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Smarter Business

MicrosoftとIBMの協業で、企業DXにもたらすMicrosoft Azureのインパクト

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北垣 康成氏

北垣 康成氏
日本マイクロソフト株式会社
パートナー事業本部
パートナー技術統括本部
技術戦略第一本部
シニアパートナーテクノロジーストラテジスト

日本マイクロソフトで、パートナー企業のクラウドソリューション構築を支援する部門に所属。日本IBMの担当として、CoEや、案件の技術的支援、トレーニングの企画・実施などを担う。以前は、日本マイクロソフトで、データベースを専門としていたが、現在は、グローバルにおけるクラウド・ファーストの方針にともない、Microsoft Azureを中心として技術的な視点から協業を推進している。

 

中原 静

中原 静
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
ハイブリッド・クラウド・サービス
ストラテジック・パートナーシップ
アプリケーション・アーキテクト

クラウドベースのアプリケーション/システム開発部門に所属。Azureを含むパブリック・クラウドを活用したシステム構築案件の推進をリード。ハッカソン実施・技術検証(PoC)、クラウド移行構想策定から下流のシステム構築まで、様々なタイプのクラウドベースのプロジェクトをアーキテクト・ロールとして支援。

日本マイクロソフト株式会社(以下、Microsoft)と日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、IBM)は、クラウド領域における協業を強化した。テクニカル面を牽引する部署「Microsoft – IBM: Azure Tech CoE」を立ち上げ、定期的な案件検討会や相談会、セミナーなどを開催。お互いのスキル向上に努めながら、顧客企業に向けて「Microsoft Azure」を活用したソリューションの導入支援を進めている。

その背景にあるのは、企業のデジタル・トランスフォーメーション(DX)でのクラウド導入の加速だという。クラウド自体が進化して多機能になるのに伴い、現場では人材育成やスキルアップが急務となっている。Microsoftでテクノロジー・ストラテジストとしてIBMとの協業に携わる北垣康成氏と、IBMでクラウドのシステム構築アーキテクトを務める中原静が、両社の協業がもたらす意味と企業のDX推進におけるMicrosoft Azureの強みについて対談した。

企業DXにおけるクラウド利用は加速、Microsoft Azureが重要な選択肢に

——MicrosoftとIBMは、顧客企業のMicrosoft Azure導入を支援するため、協業を強化したと伺いました。協業強化の背景と、お二人の立場を教えてください。

北垣 私は、Microsoftでパートナー事業本部に所属し、テクノロジー・ストラテジストとしてIBMとの協業にも携わっています。

中原 IBMのコンサルティング事業本部で、クラウドのシステム構築アーキテクトを務めています。アプリケーション・アーキテクトとしてキャリアをスタートさせ、お客様企業のシステム構築をサポートしてきました。新しい技術が好きだったこともあり、IBMのコンサルティング事業本部においてクラウド・サービスの導入支援を始めることになった2014年、真っ先に手を挙げました。以来、ずっとクラウド・サービスに携わっています。

2社の協業の背景には、ここ6〜7年の潮流でもある企業DXがあります。顧客接点を強化したい、新しいサービスを導入したいなど、加速度的に変化を続けるビジネス環境を踏まえると、最初から企業のニーズにぴったりマッチしたアプリケーションを提供することは難しくなりつつあります。求められるのは、柔軟にアプリケーションを構築できるシステムやIT基盤で、それを実現するための重要な要素が“クラウド”です。

IBMも、自社のクラウド・プラットフォームである「IBM Cloud」を提供していますが、今は一つのクラウド・プロバイダーに頼る時代ではなくなりつつあります。事業のプロセスに応じて、複数のクラウドを指定するお客様企業も増えてきました。マルチクラウドの時代になってきたのです。そのためIBMも、よりきめの細かいサポートとともにMicrosoft Azureをご提供していくため、Microsoftとの協業を強化しました。

北垣 業種や各企業で、DXに求めるフェーズや成熟度は異なり、必然的にMicrosoft Azureが求められることも違ってくるでしょう。IBMは、多くの業種や企業の幅広い要望に応え、クラウド導入のコンサルティングから実装までをサポートしてきた実力と実績があります。DXの上流からシステム構築・運用を協業して進めることができるのは、Microsoftとしてもありがたいことです。

——DXが潮流となっていることは誰もが認めるところだと思います。2社の協業により、DXを進めたい企業にどのような価値提供ができるのでしょうか。

北垣 潮流とはいえ、「DXはやる。ただ、どのように進めればいいのだろう?」といった状況で、具体的なイメージを描けている企業は一握り。多くの企業は、イメージが断片的だったり、大枠だけだったりといった状況ではないでしょうか。

例えば、製造業のお客様企業からは、デジタルツイン(現実の情報をデジタル化し、仮想空間上に再現した現実世界のモデル)によって、製品やプロセスの最適化を進めたいという要望をよくいただきます。しかし、お話をお聞きすると、そのための具体的な作業として何をすればいいのかわからず、止まっていることが多い。

