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予測保守のコスト削減効果を検証!デジタル時代に本領発揮?

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予測保守とは

予測保守とは、資産や機器に関して受け取ったデータに基づき、障害が発生する前に資産または機器を修復するための資産管理プラクティスです。また、その意義は、稼働状態を維持してコストを制御することです。

予測保守は以下のように、資産管理の第3段階です。

  1. 修理保守: 問題または障害が発生した後に行う修復
  2. 予防保守: 経験に基づいて行うスケジュール済みの修復
  3. 予測保守: 障害が差し迫っていることを資産のデータが示しているために行う修復

資産とは何か

国際標準化機構(ISO)55000によれば、資産とは「実際の価値または潜在的な価値を持つもの、アイテム、またはエンティティー」です。資産は組織の物理インフラストラクチャーの一部であり、車両、電子機器、設備、機械、コンピューターなどが含まれます。

予測保守がシステムとソフトウェアの機能として登場したのは、より多くの情報が資産自体から利用可能になるとともに、運用や保守の機能がデジタル化されたためです。

具体的な要因は、以下のとおりです。

  • 設置および接続した資産から収集した大量のデータが利用可能
  • IoT(Internet of Things)を通じて収集したデータが利用可能
  • 分析の進歩によって、データから洞察を獲得
  • 機械学習(システムがプログラミングなしでデータから独力で学習する能力)などの人工知能(AI)テクノロジー

予測保守が重要である理由

故障の前に修復すると、故障の後で修復するよりも、効率が良いだけでなく、コスト効果も高くなります。

予測保守をすることのコスト削減効果 左:予測保守をすることで、予防保守にかかる全体費用を最大50%削減
 右:予測保守をすることで、予防保守にかかる時間を50〜70%削減

予測保守をすることのコスト削減効果

左:予測保守をすることで、予防保守にかかる全体費用を最大50%削減
右:予測保守をすることで、予防保守にかかる時間を50〜70%削減

さらに、以下の点でも役立ちます。

  • ダウン時間を回避して生産性を向上
  • 資産の耐用年数を伸ばして新規購入を先送り
  • 修復のコストと複雑さを軽減
  • さらなる損傷や関連する損傷を軽減
  • 規制の標準とコンプライアンスの遵守
  • 予備部品、資材、在庫の管理
  • 最終的には収益の増加

これらのメリットは、組織が予測保守のテクノロジーやプラクティスを活用するための原動力となります。IBMによると、「資産集約型産業(石油、ガス、製造、輸送など)の大半では、資産のライフサイクル全体にわたって、その価値を最大化する方法に各企業が頭を悩ませています」。

以下では、予測保守のテクノロジーやプラクティスを活用している3つの企業事例を紹介します。

■PhotonStar Technology
インテリジェント照明の設計と製造やインテリジェント・ビルのソリューションを手がける英国のPhotonStar Technologyは、エネルギー使用量や建物占有率といった施設や機器のメトリックを収集し、これらの情報を暗号化して、クラウド上での分析に向けて統合するシステムを開発しています。同社のお客様はダッシュボードを使用して効率性を追跡し、予測保守計画を作成した上で、リモートからリアルタイムで状況をモニターします。

■日本の自動車メーカー
ある日本の自動車メーカーは、IoTを使用して自社の溶接プロセスの動作をモデル化しています。この会社は、故障や障害の原因要素を特定し、装置故障の重要な前兆を見つけ出したいと考えていました。このシステムは、誤検出なしで90%の障害予測を提供しており、障害の50%は2時間以上前に予測されます。高度な予測により、同社は1つの障害につき1.5時間を節約しました。

■大手航空機メーカー
ある大手航空機メーカーは、IoTを活用して精密アセンブリー・ツールの調整状態を維持しながら、製造品質を向上させています。作業現場のツールから収集したデータと機器の故障データを予測品質分析に使用して、保守が必要と思われるツールを識別するモデルを生成します。障害のあるツールは、保守と再調整のために作業現場から速やかに除去されるため、製造品質の向上に大きく役立ちます。このソリューションでは、精度の劣化したツールが航空機製造のワークフローに残らないようにすることで、数百万ドル分の再作業と数カ月の製造遅延を回避して、1年以内に100%の資金回収を達成しました。

