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【金融機関向け】人身売買をデータで食い止める

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データ・ハブの活用による人身売買問題の根絶

「資金の流れを追跡できれば、人の流れを追跡できます」
—Anjuli Bedi 氏、心理測定および予測分析担当副ディレクター

人身売買業者がどこで人身売買による利益を手にしているのかを、金融機関が特定し、人身売買ネットワークを根絶することを目的として、John McGrath 氏は「Traffik Analysis Hub (英語)」というデータ・ハブを構築しました。ここでは、まずデータを幅広く収集し、AIでデータを絞り込み、世界規模でホット・スポットを特定します。人身売買がどの経路で行われているか、中継地点はどこか、また期間別、地域別にどのような種類の人身売買が主に行われているかを特定しているのです。

データ活用によりこの状況を打開します

全世界で人身売買がどれだけ起きているのか、その推計結果はさまざまです。理由はこの犯罪の性質そのものにあります。被害者は行方不明になり、犯罪件数はカウントされず報告もされないからです。推定では、年間およそ4,000万人が人身売買の被害にあっているとみられています。一方で、全世界での年間利益は推定で約 1,500億ドル、犯罪の規模としては世界で3位と、最も高い増加率となっています。

IBM シニア・ソリューション・アーキテクトである McGrath 氏は、2016年にデータ・ハブの構築を開始しました。彼はロンドンで、人身売買防止を目的としたNGO「STOP THE TRAFFIK (以下STT)」でワークショップを行い、これに参加した法執行機関、NGO、金融機関の関係者は全員、データ共有の必要性を認識しました。

McGrath 氏は、人身売買問題に関連するデータ・セットをオンラインで見つけ、プロトタイプを構築しました。その後、STTと連携し、ホット・スポット、ヒート・マップ、マーカーを組み込んだマップ・インターフェースを作成し、フォローアップとして行われたワークショップでこのプロトタイプを発表し、このシステムをどうすれば構築できるのか、構想を説明しました。

STTの目標の 1つは、世界中の現場で何が起きているのかを可視化し、人身売買に対する関心を高めることです。この目標達成に向けて、McGrath 氏とチームは、取り組み方を変革しました。

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「この取り組みでは、全員が自分の役割を担っています」と、STTのCEOである Ruth Dearnley 氏は続けます。「村や路上にいる人々、銀行員、起訴や逮捕に向けて努力している捜査員、その誰もが関係しています。こうした個別の状況を集約し、全体像を示す必要がありました。IBMはその可能性を与えてくれたのです。」

この状況に不可欠な要素は資金です。金融犯罪専門家の Geraldine Lawlor 氏によれば、人身売買から得られる利益のうち、押収されたり流れが断たれたりしたものは 1%と推定されています。「これは並外れて高い利益率なので、この犯罪に関与すれば高い利益が得られます」(Lawlor 氏)

McGrath 氏とチームが金融機関と共同で取り組んでいるのは、この理由からです。つまり、資金の流れを追跡できれば、人身売買の流れも追うことができるのです。資金洗浄は人身売買の主要な部分なので、これに関連した異常な取引のパターンを見極めることが重要なのです。「特定の場所で行われる特定のタイプの取引、特定のタイプの人身売買について、現れるパターンの洗い出しを始めています」 (McGrath 氏)

金融機関は、これまで決して入手できなかった情報にアクセスできるようになりました。これは、NGO、AI により収集した一般公開ニュース、他の金融機関といったさまざまなソースから集約したデータです。これにより展望が開け、焦点を明確にできるようになりました。

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データ・ハブ内では、認証された参加者がマップ・インターフェース、ニュース・エクスプローラー、分析レジスターにアクセスできます。マップは重要です。ホット・スポットがマップによって生成されるからです。そのデータはさまざまな経路からデータ・ハブに集約され、STTのようなNGOが McGrath 氏とともに手作業で厳選し共有しているデータも取り込まれます。IBM WatsonなどのAI エンジンもソースの 1つです。
データの利用者には法執行機関も含まれます。「彼らはオフラインでデータを引き出し、法医学的分析を行っています」と McGrath 氏は続けます。

