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LINE砂金信一郎氏が語る、エンジニアが「SI屋」にならないためのヒント

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取材・文:安田博勇、写真:高橋枝里

来る6月11日にグランドプリンスホテル新高輪 で開催される「Think Japan – Developer Day」は、今、イノベーションを起こす当事者として期待されるデベロッパー、エンジニアのためのイベントだ。当日、予定されているセッションのなかで特に注目してほしいのが、LINE株式会社Developer Relations Team マネージャー/プラットフォームエバンジェリストの砂金(いさご)信一郎氏による「LINEがIBM WatsonエコシステムとつくるAI、コミュニケーションの未来(仮)」だ。イベントに先立ち、本記事では砂金氏にエンジニアとコミュニケーションの未来について聞いた。

 

最近のIBMは“ギャップ萌え”?

——今年6月11日、IBMの「Think Japan – Developer Day」で登壇いただきますが、砂金さんの目に最近のIBMはどのように映っていますか?

砂金:ちょっと言葉が適切ではないかもしれませんが、あえて言うならば“ギャップ萌え”なところを感じますね(笑)。これまでのIBMといえば、メインフレームからの金融方面を中心に“しっかりとしたサービスを、ちょっとお堅くやる”というイメージが強かったと思います。

しかし、IBM Watsonというテクノロジーを世の中に打ち出したことで、未来に対するみんなの期待がかき立てられた。さらにスタートアップや個人を含めたデベロッパー、エンジニアとともに「こんなこともできるかも!」と可能性を追求していると感じます。今回の「Think Japan – Developer Day」も、従来のIBMのイメージを良い意味で裏切るイベントではないでしょうか。

インタビューを受ける砂金氏

株式会社LINE Developer Relations Teamマネージャー兼プラットフォームエバンジェリストの砂金信一郎氏

 

エンジニアを触発する、LINEの取り組み

——砂金さんは日本マイクロソフトのエバンジェリストとしてご活躍された後、一昨年LINEに移籍されました。現在はどのような仕事をされていますか?

砂金:役職でいうとDeveloper Relations Teamマネージャー兼プラットフォームエバンジェリストとして、LINEが提供するさまざまなサービスを広く世の中に広めています。

現在、LINEの国内月間アクティブユーザー数(MAU)は7,500万人です。LINEというとおそらく「無料で使えるコミュニケーションアプリ」というイメージが強いと思いますが、実は収益の半分を占めているのは広告サービス。さらにそれとは別の「戦略事業」として、フィンテック系の「LINE Pay」、コマース系の「LINEショッピング」、その他「LINEモバイル」等々のサービスを展開しています。

そうしたものをすべて含んだ「オープンプラットフォーム」の拡大がLINEの事業の本質なのですが、そうした実態はなかなか知られていないのが正直なところ。IBMと同様、デベロッパー、エンジニアとともに「こんなこともできるかも!」という可能性を追求していきたいので「実はLINEを使うとこんなことをできるんですよ」「こういうサービスをつくったらエンドユーザーに喜んでもらえるかも」ということをデベロッパー向けにご提案するのが、今の私のミッションです。

インタビューを受ける砂金氏

——具体的には、LINEを使ってどのようなサービス開発が可能なのでしょう?

砂金:例えば、本腰を入れているのが「LINEログイン」です。これを使用すればユーザーのLINEアカウントで、アプリやウェブサイトのアカウントを簡単に作成することができます。あとは「Messaging API」。エンジニアが開発したサービスとLINEユーザーの双方向コミュニケーションを可能にします。

例えばヤマト運輸は、LINEアカウントとクロネコメンバーズのアカウントを連携させて、荷物のお届け予定や不在連絡の通知をLINE上で受け取れるサービスを展開しています。キリンビバレッジバリューベンダーは、LINE Pay対応自動販売機とLINE Beaconを組み合わせた「Tappiness」(タピネス)というLINEプラットフォームを活用した新たな体験提供に取り組んでいます。

これらはいずれもLINEのAPIと企業のシステムを連携させる法人向けサービス「LINE ビジネスコネクト」から生まれたサービスですが、エンジニアの皆さんにこうした実績をご紹介するにつれ「そんなこともできるんだ!」というお声をいただくことが多いですね。

——エンジニアからは、他にどのような反応がありますか?

