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クラウドの柔軟性 vs. スケーラビリティー。その違いとは?

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クラウドの柔軟性とクラウドのスケーラビリティーは、互いにどのような類似点と違いがあるでしょうか?また、それらは皆さんにとって何を意味するでしょうか?

インフラストラクチャーにクラウド・サービスを追加することを決める際に、CIO、クラウド・エンジニア、およびIT部門のマネージャーは、クラウド・コンピューティングについて多くの側面を検討する必要があります。コスト、セキュリティー、パフォーマンス、可用性、信頼性が、評価すべき重要領域として一般的に挙げられます。ここに加えるべき、重要度が増大している2つの基準が、クラウドのスケーラビリティーとクラウドの柔軟性です。

多くの人は、この2つの語を同じ意味で使用していますが、スケーラビリティーと柔軟性には明確な違いがあります。ビジネスのニーズを適切に満たすためには、その違いを理解することが非常に重要です。

 

スケーラビリティvs.柔軟性

柔軟性の目的は、割り当てられたリソースを、任意の時点で実際に必要なリソースの量と一致させることです。

一、スケーラビリティーでは、必要に応じてアプリケーションの要求を満たすためにリソースを静的に追加したり削除したりすることによって、変化し続けるアプリケーションのニーズをインフラストラクチャーの範囲内で処理します。これはほとんどの場合、既存のインスタンスへのリソースの追加(スケールアップまたは垂直スケーリングという)や、既存インスタンスのコピーの追加(スケールアウトまたは水平スケーリングという)という形で処理されます。さらに、サイジングに関して言えば、スケーラビリティーの方が柔軟性よりも本質的にきめ細かいサイジングとなり、ターゲットを絞ったものとなる傾向があります。

クラウドの柔軟性が力を発揮する一般的なユースケースとしては、eコマースやリテール、SaaS、モバイル、DevOpsのほか、インフラストラクチャー・サービスに対する要求が常に変化する環境などが考えられます。他方、キャパシティー・プランニングやパフォーマンスが安定している予測可能なワークロードがあり、ワークロードが一定である(あるいは増加する)ことが予測できる企業にとっては、クラウドのスケーラビリティーは、コスト削減にさらに効果を発揮するアプローチとなるでしょう。

 

クラウドの柔軟性

柔軟性とは、ワークロードの変化に自動的に適応し、必要に応じてインフラストラクチャー・リソースを動的に拡大・縮小させ、リソースの使用を最大化する能力のことです。

適切に実行すれば、柔軟性を活用することで全体的にインフラストラクチャーのコストを節約できます。ただし、柔軟性の高いサービスのメリットをどの企業も実感できるわけではありません。突然あるいは周期的にでも需要が変化しない環境では、柔軟性の高いサービスが提供するコスト削減のメリットを受けられない可能性があります。

一般に、「柔軟性の高いサービス」を使用するには、インフラストラクチャー内にあるリソースすべてが柔軟性の高いリソースでなければなりません。これには、ハードウェア、ソフトウェア、QoSなどのポリシー、コネクティビティー、および高柔軟性のアプリケーションで使用されるその他のリソースが含まれます(ただし以上のみに限りません)。これは、特定のアプリケーションのパフォーマンスを保証する必要がある場合には、マイナスの効果をもたらす可能性がありますが、実際にどうなるかは環境によって異なります。

クラウドの柔軟性は、スケールアウト・ソリューション(水平スケーリング)に備わっているよく知られた特徴で、必要に応じてリソースを動的に追加したり削除したりすることができます。柔軟性は一般にパブリッククラウド・リソースで活用され、Pay-per-use(従量課金)やPay-as-you-grow(規模に応じた課金)型のサービスで採用されます。つまり、IT部門のマネージャーは、任意の時点で消費しているリソース以外のリソースには課金していないという状態になります。仮想化環境では、クラウドの柔軟性に関連する機能として、新しい仮想マシンの動的な展開や、アクティブでない仮想マシンのシャットダウンなどが挙げられます。

