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EAMの勘所:第11回 RCMの考え方と管理手法(6)

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全体的な設備保全改革への保全計画の取組み

EAMの勘所とは

企業資産管理を円滑に行うために「EAMの勘所」と題して定期的にコラムを掲載していきます。
第11回目は「RCMの考え方と管理手法」に関して、全体的な設備保全改革への保全計画の取組みについてご紹介いたします。

RCM活動とコストインパクト

前回までの説明でRCM活動は機器台帳を準備し、故障モードを分析、優先度を選定し、保全プログラムを決定して保全計画に従って作業を実行するまでの流れを説明してきました。しかし、ここまでの活動を行っても“RCM活動 を始めるきっかけとなる「コストを最適化した保全活動」どころか「かえってコスト高」になってしまった”という結果となりRCM活動に意義やメリットを見出せず“途中で活動をやめてしまう”ケースも見られます。これは何故でしょう?

RCM活動の目的は保全の評価を適確に行うための基盤を作成することにあります。従ってRCM自身が保全活動の効率化を行ってくれるわけではありま せん。効率化を行うのは“適確に評価された情報に基づき人間が改善する”から実現できるのです。では何故単純にコスト高になってしまうのでしょうか?その 原因を以下に示します。

表1:RCM導入時のコスト増加の要因

コスト高の原因 説明 解決方法・留意点
設備台帳の完成度 設備台帳はRCM活動が行われていない場合、担当者のファイルやスプレッド・シートなど個人管理になっている場合が一般的。また設備台帳の登録範 囲、設備階層の詳細度も担当者によってマチマチ。RCM活動でOEL(またはMEL)を作成する標準化の過程で、より多くの機器が登録されるため、全体的 な仕事の件数が増加する。 設備台帳は管理対象を適確に捉えるためのベースライン。従って設備台帳を整備することは最も重要。しかし、RCMで使用する周期や保全方式を定義 する保全計画は全ての設備に対して作成する必要はない。リスク分析の結果保全対象からはずしてもよい設備についてはその旨を記録し、RCM活動の対象から 除外する。
故障モード分析の制度 安定期にあると診断されている設備でも突発的に故障が発生し、予想で設定した保全パラメーターにあわない。 設備階層の設定が不適切で、故障モードの異なる機器を同一機器として扱っている。機器階層の再評価を行う。
周期作業の適確な指示 RCMでは保全計画表をコンピューター・システム(保全管理システムなど)に設定して保全作業の計画を自動化するため周期どおりに必ず作業計画を作成し、従来の人間の判断で最適化(少なくても作業の件数は少ない)されていたため作業件数が増加する。 RCMで保全方式がTBM(周期ベースの保全)の場合、確実に作業件数が増加する。保全方式をTBMからCBM(状態監視保全)、またRTF(Run To Failure)へ変更することでTBMによる保全件数の増加を抑制する。
サーベイランスの増加 CBMを行うために機器の状態などを検査・確認するサーベイランス作業が増加する。 運転員などの実際に設備に携わっている担当者との情報共有による、機器状態の情報収集の効率化をおこなう。

RCM活動では、この“コストアップ”の問題を解決しないと、その効果を実際に享受することが出来ません。日本では「職人」によって技術伝承が徒弟 制度として確立し熟練者から若手に技術移転されてきました。したがって熟練者が保全管理を行っているプラントや工場ではRCM活動は“非常に非効率で無駄 な作業を行うような保全モデル”に見えます。しかし、現在、熟練者の退職により技術者不足、グローバル化によるエマージング・カントリーでの企業・生産活 動を行う状況下では、ある一定のルールに従った保全管理の体系を確立し、一定の保全品質を保つことは非常に重要です。人間系の判断で保全対象や保全内容を 選択する場合、コスト面からはその時点では有利に見える場合も多々あります。しかし、プラントのライフサイクル全体としてみた場合、特定の熟練作業者の知 恵や経験に頼ることは最適解とはならず、またリスク管理の側面からも問題がある場合があります。
RCM活動の副産物として、保全計画書に従った保全プログラムが実施され、その結果が記録されることから、本来保全に費やすべきコストが明確になり、適切 な予算措置、経営判断の基本情報として企業活動を支援することが出来るようになります。この情報は経営陣に本来必要な保全費用を提示する重要な判断材料を 提供します。

図1:RCM導入時のコストの変動モデル
図1:RCM導入時のコストの変動モデル(クリックして拡大)

したがってRCM活動を行う場合、予算措置としては単純にRCM活動にかかわる費用を見込むだけでなく、一時的に増加する保全コストの増加をも見込んでおく必要があります。RCM活動は保全グループだけでは解決できません。したがって経営陣の参加が不可欠なのです。
右にRCM導入時のコストの変動モデルを示します。

