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キー・パートナーに訊く | 武藤元美(株式会社福岡情報ビジネスセンター)

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「IBMって付き合うとすこーし未来が見えてくるんですよ。そこもたまらなくおもしろいところだなあ。」そう話すのは、さまざまな企業を経営しその成長をリードし続けている武藤元美氏。今回、武藤氏とは旧知の仲の、日本アイ・ビー・エムデジタルサービス(株) 九州DXセンター長の古長由里子が、武藤氏が代表を務める企業の一つ(株)福岡情報ビジネスセンターにお邪魔し、お話を伺いました。

写真右 | 武藤 元美(むとう もとみ) | 福岡県久留米市出身。久留米高専を経て福岡大学人文学部を卒業後、エンジニアとしてシステムの開発・導入・保守、システム提案、プロジェクトリーダー/マネージャーを経て1990年に日本IBM株式会社および数社との共同投資で創業メンバーとしてシステム開発会社の設立に携わる。その後、1998年に株式会社福岡情報ビジネスセンターを創業。
現在、同社および複数企業の代表として指揮を執る傍ら、各コミュニティ団体の責任者を務める。2011年盛和塾稲盛経営者賞受賞。2019年福岡県教育文化表彰受、2021年文部科学大臣表彰受賞。

写真左 | 古長 由里子(ふるなが ゆりこ) | 日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社 執行役員 九州DXセンター長。外資IT企業でマーケティングを歴任後IBM入社。クラウドやAIのビジネス開発やマーケティングに従事した後、IBMコンサルティング事業にて「IBM Future Design Lab.」を設立。地域の課題解決者との交流を軸に、テクノロジーと信頼でより良い未来を拓く共創活動を推進。2023年2月より、IBM九州DXセンター長に着任。全国に拡大する地域DXセンターのブランディングも担当。

古長: この対談の前に、武藤さんとの出会いを思い出そうと記憶をたどったんですが、どうしても一番最初が思い出せなかったんです。

 

武藤: たしかにぼくも出会いは思い出せないな。なんせ、本当に昔からいろいろなところで、セレンディップに遭遇するよね。「なんだか今日は古長さんに会えそうな気がするな」と思っていると、これが不思議とたいてい会えるんですよね。

まあ共通の友だちが多いからっていうのもあるんだろうけど、でも、僕が古長さんのファンだからじゃないかなと思うんです。

 

古長: 私こそ武藤さんの大ファンです。そして感謝してもしきれないなあっていつも思っています。

昔からずっと、何か新しい取り組みをしようと思ったときはいつも武藤さんに相談させていただいていて。「とてもじゃないけど、これは他の人には頼めないなあ」なんてちょっと無茶なお願いも、いつもニコニコ笑って引き受けてくれますよね。

その象徴的なのが、2016年にスタートした「イノベート・ハブ 九州」だったと思うんです。

今でこそ日常的にあちこちで開催されているアイデアソンやハッカソンですけど、福岡という地で、あの時期にあの規模でやることには、メディアの方がたや業界の中では「早すぎるんじゃないの?」「そんなに集まらないでしょ」みたいに言われていて。でも、蓋を開けてみたら…。

 

武藤: すごい盛り上がりだったよね。産官学そして金融、いろいろなプレイヤーが集まり、熱気が渦巻いていたよね。あそこから色んなものが生まれていったね。

 

古長: 結果2年間で延べ2000人を超える方がたに、AIを活かしたビジネスに触れ考えるハンズオンの機会を提供できました。

あれは武藤さんの「人を集わせる魅力」があってこそ実現したものでした。本当にいろんなところから熱い協力者をご紹介いただき、いろいろな機会をセットアップいただきました。

参考 | 地方発ハッカソンのその後。継続したからこそ見えてきた景色

 

古長: 私自身、武藤さんに多くの出会いの機会をいただきましたけど、それにしても、武藤さんの「出会い力」は本当にすごいですよね。

 

武藤: そうですね。僕はすごく運がいいんです。「会いたい」と思っていると、出会いが訪れる。そんなふうに、これまでもたくさんの素晴らしい出会いに恵まれてきましたから。

僕がずっと師として仰いできた稲盛和夫さんとその経営哲学(フィロソフィ)に出会えたこともそうだし、長年の趣味であるカヌーの師匠、野田知佑さんとの出会いも、駅でお見かけして声をかけさせていただいたところからスタートしたものでしたからね。

…お2人とも2022年にお亡くなりになってしまって、本当に寂しい限りです。

 

古長: 趣味といえば、武藤さんの多趣味さにも驚かされます。それもどれも極めていて。オフィスを入ってすぐのこのスペースにも、「武藤ワールド」が凝縮されていますよね。

 

武藤: いいでしょうここ。僕はこれまで北海道から九州まで、日本中のいろんな川をカヌーで下って、河原でキャンプをしてきました。それからコロナ禍では出張できないということあって、1年間で40回は登山に行きましたね。

カヌー、登山、キャンプ。この3つは僕には欠かせない遊びです。もう毎週のように行っていました。ただ、どれもかなり本格的にやるもんですから、体力も相当使います。そんなわけで、誰でも誘えるというものでもなく、若いころはストイックに単独行が多かったですね。今では冒険好きな仲間が増えて楽しくやっています。