クラウドの柔軟性が必要なユースケースとしては、例えば、期間限定の活動が増えるリテール業界があります。ホリデー・シーズン(ブラック・フライデーでの売上急増やスペシャルセールなど)に、システムの需要が突然増加する可能性があります。こうした場合は、1年のうち2~3カ月の高負荷を処理するために永続的なインフラストラクチャー・キャパシティーを追加してそこに予算を充てる代わりに、柔軟性の高いソリューションを採用する方が得策です。増加したボリュームを処理するためのインフラストラクチャーの追加分は、Pay-as-you-grow型のモデルでのみ使用され、その後、年内の残りの期間はキャパシティーが「縮小」されます。この形により、パフォーマンスや可用性に影響を与えることなく、必要に応じ、突然の予期しない販売活動が発生しても年間を通じて対応することが可能になります。これでIT部門のマネージャーは、ヘッドルームの上限のないセキュリティーを確保できます。さらに、サービス・プロバイダーによって適切にパッケージ化されたサービスであるならば、ITに関する支出を最適化したいと考えているリテール企業は、大きなコスト削減効果を得ることができます。

 

クラウドのスケーラビリティー

クラウドのスケーラビリティーには、パフォーマンスに影響を与えずに、既存のインフラストラクチャー(ハードウェアやソフトウェアなど)内でワークロードのサイズを拡大する能力もあります。スケーラビリティーに対応するために求められるリソースとしては、通常、ピーク時の需要を処理する目的で組み込まれた一定量のヘッドルームを備えた、事前に計画されたキャパシティーが使われます。また、スケーラビリティーには、インフラストラクチャー・リソースを追加して拡張する能力もあります。中にはハード・リミットなしで拡張できるケースもあります。スケーラビリティーは、垂直スケーリング(システム内でのスケールアップ)または水平スケーリング(複数のシステムにまたがるスケールアウト、リニアスケーリングの場合もある)のいずれかとなります。つまり、リソース不足によるパフォーマンスの低下を防ぐために、スケールアップまたはスケールアウトする余地がアプリケーションにあるということになります。

リソースが不要になることをIT部門のマネージャーが認識している場合は、新しい小規模な環境をサポートするためにインフラストラクチャーを静的に縮小するケースもあります。最悪のワークロード・シナリオは、サービスやリソースの増減が計画されたイベントであり、静的に行われるケースです。

例えば、中小企業向けのサーバーでサポートされている小規模なデータベース・アプリケーションがあるとします。時間の経過や企業の成長に合わせて、データベースや、データベース・アプリケーションのリソースの需要も増加します。企業やデータベースの成長率をIT部門のマネージャーが把握している場合は、プロビジョニングされたインフラストラクチャー(コンピューティング、ネットワーク、ストレージなど)を購入して、データベース・アプリケーションが最大のパフォーマンスとキャパシティーを発揮できる規模にまで拡張するでしょう。言い換えると、Pay-as-you-grow型の安定した課金ソリューションでは、SLAを満たせないかもしれないという心配をせずに、パフォーマンスをスケールアップすることが可能になります。

もう1つのユースケースとして、仮想デスクトップ・インフラストラクチャー(VDI)が挙げられます。VDIでは、従業員数をベースに、予想されるデスクトップ数を用意します。最大数のユーザーをサポートし、SLAを満たす能力を確保するためには、ユーザー全員が一度にログインして最大人数が使用する場合に、ユーザー全員に対応するのに十分な量のサービスを購入しなければなりません。つまり、割り当てられたリソースの量によって、予測される最も重い負荷を、パフォーマンスを低下させることなく処理できなければなりません。

 

柔軟性とスケーラビリティーが交差する場所

クラウド・サービスの中には、スケーラビリティーと柔軟性の両方が提供される、適応力の高いソリューションもあります。IT部門はこうしたサービスによって、ニーズに応じてリソースやサービスを拡張・縮小できるだけでなく、Pay-as-you-grow型のサービスを導入すれば、SLAを満たすためのパフォーマンスやリソースのニーズに合わせて拡張を行うことも可能になります。これらの両方の機能を組み込むことは、絶えず変化し続けているインフラストラクチャーを抱えるIT部門のマネージャーにとって重要な検討事項です。パブリッククラウド・プロバイダーが提供するサービスの中には、クラウドの柔軟性とスケーラビリティーが同じものとして混同されている場合もありますが、サービスの購入時に混乱しないように注意してください。

柔軟性とスケーラビリティーには明確な違いがあります。柔軟性の高いサービスとスケーラビリティー・サービスのどちらが最適な選択になるかは、企業のニーズやユースケースによって異なります。その決定を下す際に役立つ大まかなヒントをご紹介しますと、一般に、クラウドのスケーラビリティーはプライベートクラウド環境で提供されることが多い一方、クラウドの柔軟性はパブリッククラウド環境で提供されることが多いです。

 

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製品マーケティングマネージャー

スペンサー・メム(Spencer Mehm)

製品マーケティングマネージャー


この投稿は2022年10月11日に米国Cloud Blogに掲載された記事 (英語) の抄訳です。

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