表2:RCM活動に必要な投資

活動フェーズ 必要な投資額
1.TBM RCM活動への人員割当て、プロジェクトの執行予算、コンサルティング費用、保全管理システムの構築。 また人間系で最適化されていた(本当に最適化は分からない)保全計画が保全管理システムにより確実に計画されることによる保全作業件数の増加に対する予算 措置。RCM活動の初期段階では自動計画された作業を、理由を伴ってキャンセルし、先延ばしにするような処理も必要になる。
2.CBM 状態監視を非破壊検査などで行う場合、外部の検査企業へ業務委託が必要で、外注作業費用が増加する可能性がある。社内における非破壊検査担当者の設置・検査技能の確立などが必要。
3.PrM 予知保全では、劣化傾向を技術的な解析により予測し、サーベイランスの周期を動的に変化させ、保全スケジュールを最適化する(例:劣化予測に近傍 になると、検査周期を短くするなど)。従って科学的・技術的な分析を行うことができる担当者の養成・配置、コンピューター・システムへの投資、計装システ ムの近代化(自動データ収集など)への投資が必要。
4.RTF RTFフェーズでは、2重化など設備が故障しても機能を継続できるよう改造を行う必要がある。従って設備更新計画などと連携し長期的な設備更新を検討する。RTFは特に重要な設備を対象とするため、全ての設備に適用するものではない。


設備保全改革

設備保全改革は保全部門が取り組むべきモデルとして提唱されているものでJohn Dixon Champbell著“Uptime”で提唱されているモデルです。ビジネス・プロセス改革を頂点として保全改革を行うモデルで、RCM活動も位置づけられています。

図2:保全改革モデル
図2:保全改革モデル(クリックでで拡大)

RCM活動は組織全体で長期にわたって実行・改革される保全改革の重要な柱の一つであり、単独での活動は予算の割当てや効果の見えにくさなどで成功 しない場合があります。したがって保全改革を進める中の一つのコンポーネントとして位置づけ、長期的な活動に耐えうる標準や組織作りを行うことは最も重要 な課題となります。以下保全改革の各々のコンポーネントを紹介します。

表3:設備保全改革のコンポーネントの例

設備保全改革 説明
保全戦略 保全戦略はその組織で実行される保全作業全般に関する短期・中期・長期的な保全の考え方、実行基準、標準などを規定するもので、全ての活動の根本を示す戦略。全ての組織では保全戦略を基本としてその活動を規定する。
保全管理 保全管理は保全戦略に規定された行動基準が正しく実行さるよう管理を行う。通常の保全管理業務はこのエリアに割り当てられる。故障報告、資材評価、ベンダー評価などを行う基本的な情報が正しく取得されることを保証するための管理。
データ管理 データ管理は保全管理システムを中心とする情報システムで保全管理の情報を記録する。この情報はRCMのOEL(またはMEL)を始めとして、保全計画情報、保全評価の基礎データなど保全改革を行うための基本情報を提供する。
保全評価 保全評価は主要評価指標(Key Performance Indicator:KPI)などを用いて、組織内の保全状況(単に故障率のトレンドなどばかりではなく、作業の効率化、スケジュール遵守率、作業遅れ、 教育状況など全体的に保全管理に必要な項目を評価する)を評価する。
保全戦術 保全評価は主要評価指標(Key Performance Indicator:KPI)などを用いて、組織内の保全状況(単に故障率のトレンドなどばかりではなく、作業の効率化、スケジュール遵守率、作業遅れ、 教育状況など全体的に保全管理に必要な項目を評価する)を評価する。
保全戦術 保全戦術は保全計画にプログラムを決定するもので以下の情報が含まれる。

  • 保全標準(どのような作業を実際に行うのか)
  • 故障修理
  • 時間時間基準保全(TBM)
  • 状態監視保全(CBM)
  • 予知保全(PrM)
  • Run To Failure

即ち、保全作業自身が保全戦術である。

計画・スケジューリング 計画・スケジューリングは作業の予算の管理、実際の作業の実行に際したスケジューリングを管理する。
RCM活動 本章で紹介しているRCM活動。
TPM※活動 組織全体で運転員、保全作業員の設備・運転・保全に関して「生産システム効率化の極限追求(総合的効率化)をする企業体質づくりを目標にして生産 システムのライフサイクル全体を対象とした“災害ゼロ・不良ゼロ・故障ゼロ”などあらゆるロスを未然防止する仕組みを現場現物で構築し、生産部門をはじ め、開発・営業・管理などのあらゆる部門にわたってトップから第一線従業員にいたるまで全員が参加し、重複小集団活動により、ロス・ゼロを達成すること」 ※※のための意識改革、行動基準、改善プロセス。
ビジネス・プロセス改革 ビジネス・プロセス改革は保全戦略に従って、現状の問題を鑑みビジネス・プロセス全体を改革するための活動。単に社内のプロセス改善にとどまらず保全の内製化・外注化、管理モデル(人事考課や給与)の変更、組織の変更など、プロセス変革を目指す。

※ TPMは社団法人日本プラントメンテナンス協会の登録商標です。
※ 社団法人日本プラントメンテナンス協会のホームページより参照。

次回は本RCMシリーズの最終回で、RCMの評価とリビングプログラムについて紹介いたします。

 

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