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金融デジタルサービス・プラットフォームでDXを加速させる城南信用金庫

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下谷 康博 氏

下谷 康博 氏
城南信用金庫
副理事長

1984年に入庫。融資第二部上席審査役、用賀、久が原、碑衾、入新井各支店長、検査、監査各部長を経て2013年に執行役員・監査部長、14年同・事務統轄部長、15年理事、事務統轄部長委嘱、19年城南総合研究所副所長委嘱、22年6月より業務本部担当。
2015年6月常勤理事。2018年6月から副理事長。

 

田中 誠

田中 誠
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
銀行FMサービス部 第一サービス営業部
担当部長

入社後、金融機関様におけるトータル事務削減ソリューションに従事し2019年営業店DXを提唱。デジタル・プロセス構築、事務センターのデジタル・サービス化による6つのソリューションでデジタル変革を推進し地域金融生産性向上を支援。

 

中長期的なビジョンに「『全員営業体制』の構築、信用金庫の生命線である『Face to Face』の機会を増やすこと」を掲げる城南信用金庫。その重点施策として、対面・非対面の両面からお客様との接点を強化するために2023年1月を目途に個人と事業先向けに「城南バンキングアプリ」をリリースするほか、抜本的事務改革を進めていく計画です。同金庫ではそのシステム基盤としてIBM Cloud上に構築された「金融サービス向けデジタルサービス・プラットフォーム(以下、DSP)」を活用することにより、他の金融機関や地域の中小企業のDXを支援することも視野に入れています。2030年に向けて、城南信用金庫はリアルとデジタルをいかに共存共栄する戦略を描いているのでしょうか。金庫のDX戦略のキーパーソンである副理事長の下谷 康博氏とプロジェクトを支援した日本IBMの田中 誠に話を聞きました。

 

限界を打破するためにデジタライゼーションからデジタル・トランスフォーメーションへと舵を切る

下谷氏 インタビューカット

 

城南信用金庫(以下、城南信金)では、企業ビジョンに「全員営業体制」を掲げ、その実現のためにデジタル技術を積極的に活用しています。2016年からは「デジタライゼーション」による事務の効率化に取組み、これまで手書きで記載していた伝票に代えて「店頭タブレット」を導入し「ペーパーレス化」を実現するとともに、どうしても電子化できない帳票類については、イメージ処理し、集中部門に連携する仕組みを独自で構築するなど、「デジタライゼーション」による事務の効率化を推進してきました。

その結果、事務は効率化でき、渉外を担当する人員の比率を引き上げることができる等の一定の結果がでた反面「完全に紙をなくすことができず、また、独自のガラパゴス化した事務の改善にも手が回らず未着手という状態で、単独で抜本的な事務改革に取組むことには限界を感じていました」と副理事長の下谷康博氏は話します。

この状況を打破し、デジタライゼーションからデジタル・トランスフォーメーションにシフトするため、2019年4月に「未来システム戦略室」という部署が新設されました。企画部門、事務部門、融資部門、システム部門からメンバーが集められ、5年後、10年後の金庫のあるべき姿を実現するための具体的な戦略や方針策定等の検討が進められ、下谷氏が統括することになりました。

 
「これまでの固定概念を払拭し、ゼロベースでさまざまな検討を進める中で、システム・インフラの見直しにも着手し、長年、自前で開発・運用してきた勘定系システムを2026年に一般社団法人しんきん共同センターに移行し、共同化するとともに、お客様との接点を増やすことにつながる領域については、IBMのDSPを活用することを決めました。また、金庫がめざすビジョンを実現していくためのアドバイザーとして、2022年4月にはIBMと『デジタル変革パートナーシップに関する合意書』を締結しました。その第一弾のサービスが城南バンキングアプリになります」(下谷氏)
 
 

プラットフォーム上のデジタル・ワークフローを活用して省力化を図る

IBMが提供するDSPはクラウド上で提供されるサービス群から成り、大きく3つのレイヤーで構成されています。お客様や職員に提供されるフロント・サービス、約200の業務プロセスを実装したデジタルサービス、そして勘定系システムやその他の基幹システムのビジネスサービスで、それらはAPIで連携されます。

若年層の開拓を狙った城南バンキングアプリでは、DSPが備えているワークフローを応用して事務の効率化を図ります。例えば新規普通預金口座開設に必要な「CIF開設」「キャッシュカード発行」「IB契約」等のさまざまなステップをプラットフォーム上に構築したデジタル・ワークフローによって一気通貫でつなぎ、事務プロセスを自動化することで、職員は「判断」のみを行うスタイルに移行し、事務時間の大幅な短縮と完全ペーパーレスを実現します。