効果的な予測保守の主な機能

効果的な予測保守では、デジタル化されたシステムを通じ、高度な分析とAIテクノロジーを用いて、計測装置とIoTから集約されたデータを活用します。

IBMはIndustry Weekで行われたA. T. Kearneyの調査に注目しています。この調査では、コンピューター化された保守管理システムを使用した558社が、以下のような状況を平均的に示しています。

  • 保守の生産性が28.3%向上
  • 機器のダウン時間が20.1%低下
  • 資材コストが19.4%低下
  • 在庫の保守と修理が17.8%減少
  • 14.5カ月で資金を回収

 

予測保守をすることで得られる結果 上段左:機械のメインテナンス費用を最大25%削減 上段中:機械の故障を最大70%削減 上段右:機械の故障時間を最大50%削減 下段左:予測外の機械の機能停止を最大50%削減 下段中:スケジュール済みの修理を最大12%削減 下段右:設備投資を3〜5%削減

予測保守をすることで得られる結果

上段左:機械のメインテナンス費用を最大25%削減
上段中:機械の故障を最大70%削減
上段右:機械の故障時間を最大50%削減
下段左:予測外の機械の機能停止を最大50%削減
下段中:スケジュール済みの修理を最大12%削減
下段右:設備投資を3〜5%削減

組織がこれらのシステムを効果的に使用するには、以下の4点が必要です。

■統合
組織は資産管理の一部として、幅広い物理資産と技術資産の信頼性を追跡、評価、管理する必要があります。アプリケーションとデータを分断した状態で実行しているテクノロジー・インフラストラクチャーも、この課題に追加すべきです。「分断された」システムを統合すれば、潜在的な障害を特定して伝達する際の可視性と効率が向上します。

■IoTの組み込み
気象に関する情報やRFID(※注1)対応データ、交通情報、その他のデバイスやソースからの情報といったIoTデータを用いると、予測保守を拡張して強化することができます。たとえば、天候によって、農業や石油・ガス生産で使われる屋外の機器、または医療やバイオテクノロジーなどの分野で使われる非常に繊細な機器が影響を受ける可能性があります。IoTはまた、何百万台もの機器からの情報を統合することも可能です。たとえば、エレベーターとエスカレーターの製造を手掛けるKONE Corp.は、世界中の建物に設置された110万基以上のエレベーターやエスカレーターをリモートでモニターし、その管理を最適化しています。

注1:ID情報を埋め込んだRFタグから、電磁界や電波などを用いた近距離の無線通信によって情報をやりとりするもの、および技術全般のこと

■品質データの分析
資産に関するデータを収集して分析する機能によって、組織は修理保守から予測保守へと移行できます。予測分析と機械学習などのAIテクノロジーを大量の運用データに適用すれば、機器のパフォーマンスをより詳細かつ正確に把握できます。

分析されるデータの品質と完全性も重要です。IBMによると、「資産データの健全性を見過ごすのは、ありがちな失敗です。完了したフィールドや検証済みのデータがなければ、分析はできません。信頼性の高い分析レポートをサポートするには、資産レジストリー、部品在庫、作業完了などの重要な領域でデータ・フィールドの正常性を分析することが不可欠です」。

■信頼性と効率性に注力
信頼性に取り組むエンジニアは、予測分析の強みを活かし、運用データやその他の要因に基づいて、機器の耐用年数に関して統計的に有効なモデルを作成できます。これらのモデルを使用すると、運用の信頼性と可用性に影響を与える重要なリスクに注力できます。

また、この機能により、効率性を高めることができる保守戦略の開発も可能になります。たとえば、分析によって、現行の機器保守のスケジュールとプラクティスは理想的であり、変更は不要と示されることがあります。または、故障を回避するために迅速な保守が指示されることがあります。あるいは、不要なコストと労力を避けるために保守を延期する可能性もあります。

予測保守のリソース

予測保守を活用して運用の改革を実現するためのリソースとして、IoT、モビリティー、クラウド・コンピューティング、分析への投資など、デジタル・テクノロジーが鍵を握ります。そのためには、予測保守と資産管理をより広いコンテキストで捉え、IoTをはじめとするデジタル・テクノロジーが、どのような変化をもたらしているのか、リーダーが率先して考えていくことが重要になるでしょう。