お気に入りグッズや写真が並ぶ、オフィス入り口の「武藤ワールド」にて

 

それから古い車とバイクも好きですねえ。なにがいいって「今は僕が乗せてもらっているけれど、前のオーナーさんとはどんなところに一緒に行っていたのかな? どんな思い出を一緒に作ってきたのかな?」って、そんな風に想像をしながら車やバイクと会話をするのが、たまらなく好きなんですよ。

パーツを探してこつこつレストアして、ちょっと苦労しながら乗っています。まあ、よく壊れるんだけどね。でも、それもかわいらしい(笑)。

そしてなによりも、僕、大の本読みなんです。会社の書棚にも2千冊ほど持ってきていますが、家には1万数千冊ありました。それで、社内で読書会なんかもやっていましたね。

 

古長: 本当にどうやって時間を作っているのか…。影武者が3人いるっていうもっぱらの噂です(笑)。

 

武藤: でも、同時に複数のことをしていけますからね。山に登ってキャンプして、カヌーを漕いで、夜は焚き火の前で読書して。それからときにはテントの中でパソコンで仕事をしたり、オンラインミーティングも複数同時に出たりして。

それに、時間って細切れにして無駄にしなければ、いろんなことができるものですよ。

 

古長: 武藤さんの時間の使い方ですごいなって思うのはそれだけじゃなくて。どんなに忙しくても、相手のためには時間を厭わないところなんです。

これまで幾度となく、IBMの若手社員の「ちょっと相談させて欲しい」という言葉に、東京まですぐに駆けつけてくださいましたよね。

「そんな! こちらから伺わせますから!」って言っても「いいのいいの。飛行機という『移動書斎』で大好きな本も読めるし、原稿も書けるから」って。何度びっくりさせられたことか…でも、本当にありがとうございます。

 

武藤: 僕にとって、IBMは特別な存在なんです。24歳のときIBMのシステムに初めて触れて。衝撃でしたね。それまで日系のコンピューター企業で働いていましたが、今まで使っていたのはおもちゃだったのか? ってなりました。

もちろん、最初はIBMテクノロジーのファンになりました。でもその後、IBMが本当にすごいのは「人を育てる」という企業理念だと気付かされました。それを教えてくれたのは、僕が惚れ込んだ経営の大先生、稲盛和夫さんです。

その稲盛さんが惚れ込んでいたのもIBM。だから僕がIBMの話しをすると、稲盛さんがいつもニコニコして聴いていましたね。

オフィスに飾られた稲盛氏の像と共に。同じポーズで

 

IBMのすごいところは他にもいろいろあるけれど、他のテクノロジー企業と全然違うのは「先を見通す力」。社会がどちらに向かうかを教えてくれる。

IBMのこの力は本当にすごい。3年から5年後にそうなってしまう…米国との時差はあるけど、方向性はほぼ間違いなくいつもその通りになるよね。

僕が昔、クラウドセンターを福岡に作ったのも、アメリカのIBMを訪問して、副社長の話を聞いた帰りの飛行機の中で決めたんだよね。周囲には散々「福岡では無理だろう」と言われたけれど、スタートしてみたらすっかり大成功で、今もたくさんのお客様にご利用いただいてます。

IBMと付き合うとすこーし未来が見えてくるんですよ。そこもたまらなくおもしろいところだなあ。

 

古長: 私にとっては武藤さんとのお付き合いが「未来を見せてくれるもの」ですね。

わたしが今、北九州DXセンター長として、仕事の本拠地を九州に移して活動しているのも、武藤さんとの活動があったからです。

私は北九州市出身ですけど仕事に関してはずっと拠点は東京で。自分が九州を拠点とするイメージは持っていなかったんです。でも、先ほど話した「イノベート・ハブ 九州」での活動などからご縁が広がりタイミングも重なって、北九州DXセンター長となりました。あの頃はこういう未来を想像していませんでしたし、武藤さんや当時ご一緒したキーパーソンとのお付き合いを通じて必然になって今に繋がっていったのかなと思っています。

 

古長: 拠点を移して一年が経ち、最近、私の中で福岡や九州の見方が少し変化したのを感じています。以前は無意識に、東京との関係性を起点としていた気がしていて…。

武藤さんはいかがですか。コロナ禍を経て、なにかその辺りの世界観に変化はありましたか?