砂金:よくあるのは「LINEがそこまでAPIの間口を拡げていた」という反応でしょうか。どうやらLINEはクローズドで自前主義をいうイメージが強いらしく、「思っていた以上にオープン」だと感じるようです。あとは、個人のデベロッパーの反応としては「意外に安い」ということ(笑)。気軽に開発を始められる点は、おそらく徐々に認知されてきているのではないかと感じています。

インタビューを受ける砂金氏

 

人間を幸せにする、テクノロジーの力

——2017年3月にLINEのチャットボット開発促進とユーザーへの普及を目的としたイベント「LINE BOT AWARDS」を開催されました。

砂金:いわゆる外部開発者向けのハッカソンで、最終候補24作品の中から優勝したのは、目・耳の不自由な人をLINE Beaconとチャットボットを介してサポートする「&HAND」(アンドハンド)でした。

視覚障害者が持つ白杖(はくじょう)にLINE Beaconを仕込み、「あなたの周りに少し困っている人がいますよ」といったことを近くのLINEユーザーに通知として知らせる、といったアイデアです。同じ発想でいけば、妊婦さんのマタニティマークなんかにも展開できそうですし、テクノロジーでもっと思いやりのある社会を実現できるかもしれないと言う観点で、非常に意義がありますよね。私たちとしてもLINE Beaconを「まさかそういうかたちで活用してくれるとは!」というのが、正直な感想でした。

——LINEとしても意外なサービスだった?

砂金:あまり言い過ぎると会社の人間から怒られてしまうかもしれませんが(笑)、LINEはあまり真面目すぎてはいけない“媒体”だと思うのです。どちらかというと、気軽かつ使っていて楽しくなるようなサービス、が求められていると思います。
何かで困っている目の前にいる人を、テクノロジーの力で幸せにする――ものづくりが得意なデベロッパーの皆さんが、より自由な発想から開発してもらえる媒体でありたいと考えています。

インタビューを受ける砂金氏

 

脱・日本的エンジニアのために今すべきこと

——2017年3月にLINEのチャットボット開発促進とユーザーへの普及を目的としたイベント「LINE BOT AWARDS」を開催されました。

砂金:まず前提として、日本と海外それぞれのエンジニアの仕事がどんなものかを考えなければいけないと思います。日本の場合、同じ“エンジニア”というくくりでもエンタープライズITの人たちと、スマホアプリなどを開発している人たちとでは認識のギャップがある。そして、日本では前者の領域、いわゆる“SIer”をもじって“SI屋”とも呼ばれる、仕様書通りに受託開発を行うエンジニアのほうが多いのが実情です。

海外となれば、これが逆転します。エンジニア1人ひとりが「自分たちはこの技術で世の中に打って出るんだ」という意気込みで開発に取り組んでいますし、仕様書通りに仕事をする日本的なエンジニアは、海外ではずっと少ないのです。

——日本と海外それぞれのエンジニアが持つ視点で、もっとも違うのはどのようなところですか? また、海外的マインドに切り替わるにはどうしたらよいと思いますか?

砂金:端的に言えば、きちんとユーザーに向き合えているかどうかが重要です。クライアントの仕様書通りに開発するような仕事ばかりやるのでなく、自ら主導権を握って開発にあたれる環境を探してみる。もちろん普段の業務の中だけでそれを達成するのは難しいでしょうが、平日の昼間に会社で仕事をしながら、土日の休日などを使って社外ハッカソンや社外勉強会に参加しているエンジニアもたくさんいます。

彼らはハッカソン参戦や勉強会参加などを通じ、名刺交換で自己紹介するような肩書きをいったん外に置いて、1人のエンジニアとして純粋にその場を楽しんでいます。

インタビューを受ける砂金氏

——「LINE DEVELOPER DAY」や「LINE BOT AWARDS」も、まさしくそういうコミュニティですよね。

砂金:そうですね。LINEでは他にも「LINE API Expert」というプログラムを展開しています。これはLINE外部で活躍され、かつ、LINEのAPIに対する深い理解と高いスキルを持ち、コミュニティにも強い影響力を持つエンジニアのコミュニティです。情報開示、プロダクト無償提供、セミナー支援、ビジネス支援などのインセティブがあり、現在20名ほどのエキスパートを認定。日本人のエキスパートも5名いらっしゃいます。

業務時間外はいっさい仕事のことを忘れるという生き方・働き方もあるかもしれないけれど、海外的なマインドを持つための近道は、誰にも命令されず、みんなとわかり合えるコミュニティに積極的に触れ、達成感を共有することです。もしも地方にいてそうした場になかなか参加できないのであれば、個人ブログで情報発信をしたり、外のエンジニアと自ら開発したサービスなんかを共有して見識を深めたりするのだっていいのですから。

チャレンジするエンジニアを応援する環境づくりを、LINEだけでなく業界全体として取り組んでいきたいですね。2020年にかけて、世界中の注目が日本に集まります。海外から来た人がLINEを使って日本で便利に滞在できたら良いと思っていますし、私自身も自分の持っている技術やスキルを日本を良くするために活かせるチャンスだと考えています。IT業界のみなさんがそのように感じて仕事に取り組めば、きっと日本はもっと楽しく元気になると信じています。

LINEのキャラクター「ブラウン」と砂金氏