のもの同士が、行動を起こす際のトリガーやインセンティブがうまく設計されていないので、議論だけで終わってしまうことがある。これは多くの議論の場でも悩まれていることだろう。

今後、DAO(分散型自律組織)を活用することにより、志・思い・フィロソフィーを共有した仲間との議論のあとに、指針やインセンティブを作り、行動を起こしやすくすれば議論の先の行動なども増えていきそうである。

また、そもそもDAO的な組織としてまとめあげなくても一人ひとりの考え方をアップデートすれば議論から行動への一歩も踏み出しやすくなる。参考となるのは今回の参加者であるCode for Japan関治之氏が語られる「小さくてもいいからアウトプットMVP(minimum viable product)を生み出し行動し続ける」癖をつけるのも大事である。

 今回の天城会議ではIBMデザイナーの山田龍平氏のグラレコと、堀越諒太氏の動画まとめもアウトプットとして存在する。

 

グラレコ

(グラフィックレコーダー 山田龍平)

 

動画: IBM Future Design Lab.「天城未来デザイン会議」(2022年9月)

(撮影/編集 堀越諒太)

 

私個人としても議論の結果、自分が見てみたい世界(メタバースで社会貢献するってどういうことだろう?)が、一つ見つかったので、今回の議論や仲間とのネクストステップも設計し動かして行きたいと考えている。早速土屋敏男氏、ヤマハ大村寛子氏、浜松市瀧本陽一氏、静岡県杉本直也氏、IBM Future Design Lab.メンバーと追加ブレストも開始している。次なる一歩を進めるための議論と行動を繰り返していきたい。

 

 

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