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「安全・安心」を守り、育てるために – IoTプロジェクト担当者が語る、変革期のものづくりを支えるテクノロジーと方法論

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自動車業界の最新事例として、日本経済新聞 電子版特集の『自動運転時代の「安全・安心」を守る ソフトウエア化するクルマづくりのデジタルツインにチャレンジ』という記事が注目を集めています(2019年3月末をもって公開終了済み)。

 

今回、記事にて紹介されている「本田技術研究所×日本IBM×ダッソー・システムズ」の取り組みについて、プロジェクトに深く関わられていたIBM Watson IoT事業部の藤巻 智彦さんとWatson IoT & CE サービスの松下 望さんに、話題のこの取り組みについて、改めて注目すべきポイントを聞いてみました。

 

注目キーワード :  安全・安心をどう守っているのか | さまざまなものづくりの現場に|
メカ・エレキ・ソフト | 匠の技と人海戦術の限界 | デジタルツイン |
コミュニケーションの重要性 | BizDevOps(ビズデブオプス)


 

松下さんと藤巻さんの写真

(左: 松下 望さん 右: 藤巻 智彦さん – サンフランシスコで開催された「Think 2019」会場にて撮影)

 

■ 読むべき対象は、ものづくりに関わるほとんどの方々だと思います

 

     – 記事のサブタイトルは“自動運転時代の「安全・安心」を守る”となっています。具体的に誰の、どのような安全であり安心なんでしょうか?

藤巻: 世の中の全員ですね。車を運転する人はもちろんですが、今後、自動運転技術が進んでいくと、もっともそれが活用される分野の一つは公共交通機関になると思います。
車を所有したり運転したりしない人たちも、バスには乗りますよね。そしておそらく、今後シェアリング・エコノミーの発展に伴い、新しい形の「相乗り」のようなスタイルの交通機関も出てくるかもしれません。そんな中で、いかに安全な移動を人びとに提供できるかは、自動運転技術にかかっているとも言えるでしょう。

 

松下: そして利用者側だけではなく、クルマづくりに携わる人たちに安全や安心を与えるのも、今回のプロジェクトの主眼の一つです。
これまでのクルマづくりは、莫大な開発工程や多種多様なテストを、いわば人海戦術でこなしていました。そういうやり方では、特定の時期や特定の人びとに極端な負荷がかかってしまったり、場合によっては労働環境の悪化につながることも考えられます。

 

     – 記事では自動車製造における取り組みが紹介されています。「この記事を読むべき人」や「この技術の進展に注目すべき人」は、自動車業界の方となりますか?

藤巻: 違います。対象はものづくりに関わるほとんどの方々だと思います。
実際の事例として書かれているのは、本田技術研究所とダッソー・システムズと日本IBMによる「デジタルものづくり」の最前線ですが、百人を超える規模で設計やテストなどを実施している製造業の方であれば、どんな方にも参考になる点があると思います。

 

松下: デジタルを活用したものづくりは多くの業種・業界から注目を集めています。今回のHondaさまを中心とした取り組みは先駆けであり、今後はどんどん活用されていくでしょうね。
船舶や航空機、大型ビルの建築などは代表例であり、ハードウエアの開発と制御ソフトの連携の必要性は分野を問わず高まり続けています。

 

■ もはや、匠の技と人海戦術は限界に

 

     – 製造やものづくりの業界では「メカ・エレキ・ソフト」という言葉を耳にすることが多いですが、今回のケースでもそうですよね?

 

松下: はい。自動車業界で言えば、それぞれが示すのはこれらの部分です:

  • メカは「機構」です。ボディやシャシーと呼ばれる金属などの素材で作られた車体部分ですね。
  • エレキは「電気回路」です。バッテリーや基盤などの部分になります。
  • ソフトは「コンピュータ制御プログラム」で、エンジンやハンドルなどの制御を司る部分です。

これらの作業は、それぞれ別のチームで進められるのが一般的です。その中で、ソフトは歴史的に一番後発だったせいで、言葉は悪いですが「後回し」にされてしまいがちなところがあるんですね。

 

藤巻: 業界や実際の現場によって、ハードウエアとソフトウエアの割合には違いがありますが、ソフトウエアの割合が上がり続けていくことは間違いないと思います。
自動車の場合だと、現在では車の5割はソフトウエアと言われていますが、自動運転技術が進んでいくとおそらく9割くらいまで上がるであろうと考えられています。

 

松下: そうした流れの中で、今後は現場でもソフトウエアのチームにどんどん脚光が当たるようになっていくでしょうね。

 

     – ソフトウエアの割合が上がっていくというのは、開発や設計においては何を意味するんでしょうか?

