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Anthony Lipp

Anthony Lipp

Global Head of Strategy, IBM Banking and Financial Markets
 

 

日本語翻訳監修
岡田正雄
日本アイ・ビー・エム株式会社
理事 グローバル・ビジネス・サービス事業本部
戦略コンサルタント
金融ソートリーダー

 

世界11カ国44人のIBM Industry AcademyおよびAcademy of Technologyのメンバーが、2021年の金融業界のトレンドについて意見を交わし、IBMのグローバルな業界動向を整理しました。私もIndustry Academyのメンバーとしてそこに参画しました。

金融業界に大きく影響するトレンドとして、次の8つに意見が集約しました。

  • 財務実績の低迷
  • 加速するデジタル化
  • 業界内外における競争激化
  • 場所を選ばない新しい働き方
  • クラウドベースの新しいビジネス・アーキテクチャー
  • オープン・データや無償データの増加
  • オペレーショナル・レジリエンスのチャレンジ
  • セキュリティーと不正取引リスクへの懸念

これらのトレンドについて、説明をさせていただきます。

「財務実績の低迷」は新たなビジネスモデルの導入の必要性を迫っています。
業界のPBR  (Price-to Book Ratio : 株価純資産倍率) は、他業界の平均を大きく下回っています。特に欧州の銀行は、きびしい状況にあります。これまでの対応では投資家が求めるROEの達成は見込めない状況であります。これに対処する方法は、収益成長と徹底的なコスト削減への取り組みのための新たなビジネスモデルの導入であります。また、市場評価の低迷、規模による効率化の必要性、さらに金融機関を救済から金融機関の統合がさらに進むことが想定されています。

「加速するデジタル化」により、デジタルでの相談や取引を受け入れています。
コロナ禍、顧客のデジタル・チャネルへの移行が急速に進みました。顧客がデジタル・チャネルの利用に適応せざるを得なかったのと同様に、金融機関もリモートワーク体制を整備し、パートナーやベンダーとのデジタルでの取引を早急に実現する必要に迫られました。デジタル・エクスペリエンスの増加に伴い、生活や仕事とシームレスでの連携や、ニーズに応じたリアルタイムでのサービスを望むお客様の声はより大きくなってきています。世界中の金融機関はリモート相談やインターネット・バンキングやモバイル・アプリでの取引の実現を進めています。

「業界内外における競争激化」により、金融と非金融の境界線が見えなくなります。
ビッグテック企業やプラットフォーマーは「外から内」に向かって動きながら、ビジネスを金融サービスにまで広げています。彼らは、人々の生活や仕事を中心にしたエコシステムを実現しており、さらに金融サービスを始めています。金融機関は新たな金融サービスモデルに対応するバリュー・プロポジションの開発を進めています。「内から外」に向かって変革を起こし、顧客情報を使った分析を通じて、非金融プラットフォーム上で顧客とのビジネスのきっかけを持とうとしています。

「場所を選ばない新しい働き方」は労働力の再定義を進めています。
リモートワークにより、社内外のメンバーがそれぞれ専門性により共同作業を進めることがさらに促進されました。このことは不足するデジタル人材の熾烈な争奪戦と相まって、人材の採用と管理方法に変化をもたらす、労働力の再定義がされることが想定されています。

「クラウド・ベースの新たなビジネス・アーキテクチャー」による新しい金融サービスを実現します。
既存のアーキテクチャーでは俊敏性と最適なコストを得ることができないといわれています。金融機関の中には「オープン・ハイブリッド・マルチクラウド・アーキテクチャー」に基づく、新たなオペレーティング・モデルへの移行を始めています。これは既存のアプリケーションのモダナイゼーションと同時に、関連会社や外部プロバイダーからAPIで提供されるサービスを調達し、それを組み合わせることを新しい金融サービスを進めることであります。

「オープン・データや無償データの増加」は新たなデータ戦略を組み立てます。
データ戦略がデジタル経済における持続可能な成功の支えとなります。成功するには、分析ツールや人工知能(AI)ツールを活用できる環境を整備する必要があります。また、外部からのオープン・データや無償データの活用を検討する必要があります。

新たな要件によって、「オペレーション・レジリエンスにチャレンジ」が増えています。
コロナの影響で緊急経済対策が発動されています。この対策に対して、コンプライアンスやリスクの責任者は将来に向けた新たな懸念を持っています。また、海外ではハイパースケーラーによるサービスの激増がオペレーショナル・レジリエンスに影響を与えないようにするために新たな規制が相次いで施行されており、金融機関側の対応が迫られています。

デジタル化の普及により、「セキュリティーと不正取引リスクの懸念」が高まっています。
チャネルの拡大、システムの相互連携の拡大、企業向けのマネジメント・クラウドサービスの利用といったデジタル化の普及により、セキュリティー・リスク、脅威、および不正取引の増加に拍車がかかっています。

変革の鍵

これらのトレンドを前にして、以下に示す5つの共通の実現手段を使いこなすことをお勧めします。

  • オープン・ハイブリッド・マルチクラウド・アーキテクチャービジネスの柔軟性を確保するためにハイブリット・クラウドを活用する
  • データとAIデータ環境を整備し、データ活用の知見を高める
  • セキュリティーとコンプライアンス:リスクとセキュリティーのデータを集約し、プロアクティブな管理をする
  • エコシステム:使いやすいセルフサービスや高度なソナライゼーションで、顧客に高い価値を提供する
  • 人材:新たな労働力の確保は新しいサービスを推進するために必要である
  • 銀行・金融市場に関するさらなる知見については、IBVの最新レポート

金融業界におけるさらなる知見については、IBVレポート「オープンなハイブリッド・マルチクラウドへ移行する銀行業務」をお読みください。

*このブログは、2021/1/15に発行された“2021 Global outlook for banking and financial markets(英語)の抄訳です。

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