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IBM戦略コンサルタントの視点 #1|経営変革を実践し続ける企業、IBM

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瀬良 征志

瀬良 征志
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
戦略コンサルティング部門責任者
パートナー

事業部・経営企画部門の経営層とともに、企業変革の始動と推進、事業戦略策定、新規サービス検討を実践し
ている。IBM 戦略コンサルティング部門責任者。東京大学経済学部卒。

政治、経済、社会、テクノロジーの全てが目まぐるしく変化する事業環境に直面する中、生き残りをかけて大きな変革に挑むもの、変革の必要性を感じつつも有効な活動を生み出せないもの、既存の競争優位性に安穏とするもの、見て見ぬふりをするもの、対応は様々である。いずれにせよ諸行無常、盛者必衰の理はビジネス現場でも然り、では何が正解なのか、どうすべきなのか。本稿ではこのような悩みを抱える大企業経営者への参考事例として、自ら企業変革を実践し続けているIBMの近年の大きな変革事例を紹介する。企業における変革のありかたの一考察材料としていただきたい。

常に自社の壮大な経営変革を実践し続ける企業:IBM

IBMは1911年に秤やタイム・レコーダーの製造業で創立し、その後タイプライター、真空管の計算機、磁気テープ・ドライブ等など様々な情報関連製品を世に送り出し、1964年のSystem/360発表後はメインフレームという大ヒット製品で一世を風靡した。その強烈な競争優位の恩恵に浴していた当時、やがて90年代にやってくる会社の存続危機を誰が想像したことであろう。

80年代に訪れたダウンサイジングの波が“巨象”IBMを襲い、91年から3期連続の赤字に陥る。しかしその際、新たなCEOを迎え大変革により倒産の危機を乗り越えるとともに、この時代に変革を実践し続けるDNAがIBMに完全に組み込まれた。以来有名な「IBMのサービスビジネスサービス・ビジネスへの変革」(最近の表現であれば「モノからコト」)を約30年に渡り愚直にPDCA(Plan-Do-Check-Act cycle)を回し続ける。常に事業ポートフォリオを見直し、新しいテクノロジーの適用を模索し、組織を再編し、新しい人財を開発し、新しい経営とオペレーションを試行し、学びを新たな戦略にフィードバックする。IBMはこうして厳しい事業環境変化を幾度となく乗り越えてきた。

IBMコーポレーションの売上高構成比推移 width=

この数年、IBMの変革は新たな展開を迎えている。これまでのヒトを中心としたサービスカンパニーサービス・カンパニーへの変革段階から、最先端テクノロジーを付加価値の源泉とし「世の中をより良く変えていくカタリスト」として次のステージへ大きな変革の舵を切っている。

変革の背景

ITサービスを生業とするIBMにとって大きな2つの波が訪れた。
1つはサービスビジネスサービス・ビジネスの根幹をなすヒトを巡る環境変化。コンサルティングやアウトソーシングに代表されるサービスビジネスサービス・ビジネスの価値の根源は高度な専門性とコスト優位性である。お客様が自分で実行するよりも、良い成果をより安くということ。しかし近年のあらゆる情報の爆発的流通の結果、専門家とその他との情報の非対称性が崩れた。一方で、かつての発展途上国の安価な人件費は高騰の一途を辿り、人件費のアービトラージをベースとするビジネスモデルに影響を与えた。

もう1つはクラウド化。今すぐオンプレミスでのシステム構築がゼロになることはないにせよ、明らかに減少トレンドに入り、市場そのものが大きく縮小することが誰の目にも明らかになった。かつてフィルムメーカーがデジタルカメラ技術を前にして、銀塩カメラ事業にどう向き合うべきか煩悶したように、IBMも両利きの経営が求められる難しい局面を迎えた。

IoTデバイス、クラウド、AIなどのテクノロジーにより生活者と企業の在り方が日々進化する中での熾烈な価値提供競争社会 width=IoTデバイス、クラウド、AIなどのテクノロジーにより生活者と企業の在り方が日々進化する中での熾烈な価値提供競争社会

両利きの経営の実践

フィルムメーカーがデジタルカメラ技術をいち早く研究開発していたのと同様、IBMもクラウド・サービスには早期から着手していた。システム構築サービスを主力とするIBMにとっては、システム構築需要の減少にもつながりかねないクラウドは戦略上の扱いが大変困難な領域である。
自社開発、大型M&Aと試行錯誤を続け、2019年にRed Hat社の超大型買収に至る。これにより、かつての競合とエコシステムを形成し、ハイブリッドクラウド環境での独自のポジションを志向することを決定づけた。