 

武藤: まず、距離に対する感覚が大きく変わりましたね。移動しなくなったら、逆に近くなりましたね。以前は移動しまくっていたからこそ距離を感じていたんです。直接会わなければつながりが切れてしまうんじゃないかと思っていたんです。

だからこそあれだけ動き回っていたわけですが、実際は、まったくそんなことはなくて。つながりが切れるどころかむしろ強くなっていますね。新たな出会いも減るどころかどんどん増えてきています。

僕はコロナ禍の4年間で心理学をしっかりと学んだんですが、そこから見えたのは、同じ思いを持つ人同士は無意識層でつながっているということ。「思えばすぐに通ずる。いつもそばにいる」——どこにいるかではなく、同じ向きを向いているかどうかなんですね。

 

古長: なるほど。経済が元気で移住者が多いこともその理由だと思うんですけど、九州は、道州制の議論や一割経済をさらに活性化するための取り組みなど、地域性を強く意識した発信や活動が多い気がします。かく言うわたしも、以前はそうでした。

 

武藤: 僕もです。「九州は一つ」って、ローカル性を主張していた。

でもコロナ禍での経験を通じて、デジタルがもたらす距離の超越性に、本当の意味で気づいた気がします。「なんだ、片意地張らなくてよかったんだ」って。

デジタルの応援を受けて、九州が世界とつながっていることをきちんと理解できたという感じですね。鎖国が解けました。今や「九州はオープン」。

 

古長: そう。視界が開けた感じがありますね。わたしも今「無意識のうちに東京のやり方・働きかたに捉われていた自分」から脱却して、場所や世代、属性に捉われない、本当の意味で多様性を大事にした働きかたや生活ができている気がしています。

 

古長: 武藤さん流の「オープンな経営」についても少し教えてください。

 

武藤: はい。そもそも僕は、人助けのために会社の経営を始めたんです。何をするでもなくウロウロしている若者がいて、なんだか僕の後ろについてくる。聞いてみればフリーターで、将来の展望も何もないって言うんです。

「それじゃまともな生活を送ることも、家庭を持つこともできないぞ」って話をして、それなら会社を興して一緒に働こうと会社をスタートしたんです。

でも、僕はそれまでエンジニアであって経営については何も知らなかった。だから、どうしたらいい経営者になれるのだろうかって、勉強をずっと続けています。学生時代の僕は「学校での勉強」が苦手だったんだけど、勉強そのものは好きだったんです。おもしろいからね。

だから、会社が成長して社員が増えた今も、みんなには「勉強しようよ」って言い続けています。

臆すことなく学びの場に飛び込もうって、コミュニティーや人が知見を持って集う場にはどんどん行くようにみんなの背中を押しているし、学びには惜しみなく投資を続けています。

そうやって、社員みんなが学んでいる会社ですから、会社の業績も人事評価も当然すべてオープンです。だって隠そうとすれば「なぜ隠そうとするのですか? 理由はなんですか。」となりますよね。

 

古長: 社員も皆さん個性的で、イキイキしていますよね。

 

武藤: 最初はちょっとヤンチャな新入社員たちも、5年もすれば立派に自立した社員へと成長します。勉強しますからね。僕のことを「社長」って呼んで特別視するのも入社直後だけですよ。半年もすれば「武藤さん、今、機嫌良いですか? 機嫌が良ければ伝えたいことがあるんですが。」って言ってくる(笑)。

かと思えば、会議で僕が話をしていると「ねえ武藤ちん、あのね」って話しかけてくる者もいる。「ビックリされちゃうから他社の方がいる前で『武藤ちん』はやめなさい」って(笑)。

 

古長: 武藤さんのアットホームさや飾らない姿勢、そして一人ひとりを大切にする心が伝わっているからこそのエピソードですね。

 

武藤: 僕も社員たちも、お互いそんな立派なものでも優秀なものでもないんだから、だからこそ勉強しようぜ、会社を利用して自分磨きを楽しもうぜって——まあそれだけです。そうしたらグループ企業も含めて、コロナ禍でも最高利益を記録し続けました。

今は立派に成長した幹部社員たちに囲まれていて、僕がやらなきゃいけないことは社内よりも社外のコミュニティや団体での活動が主となっています。社内では曲がったことが起きそうなときに修正するだけ。曲がったことっていうのは間違いだとわかっているのにそれをやることだとか、楽をしようとすることだとか。そういう姿勢が見えたときはフィロソフィを説いて大善の気持ちで烈火の如く怒りますよ。

本当におもしろい会社になったなって思いますよ。この会社には僕も含めて、ホームランバッターは一人もいません。でも、チームプレーのすごさはトップレベルだと自負しています。

 

古長: 本当の意味での「ファミリー企業」ですね。それでは最後にIBMへのダメ出しや叱咤激励をお願いします。

 

武藤: ダメ出しできるところなんて、そんなのIBMにないですよ。僕は根っからのIBMの大ファンで、最前列で応援し続けたいからユーザー会やパートナー会の団体などの代表も引き受けさせていただいてきたんです。最高ですよ。これからもIBMを応援させ続けさせてください。

 

古長: やっぱり武藤さんはどこまでも武藤さんですね。本当は、IBMとのやり取りにおいてもたくさん苦労されていらっしゃるはずなのに、それをおくびにも出さず応援に徹してくださる。

こういう武藤さんだから、わたしも、そしてIBM社員も、できる限りをお返ししたいとつねづね思っているんです。きっと、武藤さんの会社の社員の皆さんも同じ気持ちですね。

IBMを心から推してくださるそのお気持ちに負けないように、私も「武藤さん推し活」を今後も続けたいと思います。

今日はありがとうございました。

 


TEXT 八木橋パチ

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