先月、STTのオフィスで、McGrath 氏はデータ・ハブについて一通り案内し、マップ・インターフェース上のさまざまなメニュー項目を説明しました。
「これらはクラスター・マーカーです」と彼は説明しました。「マーカーは、件数、強度を表す色、期間を示しています。Watson、Google Earth、NGOコミュニティーから入手したデータが表示されています。」

McGrath 氏は、インド半島と英国における強度のクラスターを示し、「ズームインしてこれらのクラスターを分解すれば、その背後にある生データを参照できます」と紹介しました。

このデータ・ハブには、個人情報や機密情報はまったく保管されません。データは特別なものではないので、データの管轄領域を問うことなく、IBMクラウドに保管可能です。

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McGrath 氏は、マップの別の部分をクリックし、ルーマニアで起きた事件を例に説明しました。「もう 1つの重要な機能は位置タイプで、この場合では、中継地点はこちらです。事件の発生元はルーマニアで、ダブリンと北アイルランドの両方につながっています。この事件の背後にある詳細を調べれば、ダブリンを経由して北アイルランドの農業ビジネスに人身売買されている人々が浮かび上がってきます。」

画面にはラベンダー色のドットと十字線が表示されていました。これらは、都市、国、大陸をまたがってつながっています。売買され、移動しているのは、人間です。
これまでこのような情報をSTTのようなNGOが入手することはできませんでした。個々の状況が集約され、より完全な全体像にまとめあげることで、可能になったのです。

彼はさらに説明を進めました。「このシステムでは、中継地点と出発地点が分かります。出発地点について詳しく知っている、あるいは詳しいデータや専門知識があるパートナー NGOを調べることができます。この情報をもとに、共同作業ができるのです。」McGrath 氏は、銀行間でも共同作業とデータ共有が可能になるように、金融機関データのプロトタイプ構築に取り組んでいます。このプロトタイプは、トムソン・ロイター財団のベースルールを超えた取引に関するRedFlag情報に基づいています。

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属性のないデータは、事業体や個人に関する詳細は含んでいませんが、取引発生日時、抵触した規則やトリガー、取引元と取引先の都市を知ることができます。
McGrath 氏は、この種のデータを使用して近接相関度分析を行います。
「特定のタイプの人身売買と特定の期間について、オーバーレイを表示できます。また財務的な異常を示すデータに、NGOコミュニティーから得られる発生事象のヒート・マップをオーバーレイとして表示できます。」

データ・ハブは、金融取引に見られる特定パターンを明らかにします。McGrath 氏は、ダブリンからラゴスに流れる取引パターンを例として示しました。過去にも人身売買が行われたホット・スポットと隣接しているため、強調表示されています。データ・ハブのこの機能は、人身売買の可能性がある取引が積み重なった干し草の山の中で、この場所に針があるかもしれないという通知を、金融機関に提供します。

Dearnley 氏は次のように話します。「彼らはどこに行ったのでしょうか?どうやって?お金を払ったのは誰か?パスポートを取り上げたのは誰か?どの国境を超えたのでしょうか?私たちは IBMと連携して、そのデータを構築し、パターンを特定し、ホット・スポットを特定する作業を始めました。」

McGrath 氏が、次にデータ・ハブに組み込もうとしている機能は「予測」です。これは、履歴データのパターンを調べ、パターンがリアルタイムで繰り返されているか判定することで実現します。今後、データ・ハブでは将来起こる可能性を予測できるようになるでしょう。「取引情報はリアルタイム、またはほぼリアルタイムの情報です」と McGrath 氏は言います。「過去に起こった出来事のパターンを特定できれば、そのパターンを今ここで発生している事象と紐付けることができるはずです。そうすれば、今何が起こっているのか、その兆候が分かるでしょう。」


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