そこで必要なのは、方向性を固めていく作業です。ITのスペシャリストが揃ったIBMの支援が入ることで、お客様企業が漠然と描いているDXのイメージを具体的な形にしていくことができるでしょう。

中原 ありがとうございます。既存システムを棚卸ししてDXにどう組み込んでいくのかといった大きな枠組みから、どのようなアプリケーション向けにクラウドを活用していくのかといったクラウドの構想化、個々のアプリケーションにおける要件やニーズをどうつなぎ合わせてシステムを構築するのかといった作業まで、DXサポートは私たちが得意とするところです。

多くのお客様企業は、ミドルウェアを含むインフラ基盤の改修ではなく、ビジネスの価値を生むアプリケーション作りに資源(労力・コスト)を投資したいと思っています。そのため、「インフラ基盤にクラウドを使うことで、労力やコストを最小限におさえたい」「Microsoft Azureなどのクラウドは、マネージドサービス(ユーザーに代わってクラウドを管理代行するサービス)を活用したい」といったニーズがあります。それは同時に、私たちの協業で提供できる価値にもなります。

CoEを結成し、テクニカルな側面でも密な関係性を構築

——そのような顧客企業のニーズに応えるために、MicrosoftとIBMでは、どのような取組みを進めているのでしょうか。

北垣 グローバルのレベルで、2社の協業強化が合意され、それを受けて日本でも協業を進めています。まずは、ビジネス面の関係強化を図るために協業の体制を確立いたしました。その時点での体制では、具体的な案件やソリューションの話まで踏み込むとなると、ビジネス面だけではカバーできません。そこで、テクニカル面の関係も強化するために、IBMにCoE(Center of Excellence/中核となる部署)を立ち上げることになりました。

中原 それが、IBMのMicrosoft Azure専属テクニカルチームと北垣さんのチーム(Microsoftパートナー事業本部/IBM専任チーム)で立ち上げたMicrosoft – IBM: Azure Tech CoEです。これにより、ビジネス面とテクニカル面の両方からお客様企業を支えていく体制が整いました。2021年7月よりMicrosoft – IBM: Azure Tech CoEとして協業活動を開始しました。

協業スキームにおける活動は多岐に渡りますが、実際の案件をベースにMicrosoft Azureを活用してどう要件に応えていくかのリアルな技術相談や検討を一緒にさせていただいています。また、お客様企業の関心が高い領域のソリューションについての詳細情報を解説いただいたり、Microsoft Azureの技術動向などの最新情報だったりも共有いただいています。イベントやセミナー情報や技術に関する公開情報なども漏れなく共有してもらえるため、IBM側としてとても助かっています。

例えば、Microsoftの有志社員が利用している「Azure標準ガイドライン」の共有なども、そのうちの一つです。協業活動を通じて得た有用情報はIBMの社内でも横展開し、IBM内のMicrosoft Azureに関するスキル向上につなげています。

北垣 ほかには、個別の案件についてのAzure相談会「Azure Office Hours」、IBMのコンサルタント向けセミナー「Microsoft Azure Fridays」なども開催しています。そのような活動のかいもあって、IBMにおける「Microsoft Azure認定取得者」は増えつつあります。日本だけでなく世界レベルで比べても、かなりの人数になるはずです。

中原 Azure Office Hoursでは、アクセス管理サービス「Microsoft Azure Active Directory」の利用から、Microsoftの複合現実「Microsoft HoloLens」を活用するソリューションまで、幅広い領域でMicrosoft Azureの専門家に相談に乗ってもらえます。私個人としても、Azure Office Hoursが、北垣さんと一緒に仕事をしていると最も実感できる取組みですね。

Microsoft Azure Fridaysでは、まずは業界別・技術別のセミナーを10回開催しました。その後、演習編として、お客様からRFP(Request for Proposal/提案依頼書)をいただいたと想定して、IBMのコンサルタントが要件を満たすMicrosoft Azureソリューションを具体化しました。それだけでなく、Microsoft Azureの月額利用料の見積もりも演習に含まれていました。RFP回答作業は通常、短期間にやらなければならない作業なので、約50人の参加者にはとても良い実践・訓練の場となり、非常に満足度の高い演習になりました。

Microsoft Azure上のOpenShiftでコンテナのメリットを迅速に提供

——協業強化により、実際の現場ではどのような効果が出ているのでしょうか。

中原 最適なソリューションをともに考える土俵ができたため、提案力が上がりました。提案スピードも速まっていますし、なにより、実際にお客様企業をサポートさせていただく件数が増えています。

さきほども述べた通り、お客様企業は柔軟なシステムを望んでいます。同時に、アプリケーション開発に集中したいと考えており、これに対する私たちの解はクラウド上のコンテナ基盤を使うことです。また、IBMは以前よりオープンソースの活用を重視しており、DXにおいても積極的なご提案をしています。