ハイブリッドクラウドとAIに集中したテクノロジーとコンサルティング企業への変革イメージ図 width=

Red Hat買収を主導したリーダーが2020年にCEOに就任し、「ハイブリッドクラウドとAIに集中したテクノロジーとコンサルティング企業への変革」を掲げ、IBMの変革が新たなステージに移行したことを鮮明に打ち出した。2021年には、かつてIBMの売上の多くを占めたマネージド・インフラストラクチャー・サービス事業をKyndryl社として分社化し、着々とビジョンの実現に向けて変革ステップを進めている。

全てのカギを握る「人財開発」

これらの変革推進にあたり、大胆な組織再編成、経営資源の再配分、テクノロジーを活用したマーケティング・営業戦略などを展開中であるが、その成否のカギを握るのは、新しい戦略を現実に実行できる人をどれだけ育成できるか、即ち人財開発である。
2019年にDXレポートが発表され、2020年からのコロナ禍によりDX旋風が巻き起こったが「できる人がいない」という問題に皆が直面した。キャリア採用やM&Aの市場が熱を増した。2020年9月に人材版伊藤レポート2.0が発表されると、多くの企業が人財育成の必要性を再認識した。しかし「総合職」で一括りにされた人事制度では、誰が何のスキルをどこまで獲得すべきか、議論の基盤が整わずなかなか具体化しない。ジョブ型の採用が声高に叫ばれることになる。

IBMでは90年代の変革ですでに「プロフェッショナル専門職」制度をグローバルで展開し、各個人の職業とスキルが明確に定められた環境の元、日々のスキル開発に取り組んできた。リスキリングのフレームワークも国内でこの言葉が広く認知される以前から整備され、現在では毎年多くのリスキリング修了者を生み出すプロセスが完成している。こうして新たな戦略実行を担う人財を開発することで、常に新しい製品サービスをお客様に提案し、サービス提供することが初めて可能になるのである。人がいないなら作る。すべきことを愚直に実行する実行力こそがIBMの変革DNAの神髄である。

変革実現のためのIBMの活きた変革事例

他企業においてもIBM事例同様、「変革の必要性の認知 → 目標達成のための戦略策定 → 事業・組織・業務・インフラの再構築 → 新たな戦略を担う人財開発、」といった一連のプロセスが必要であることは間違いない。何をどこまでやるべきか、どうやってやるべきか。この難しい経営判断を下すための一助として、変革実践企業IBMの活きた事例を参考にしていただけたら幸いである。

我々IBMの戦略コンサルタントは、グローバルを代表する変革実践企業IBMを日々コンサルタントとしての視点で分析学習している。これだけでもコンサルタント冥利につ尽きるものだが、当然のことながら我々はコンサルタントである一方でIBMの一社員として変革推進のマネジメントとオペレーションを担っている。お客様経営陣が直面する変革の難しさの現実を我々自身も日々経験しているのである。そして我々は、グローバル大企業IBMであっても、俊敏に変革活動を推進できることを自ら体感している。戦略実行に際しては良い話だけではなく現実にはネガティブな事象も多々発生する。我々はこれらの活きた知識と経験から得られた示唆をもって、大胆かつ現実的で実効性の高い変革アジェンダをお客様にお勧めできる。我々が「世の中をより良く変えていくカタリスト」を標榜する所以である。企業の変革のパートナーとして我々の知見を活用いただきたい。

日本IBMグループ・ビジョン図 width=


本シリーズでは、IBMの戦略コンサルタントが、IBM自身の経営・変革の仕組みを解説する。
IBMは、絶え間ない変革を続け100年以上も技術革新の激しいIT業界の中で、一時は赤字の苦境に立たされながらも会社を大きく改革させることで存続してきた。
そして今もIBMは、AIやHybrid Cloudなど最先端のテクノロジーと創造性をもって、お客様・業界・社会のあらゆる枠を乗り越えて、より良い未来づくりを実現すべくチャレンジし続けている。

IBMの戦略コンサルタントは、IBM自身のグローバル企業としての変革実践に裏打ちされた知見も用い、お客様の変革をサポートします。