藤巻: 端的に言えば、テストすべき点が増えてくるということです。メカ、エレキの変更や調整に都度ソフトを対応させていく必要があるわけですが、その対応がどのくらいの規模でどのくらいの期間が必要になるかなど、ソフトウエアの部分まで見通せるメカ、エレキの熟練の技術者、いわば「匠」と呼ばれる方々はそれほど多いわけではありません。
現在はまだそういう「匠の技」に任されている部分が大きく、彼ら個々の力に頼っている部分が大きいんです。これは、労働人口の減少や高齢化が進む中で、巨大なリスクです…。

 

松下: 最初にも少しお伝えしましたが、これまでは増え続けるテストに対して人海戦術でどうにか乗り切ってきたというのが実情です。ただ、それもいよいよ限界に近づいてきています。
開発の複雑性が倍になれば、テストの量は倍以上増えます。指数関数的に増加していくんです。こうなると人海戦術にも限度があって、物理的にすべてのテストを実施することは不可能になります。
そこで注目されているのが、バーチャル世界にリアル世界を再現し、シミュレーションを行う仕掛けです。その結果をデジタルデータとして取得・分析し、分析結果を設計にフィードバックすることにより設計効率を向上させていくことができます。これはいわゆるデジタルツインの一例になります。

 

■ コミュニケーションがエンジンを温め、チーム感を高める

 

     – 今回のプロジェクトは最初からずっと順調だったのでしょうか?

松下: いいえ、そんなことはありません。プロジェクト・リーダーの私からすると、序盤はかなりの量の「冷や汗」をかきましたね。結果的にはグローバル企業の特長である海外のさまざまな知見を活かせましたが、「エンジンが温まる」までは大変でした。

 

藤巻: 松下さん、上手いこと言いますね。
でも本当に、それぞれの企業内でのコミュニケーションと、企業間のコミュニケーションがどれだけ正確かつスピーディーに行えるかが、一つの挑戦でしたよね。

 

     – 具体的には、どんな難しさがあったのでしょうか?

松下: 例えば、記事でも紹介されている世界の技術標準手法「OSLC(Open Services for Lifecycle Collaboration)」を用いた運用開発も、そのコンセプトや考え方に馴染みの薄いメンバーにとってはチャレンジだったようです。
プロジェクトの初期には、メンバーの間から「データやシステムの相互連携だったら、API(Application Programming Interface)でいいのに…」という声も聞こえていました。でも、それでは今後新しいシステムが出てきたときにはその都度ゼロから専用API自体を作らなければならない可能性が高くなります。その点、OSLCは、新たなシステムへの適用性や拡張性の面で格段に優れています。

 

藤巻: プロジェクトが進むに連れOSLCというオープンスタンダードを用いることの利点がメンバーに浸透していきましたが、それまでは大変そうでしたね。

 

     – そこからは順調だったのですか?

松下: 他にもいろいろな出来事はありましたが、しばらくしてからは「チーム感」も高まり、うまく進んでいきました。
結局、一番重要なのはコミュニケーションで、そこで全員の認識を共有しながら進めていくことなんです。これは今回のプロジェクトにおける私たち3社間のグローバルチームを含めたコミュニケーションもそうですし、プロジェクトのテーマであるソフトウエアとハードウエアの管理システムの連携、つまり「メカ・エレキ・ソフト」のチーム連携においてもまったく同じことが言えると思っています。

 

     – コミュニケーションこそが重要である、と。

藤巻: その通りだと思います。近年、開発や運用の現場では、開発部門と運用部門と事業部が密にコミュニケーションを取りながらワンチームとして協力していく「BizDevOps(ビズデブオプス)」という方法論が注目されています。

 

松下:  DevOpsというアジャイル開発の概念や進め方がさまざまな業界・業種に浸透し、その大きなメリットの享受が一般化してきた現状を踏まえれば、BizDevOpsへと進化していくのは必然とも言えるでしょうね。今後、このプロジェクトで実証された仕組みが本番展開されていくと思うのですが、そこでは「メカ・エレキ・ソフト」を相互に意識しながら自動車を設計する事業部門と、その仕組みを支えるIT部門が一体となり、BizDevOpsを実践していくことが不可欠となります。
そして、そこで効果を上げ結果を出していけるかは、リアルタイム性と質の高いコミュニケーションができるか。そのためのシステムや仕組みを活用できるかにかかっているんじゃないでしょうか。
そうした協調開発のあるべき姿を、これからもお客さまと一緒に追って行きたいです。

 

問い合わせ情報

お問い合わせやご相談は、Congitive Applications事業 にご連絡ください。

 

参考資料ダウンロードページ [導入事例:本田技術研究所]

参考資料ダウンロードページ [変革をうながすIBMのデジタル・ツイン]

(TEXT: 八木橋パチ)

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