例えば、IBMが提供しているオープンソース・ベースのコンテナ基盤「Red Hat OpenShift」は使いやすくて既に広く利用されており、さらにMicrosoft Azureには「Azure Red Hat OpenShift(以下、ARO)」がメニューとして整備されているため、迅速なご提供が可能です。

AROはマルチゾーンでクラスタ構成を組むことが可能なため、高い可用性を必要としているお客様企業にも、自信を持ってご提案できます。Microsoft Azureの標準ツール「Microsoft Azure Monitor」に対するログの連携方式の選択肢について、北垣さんに相談したうえで、最適な解決策をご提案したこともあります。

北垣 オープンソースは、CEOの方針などもあり、Microsoftでも重視しています。

中原 その点から、日本ではWindows仮想サーバーよりもやや上回るほどLinux仮想サーバーが活用されているとお聞きしています。これはIBMの技術者にとってもありがたいことで、Microsoft Azureでの「Linux」やPaaS(Platform as a Service)での「PostgreSQL」など、オープンソースベースのサービスが数多く提供されています。

北垣 Linuxディトリビューションにおいて、「Red Hat」「CentOS」などは利用の比率が高いので、私たちとしてもIBMとご一緒する有利性を感じています。

——そのほか、お客様企業のメリットはありますか。

中原 「Windows Server」「SQL Server」などオンプレミスからMicrosoft Azureへの移行、「.NET」アプリケーションからMicrosoft Azureへの移行などで、ライセンス費用を引き継ぐことができ、コスト面でのメリットは大きいと思います。

また、ユーザー認証やアクセス管理で広く使われる「Active Directory」やビジネスアプリケーション「Dynamics 365」「Office 365」などとの容易な連携・高い親和性も、Microsoft Azureの大きな魅力と言えるでしょう。

MicrosoftとIBMによる取り組みを、カスタマーサクセス、データ基盤などにも拡大

——協業強化の中で見えた、MicrosoftとIBM、お互いの魅力についてお聞かせください。

北垣 IBMは、お客様企業の要件を満たすことはもちろん、IBMだからこそ提供できる価値はどこにあるのか、その議論を常に行っています。その姿勢や企業カルチャーには学ぶところが多いですね。

テクニカル面では、Red Hatの技術、特にOpenShiftに魅力を感じます。運用環境にあるサーバーとステージングサーバーを交互に交換しながら実装する「ブルーグリーンデプロイ」は、難しい反面、システムの停止時間を最小限に留められる魅力的な手法です。OpenShiftには、その手法を効率的に取り入れることができる仕組みが備わっています。クラウドでビルドしてDevOpsにのせるといった枠組みもあり、よく考えられている技術だと思います。

中原 Microsoft Azureは世界でも最大級の規模であり、成長率はトップクラスのパブリッククラウドでもあります。金融業界において、日本で初めてクラウド上でバンキングシステムを稼働させた実績もあり、ミッションクリティカルシステムの実績という点では抜きん出た存在だと思います。また、市場におけるMicrosoft Azureの実績と知名度の高さも魅力の一つです。

さきほどLinuxやオープンソースの話が出てきましたが、MicrosoftはGitHubを買収するなど、企業として常に変化し続けていると感じています。IBMもビジネスの業態がハードウェアからサービス中心へと変化し続けています。お互いに変革を遂げてきた企業ということで、共通点や親近感がありますね。

——MicrosoftとIBMの協業強化により、今後はどのようなことが実現していくのでしょうか。お互いに期待することもお聞かせください。

北垣 私たちは2つの点で“深化”していきたいと考えています。1つ目は、DXで必要となるデータ基盤です。Microsoftにはデータ統合や分析の技術「Azure Synapse Analytics」があり、構造化データ・非構造データ・NoSQLなど、広範囲にわたってデータを扱うことができます。ただ、これまでの2社の取組みはアプリケーションの開発基盤が中心でした。今後は、データ基盤のソリューションでも一緒にできればと考えています。

中原 弊社にもデータアナリティクス領域を専門としたコンサルティングチームがあり、データサイエンティストなどの専門家もいます。データのガバナンスや、Azure Synapse Analyticsの能力を引き出すところは、私たちが得意とする領域です。ぜひ一緒に進めたいですね。

北垣 2つ目はカスタマーサクセスです。お客様企業との関係が変化しており、クラウドでは販売後の丁寧なフォローも求められます。Microsoftとしても力を入れている分野であり、人材にも投資しています。カスタマーサクセスにおいてもIBMと一緒にできることがありそうです。

中原 付け加えさせていただくと、Microsoftのローコード技術である「Power Platform」への問い合わせが増えています。さまざまなデータを組み合わせて、簡単にビジネスソリューションを構築するもので、DXが進むとさらにニーズが高まると予測しています。しっかりサポートできるように、知識とノウハウを積んでいきたいです。

クラウドは日進月歩で技術がどんどん変わっていきます。そのため、お客様企業がクラウドを導入した後もご支援を続けていくことが大切です。Co-Sell(共同販売)によるメリットが最大限発揮し、コツコツと実践を重ね、お客様企業のDX実現に貢献していきたいですね。