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10年後にAIはどう変わるーーMITとIBMがAIラボを新設

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18世紀の産業革命以来、新しいテクノロジーは基礎教育や高等教育に与える影響を増してきた。初めは蒸気機関、ついで電子工学、そしてコンピュータサイエンスが生産性をこれまでになく増大させる際に、それを活用できる人材が求められたからだ。現代においても変わりはない。例えばIBMとマサチューセッツ工科大学(MIT)はこんな発表をしている。

両社は、MIT-IBM Watson AIラボを共同で設立し、今後10年間で2億4000万ドル(約272億円)を投資する。ラボではAIに関する基礎研究を基本に、ヘルスケアやセキュリティなど実用的な研究や、社会的、経済的にAIがどのような影響を及ぼすのか、といった研究もターゲットだ。

IBMとMITはこれまでもAIに関する共同研究を行ってきた。2016年には「Brain-inspired Multimedia Machine Comprehension(BM3C)」と呼ぶプロジェクトのため、新しい研究施設も開設している。今回のラボもその一環で、10年間という長期間で270億円にも及ぶ巨額投資は、産学連係としては異例の規模である。

およそ100人のAIを専門とする研究者や学生、専門家がこのプロジェクトへ参加。AIそのもののイノベーションを推し進める同時に、社会的・経済的なAIの貢献を同研究所にて進めていくのが特徴だ。人工知能の未開拓分野を前進させるのはもちろんだが、商用化して新しい企業を立ち上げていくことも明確な目標として掲げている。

具体的には「AIアルゴリズム」「AIのための物理学」「AIの産業応用」「AIのもたらす豊かさの社会的共有」だ。

 

AIアルゴリズム:機械学習と推論の能力を拡張するための高度なアルゴリズムの開発。研究者は、より複雑な問題に取り組み、堅牢な継続的学習からメリットを得るような、専門的なタスクに限定されないAIシステムを新たに開発します。また、ビッグ・データが利用可能な場合には活用する一方、限られたデータからも学習して人間の知性を拡張できる新しいアルゴリズムを開発します。

AIのための物理学:AIモデルの学習と導入について新しいアナログ・コンピューティングのアプローチを実現するような新しいAIハードウェア材料、デバイス、アーキテクチャーについて、また、量子コンピューティングと機械学習の組み合わせについて研究します。後者では、AIを利用して、量子デバイスの特性の調査と改善を支援します。また、機械学習アルゴリズムとその他のAIアプリケーションを最適化し、高速化するための量子コンピューティングの利用についても研究します。

AIの産業応用:IBM Watson Health and IBM Security本部とケンドール・スクエアは生物医学イノベーションの世界的な中心地にあることを活かし、ヘルスケアやサイバーセキュリティーなどの分野で専門家が利用する、新しいAIアプリケーションを開発します。このコラボレーションによって、医療データのセキュリティーとプライバシー、医療のパーソナライゼーション、画像解析、患者別の最適な治療方針などの分野で、AIの利用が検討されます。

AIのもたらす豊かさの社会的共有:MIT-IBM Watson AIラボでは、より広範な人々、国、企業に対して、AIがどのように経済的、社会的なメリットをもたらすことができるかを検証します。また、AIの経済的影響について研究し、AIがどのように生活を豊かにし、個々人の目標の実現を支援できるかを調査します。

 
テクノロジーのトレンドに詳しいEngadget日本版の元編集長を務めた鷹木創氏はこう話す。「10年前の2007年、米AppleがiPhoneを発表し、世界の携帯電話を再定義しました。あれから10年、コンピューティングはすっかり手のひらに納まりました。世界のテクノロジーはスマートフォンとともにあったと言えるでしょう。2017年、何度目かのAIの息吹を感じるなか、MITとIBMの協業はテクノロジーの潮流が再び変化することを教えてくれています。2030年代に起こるというシンギュラリティ(技術的特異点)。10年後の2027年には両者の研究からシンギュラリティの芽生えが見られるかもしません」

20世紀後半から産学それぞれにおいて人工知能分野をリードしてきたIBMとMIT。両組織は今現在実用化されているもののブラッシュアップだけではなく、早くも次世代のAI、そしてAIがより一層生活に浸透した社会を見据えている。