アナリティクス

青山学院大学が育成する「データサイエンティストとコラボレーションできる文系人材」とは?

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ビジネスの世界で「データ活用」が当たり前のものとなったいま、ビッグデータ活用のためのインフラ整備に加え、組織整備や人材育成の必要性が高まっている。人材育成という観点では、大学での教育が重要な役割を担うが、日本は他の先進国に比べて遅れをとっているのが現状だ。

そんな状況を危惧してか、最近では日本国内でも、理系人材だけでなく、経済学部、経営学部や社会学部など、統計やリサーチの基礎を学んだ「素養のある学生」に、データアナリティクスのスキルを学ばせる大学も増えてきている。

産学連携によって統計分析の実践的な学習に取り組む青山学院大学は、3年前からIBMのデータ分析ツールを活用したプログラムを実施している。これは、学生がビジネスの現場に対応したスキルを習得するためのプログラムで、第4回となる今回は、同大学経営学部の3つのゼミが合同でグループワークを実施。
学生たちは、グループごとに統計解析ソフト IBM SPSS Statistics(以下、SPSS Statistics)と、テキストマイニングツールの IBM SPSS Text Analytics for Surveys(以下、SPSS TAfS)を用い、「大学生向けの旅行商品の開発」という課題に取り組んだ。

感想、課題や将来への抱負 —— 参加学生から聞こえてきた生の声

2月初旬の後期試験終了後、SPSS StatisticsとSPSS TAfSの操作を学んだ学生に、分析用データとして、同大学の学生約1000人に実施した「旅行に望むこと」に関するアンケートデータが提供された。学生たちはこのデータに加え、オープンデータ、入手可能な公開データなどを用いて知見を導き、テーマである旅行商品開発に約2カ月間を費やした。その成果を発表する場として、2017年4月初旬に発表会が開催された。

発表会では各ゼミのグループごとに商品企画をプレゼンテーションしていく。例えば、女子大学生をターゲットとした「全身でヨーロッパにかぶれよう」と銘打ったヨーロッパ旅行のプラン、20歳以上の学生をターゲットにした「20歳以上の思い出に残るプラン・イタリア旅行」など、プラン内容やターゲット、プロモーション方法、旅行商品のメリットなどを発表。審査員を務めたIBM社員からは、データの活用法やそれに基づくターゲット設定、アイデアの着眼点や旅行プランの必然性などについて講評があり、評価できる点、改善すべき点などについて、ビジネスの現場さながらのアドバイスが行われた。

グループワークに参加した学生からは、
「商品開発には消費者のニーズをつかみ、データに裏付けされた企画が必要だということを学んだ(青山学院大学経営学部マーケティング学科2年生・望月 駿さん)」と、社会に出た後もデータの重要性を認識して仕事をしたいという抱負。

「ツールは使いやすかったが、統計学の手法、特に欲しい結果に対してどんな分析手法が必要かという点に難しさを感じた(青山学院大学経営学部経営学科3年生・榎本 佳奈さん)」との感想。

「実際に企業で使うSPSSを触ることができて楽しかった。分析を行って仮説に基づいてアンケートを設計する重要性を再認識した(青山学院大学経営学部マーケティング学科3年生・蒲生 丈次さん)」という課題などが聞こえてきた。
 

 

SPSSは操作が直感的、文系学生でもすぐデータ分析に取り組める

今回のグループワークの目的、狙いについて、青山学院大学 経営学部の小野譲司教授は、「マーケティングや経営学の研究や実践に必要な調査、データ分析を学ぶ実践的な機会」と位置付けている。

「経営学部のいくつかのマーケティングのゼミが主導し、4月からゼミが始まる新3年生が中心となって参加しました。つまり、正式には課外活動との位置付けです」

大学では、ゼミ活動の中での論文作成や4年次に提出する卒論制作の際に、サーベイや実験のデータを使った実証研究に取り組むケースが多い。学部のカリキュラムでは1、2年次に統計学の科目はあるが、「統計の基礎理論は学んでいるが、データ分析を踏まえて結論や提案を行うまでのトレーニングはしていません」。統計学の基礎を学ぶことは重要であるものの、基本的に講義は座学で、いきなり数学から入るようだと、文系学生は苦手意識を持ってしまいがち。「目の前の課題を解決するために、実際にデータを見て、それを試行錯誤しながら分析し、結果を応用するプロセスを学ぶ場が必要でした」と小野教授はプログラムの実施理由を語る。

さらに、小野教授は「統計解析ツールにSPSSが活用できる点」もこのプログラムのメリットとして挙げる。

「SPSSをはじめ、統計ソフトはいくつかの種類があります。本学も複数の統計ソフトを学生が使える環境にありますが、中でもSPSSは操作が直感的で、プログラムを書くことに慣れていない学生にとっては、環境構築の手間が格段に少ないのがメリットです。文系学部の学生にプログラムを学ばせると、データ分析や仮説立てに取り組む前に挫折してしまいます。本来、学生に学んでほしいことは、データをもとにプランをつくったり、研究を進めること。データや統計ソフトはあくまでその根拠を導くためのツールなので、SPSSを活用するメリットは大きいと感じています」(小野教授)

また、文系の学生がデータ分析を学ぶことのメリットも見逃せない。単なるデータ分析にとどまらず、コンセプトワークの部分で、文系学生には理系学生にはない強みがあるからだ。

データを正しく読み解く「リテラシー」を備えた人材を育成したい

プログラムを通じて得られた効果について、小野教授は「データ分析とアイデア創造の両立を図ることがいかに難しく、また、面白いことかを体験できる点」だと語る。

「マーケティングの演習では、データ分析も頭に入れつつ、仮説、企画、実行に軸足を置いています。グループワークの途中で中間発表を行いましたが、学習した分析手法に忠実過ぎるあまり、出てきた提案、プランが教科書的で面白くないケースもありました」(小野教授)

データはあくまで、仮説に基づいたアイデアの裏付けとなるもの。「データありき」で進めてしまうと、出てきたアウトプットは消費者目線やリアリティーに欠けてしまうことがある。「ターゲットが求める価値は何か、という仮説がなければ、データを生かすことは難しい」と小野教授。

データを分析し、活用するスキルは文系、理系を問わず、今後のビジネスにおける必須スキルとなる。小野教授も「例えば、広告のように、クリエイティブなイメージのある世界にも、どんどんデジタルが入ってきています。いまやデータがなければ、マーケティング、広告施策が打てない時代になってきました」と語る。

そこで求められるのはデータに関するリテラシーだ。つまり「データ分析をすべて自分たちで行う必要はないかもしれないが、最低限、分析結果を読み解く力、データそのものや分析結果に疑問を持つことができるリテラシー」を持つことが必要になる。小野教授もデータ活用という観点から、文系出身の人材育成について「 “データサイエンティストとコラボレーションしながら仕事ができる”人材を育成していきたい」と述べる。

今後、大学などの教育機関にも、より充実したデータ教育の提供がますます求められるだろう。SPSSは特に文系学部にとって、そのような取り組みを推進するための強力なツールとなるかもしれない。

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