Data Science and AI

ディシジョン・サイエンス 〜意思決定を科学的に〜

記事をシェアする:

【DS&AIタレント・インタビュー #2】Certified IBM Principal Data Scientist 米沢隆


DS&AIタレント・インタビューでは、日本IBMで活躍するデータサイエンティストやAIエンジニアを紹介します。第二回は、長年ビジネスの最適化に関する業務に携わってこられたデータサイエンティストの米沢隆です。


 

— 始めに自己紹介をお願いします

データサイエンティスト・グループの中で先進的最適化チームを率いています。20年以上ビジネスの最適化に関わっています。配送スケジュール立案ソフトウェア(Vehicle Routing Problem、VRP)の開発から始まり、本当に様々な業種、業務でコスト削減や利益最大化を実現するためのシステム構築を行ってきました。

 

— 米沢さんは最近ディシジョン・サイエンスに関する業務に携わっているとお聞きしました。ディシジョン・サイエンスを簡単にご説明いただけますか? 

AIというのは人間が行っている業務をコンピューターで置き換える技術だと考えています。では人間は仕事で何を行っているかを整理すると、「作業」、「意思決定」、「創造」の3種類に分類できます。

 

従来、文字通りの機械的な「単純作業」は機械やコンピューターで置き換えられてきました。加えて、以前は不可能と思われていた「知的作業」も、今では機械学習をはじめとする技術によって置き換えられ始めています。例えばQA応答や監視といった業務は自然言語処理や画像認識技術で実現されています。

一方で、デジタル変革の第2章として、AIによる「意思決定」のサポートや代替が進んでいくでしょう。この意思決定を科学的にとらえ、コンピューターで支援し代替する技術がディシジョン・サイエンスになります。

データ・サイエンスで扱う分析技術でもこの意思決定を支援することは可能ですが、ディシジョン・サイエンスでは意思決定そのものを出力し、何をすべきかを直接示すことに重点を置くことが特徴です。これにより人間の意思決定の負荷は大幅に軽減され、さらに自動化することも可能となり、意思決定の高速化と高度化が実現されます。

ディシジョン・サイエンスで扱う意思決定としては様々なものがあります。例えば、

  • 金融機関であれば投資判断
  • 製造業であれば生産数量やそのスケジュール
  • 流通業であれば仕入れ商品の選択とその個数

など枚挙にいとまがありません。これらの意思決定はコストの削減や利益の増大に直結しますので、ビジネス上の重要性は非常に高いものと言えます。

 

— 機械学習などにより今まで人にしかできないといわれたものがAIで実現可能になっていますが、ディシジョン・サイエンスを利用した意思決定にはどのようなチャレンジがありますか?

ビジネスの中の意思決定は、常に新しい状況に対して臨機応変な判断を行う必要があります。だからこそ、今までは人が統合的に判断をしてきました。人間は本当に素晴らしく、過去の経験から新しい変化に対して柔軟に適応して結果を出すことができます。このような意思決定をどこまでAIで実現可能なのか、そこが大きなチャレンジです。

残念ながら今の技術の機械学習のアプローチでは、必ずしも多くの意思決定問題に対応することはできません。過去の意思決定のデータが大量にあり、また業務に変化が少ない場合には適用可能な場合もありますが、先ほど述べたように常に新しい変化に対応することが現実の意思決定では求められています。機械学習アプローチでは学習データに無い状況に対して頑健ではありません。

これはひとえに機械学習ではデータの「一般化」は行えても「抽象化」が行えていないためだと考えています。人間は例えば生産計画を立てる際、生産機械があって、生産能力が定義されて、事前セットアップが必要で、などと「生産する」とはどのような行為かを分解し抽象化して理解することが可能です。そのため新しい設備に対しても、その抽象化された理解を当てはめることで、容易に対応可能なのです。この「抽象化」が科学的な意思決定のカギだと捉えています。

 

— 具体的にはどのような手順でディシジョン・サイエンスを業務に適応するのでしょうか?

まずは「モデル化」です。先ほど説明した通り、意思決定を科学的に行うためには、業務と意思決定の「抽象化」、すなわち「モデル化」が極めて重要となります。まず業務の内容を整理し、制約条件やコストの構造を明らかにするとともに取りうる打ち手を一覧化します。これらを数式として定義することで打ち手とその効果が定量的に表現することができます。

次に、このモデルが「最適化技術」をはじめとする意思決定技術によって「解ける」必要があります。業務のモデル化には定石が多数ありますので、業務を定石のモデルに落とし込み、既存の最適化技術、特にILOG CPLEXの様な汎用最適化ソルバーで解ける定式化に持ち込むことが一つのポイントになります。もしこれらの定石に当てはまらない場合は、固有の最適化ソルバーを実装することもありますが、その場合でも様々な意思決定技術を応用することが可能です。

 

— 最後にディシジョン・サイエンスを通じて、どのような未来を作りたいかをお教えください。

意思決定は人間にとっても多くの困難を伴います。多数のデータを見ながらすべてのルールを満たしたうえで、何が最も好ましいか判断する必要があります。そこには人間の限界がどうしてもあって不十分な検討になってしまいます。そこをディシジョン・サイエンスにより効率のよい判断を自動的に導くことで、ビジネスの高度化と高速化が実現できると考えます。これによって、人間はビジネスの変革や新しい顧客体験の創出といった、より人間にしかできない「創造」的な業務に注力できるようになるのではないでしょうか。

今までの意思決定はKKDと呼ばれる勘と経験と度胸による決定がされてきていましたが、今後は科学と経験とデータに基づくKKDによる意思決定で世の中を変革できたらと思います。

 

—新しいKKDが広まると、社会変革もより効率的になりそうですね。お話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

More Data Science and AI stories

IBM九州DXセンター AI First BPOサービスの設立 | AIを前提とした業務変革の起爆剤“AI First BPO”

IBM Consulting, 人工知能, 業務プロセスの変革

2024年6月、IBM九州DXセンターとして福岡県北九州市に300名収容のオフィスをリバーウォーク北九州に開設、体制を拡充しました。これまで システム開発及び運用を中心に九州DXセンターの運営を担ってきた日本アイ・ビー・ ...続きを読む


IBM watsonx Assistantは生成AIでコンテンツを対話型の回答に変える

IBM Data and AI, IBM Watson Blog, 人工知能

watsonx Assistantは対話型検索を提供し、企業固有のコンテンツに基づいた対話型の回答を生成して、顧客や従業員の質問に対応します。対話型検索は生成AIを使用することで、人間の作成者が手作業で回答を書いたり更新 ...続きを読む


信頼できる AI の基盤: ガバナンスの効いたデータと AI、AI 倫理、およびオープンで多様なエコシステム

IBM Cloud Blog, IBM Data and AI, IBM Watson Blog...

2021年5月27日 By Kelly Churchill (英語)   世界中の企業が、AI への信頼構築が AI テクノロジーの幅広い導入への鍵となることに気付いています。企業は、AI への信頼と AI ア ...続きを読む