 
「当初はニーズの多い照会系と口座開設の機能を提供し、しんきん共同センターに勘定系システムを移行した後には、更新系の機能もリリースします。DSPとしんきん共同センターの勘定系システムをAPI連携することでバンキングアプリの機能拡充を実現していきます」と下谷氏は計画を説明します。
 
APIを活用することはシステムのマイクロサービス化にもつながります。例えば、残高照会機能をひとつ作れば、個人向け、事業先向け両方のバンキングアプリで利用することができ、さらに営業店に設置するPCや渉外用タブレットにも流用することができます。城南信金が個人向けアプリとほぼ同時期に、事業先向けアプリもリリースできる背景にはマイクロサービス化の存在が大きいと言えます。

 
「これまで事務の効率化を進めてきましたが、来店客数が減少することで自然に事務負担も減っています。今後もバンキングアプリ等の非対面チャネルが充実することで、さらに減少していくはずです。今後は、諸届のワークフロー等も開発し、バンキングアプリのみならずPCやタブレットでも共通利用していくことで金庫全体の事務省力化のための投資を最小限にすることができるのではないかとも考えています」と下谷氏は戦略を語ります。

 

城南バンキングアプリ プラットフォーム概要出典:日本IBM

 
 

紙の伝票と職員の操作等の事務処理を限りなくゼロにすることで「全員営業体制」を確立する

城南信金ではデジタライゼーションによる事務の効率化をStep 1と位置づけ、現在進めている勘定処理プロセスのワークフロー化による効率化とバンキングアプリのリリースをStep 2、しんきん共同センターとのAPI連携と非対面用アプリケーションの共通利用による「抜本的な事務改革」の加速をStep 3と位置づけています。
下谷氏は「2026年1月以降、しんきん共同センターの勘定系システムに移行することで、当たり前の事務は標準化とシンプル化をすすめ、省力化を図るとともに、勘定系を外部に委託することでうまれる開発資源を他の競争分野に配分していこうと考えています」とStep3のポイントを話します。

そして最終形と位置づけるStep 4で目指すのが、デジタルとFace to Faceの融合です。ワークフロー化をさらに進展させ、手作業で残る事務もデジタル・ワークフローで簡素化、効率化を図っていく予定です。「紙の帳票と職員の端末操作を限りなくゼロにしていくことで、結果として生まれる、『人』と『時間』により『全員営業体制』が確立できるのではないかと考えています」と下谷氏は展望しています。

 
目指しているのは「城南らしいサービスの提供」です。「具体的には、来店される年配のお客様には店頭でのPCやタブレットによるワークフロー化した事務処理によって手間をかけずに対面でお客様に寄り添ったサービスを提供し、来店されないお客様には、バンキングアプリを通じて、さまざまなサービスを提供し、世代間を超えた取引継承を図っていきます」(下谷氏)。

その上でしんきん共同センターの加盟金庫に対し、開発したアプリの提供も想定しています。例えば事業先向けのアプリとしてリリースする「城南バンキングアプリBiz」についても他の信用金庫でも自由に使えるように提供します。下谷氏は「アプリで利便性を高めるだけでなく、簡単に共同利用できるところが DSP の一つの利点です」と話します。

同様に取引先である中小企業に対してもDX支援を強化します。例えば、法人ポータルとして、フィンテック企業と連携してグループウェアやマッチングの機能などを導入し、ご利用いただくことで、個別企業ではなかなか進まずDX化が遅れている企業を支援していきます。

 

中長期ビジョンの図出典:城南信用金庫

 
 

共創パートナーの役割はビジョンを理解して実現すること

 

IBM 田中 インタビューカット

 
城南信金の取組みはパートナーである日本IBMも高く評価しています。プロジェクトを支援してきた日本IBMの田中誠氏は「城南信用金庫は下谷氏のリーダーシップのもと、とにかくスピード感を持って新しいことに取組んでいることに驚かされます」と話します。

その最たる例がサービス提供基盤を自社で構築するのではなく、DSPの活用を決めたことです。疎結合のサービス群を利用することで、スピーディーかつ効率的にアプリケーションを構築し、将来的には外部に提供することさえ可能になります。
 
田中氏は「それができたのも全社横断のメンバーで構成された未来システム戦略室があったからです。こうした取組みは他の金融機関ではあまり見られません。機動力を高めるには有効なアプローチです」と城南信金の取組みを指摘します。
 
今後も城南信金は「全員営業体制」の確立に向けてDXを推進していく計画です。「城南信用金庫のビジョンを理解し、ビジョン通りにリリースすることで、確実に成果を挙げていくことが、共創パートナーの役割です」と意欲を語ります。日本IBMはパートナーとして城南信金のこれからのDXジャーニーを支えていきます。