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データ活用ことはじめ|#1 現場起点のデータ利活用による「需要予測」でゆるぎないDXを実現

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萩原 光江

萩原 光江
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部 流通事業本部
シニア・マネージング・コンサルタント
 

「データは21世紀の石油である」と言われる

テクノロジーの進化とあいまって、個人、法人を問わず日常のあらゆる行動がデジタル・データとして履歴化されて捕捉される時代にあり、その膨大な顧客データの利活用は、既存のビジネスを大きく変革する可能性を秘めている。データの分析を通じて導出されるインサイトは、競争力の源泉となるはずだ。あらゆる企業にとって、データこそ新たな経営資源であり、その戦略的な活用は、業界を問わず今後のビジネスの命運を左右する。そのような言説を頻繁に耳にするようになって久しい。

このようにデータへの注目度が日々高まっている中、多くの企業がデータ利活用戦略の策定と遂行に注力している。特に大手企業においては、DX戦略の中核としてデータ戦略を位置づけ、システム部門と業務部門が一体となってデータドリブン経営の実現に向けた積極投資を進めているケースも少なくない。全社的にデータ分析を推進するために、データ分析基盤の整備を行い、AI/ML分析のためのツールを整備し、並行してデータ・ガバナンスを支えるIT環境およびプロセスの整備を推進する。真の意味でデータを経営に活かすためのこうした取り組みは、先進的な企業群を中心に確実に進んでおり、データを巡る競争が第2ラウンドに突入しつつあるのは間違いない。

一方で、実際の経営においてデータを有効活用できている企業は、今もなお非常に少ないというのも偽らざる現実だ。いわゆる中小企業比率が99.7%(2020年時点)とも言われる日本の構造的な要因もあるが、本格的なデータ利活用へと舵を切って、経営リソースをアグレッシブに投下している企業となると、極めて限定的だと言わざるを得ない。データレイクの構築や業務ユーザーに対する分析用データの開放といった取り組みに関しても、いまだ手付かずの状態に留まっている企業が多いのが実情ではないだろうか。

このような状況において、多くの企業にとってデータ分析をより一層身近なものにしていくためにIBMとしてどのような貢献が出来るのか。企業規模や社員の分析スキルを問わず、データを用いたビジネス変革を必要とされているお客様に、私たちは何をお届けできるのか。そんな問題意識から開発されたソリューションの1つが、ADF(Advanced Demand Forecast)と呼ばれる需要予測プラットフォームだ。過去の売上や出荷量といった実績データに、天候やカレンダーといった複数の関連データを組み合わせることで、将来の売上予測を提供するのがコア機能であり、主に小売業や消費財メーカーのお客様の課題解決を意識したものとなっている。

ADFは以下の特徴を備えたクラウド型のソリューションで、幅広いインダストリーのお客様がデータを活用したビジネスの高度化に取り組んでいただけるようなデザインとなっている。

  • ユーザー負荷の軽減
    ユーザー企業は分析対象となるデータを準備して、ADFに取り込むだけで高精度の分析が可能

  • 予測モデルの自動生成
    IBM Watson Studioの機能を活用して、分析対象データの特徴に応じた最適な特徴量の自動生成や、複数の予測手法の適用結果の比較も可能であり、ユーザーに高度なモデル開発スキルは不要

  • 多様なデータの活用
    ADFの標準サービス機能として、気象データやカレンダー情報、新型コロナウイルス感染症情報を加味した予測をサポート。その他、お客様ニーズに応じて、多様なデータのモデルへの取り込みが可能
  • 初期投資の抑制
    SaaS型のソリューション提供により、システム導入のための初期投資を抑制可能
  • 運用負荷の軽減
    1度作った予測モデルを使い続けるのではなく、継続的に本番運用していけるようデータ更新のタイミングでモデルを再作成する仕組み(MLOps)が組み込まれており、環境変化が現れるデータを学習して精度劣化を抑止

ADF需要予測イメージ図 width=

これらの特徴はいずれも、データ利活用を進めようと考える企業において、一般的に障壁となりやすい課題に対応したものとなっている。例えば、データ・サイエンティストに代表されるスキル人材の圧倒的な不足が足枷になるケースは少なくないが、ADFではAIを活用したモデル自動生成機能を組み込むことで、分析担当者の業務負担を大幅に軽減すると共に、最先端の分析技術をSaaSモデルで提供することによって、お客様社内のスキルレベルに依存することなく、最適な分析モデルを提供できるようになっている。

ADFを用いて将来のマーケット・ニーズを高精度に予測することができれば、様々な業界においてビジネスモデルの変革や高度化が可能となるはずだ。これまでデータ収集・加工や予測モデルに要した時間を費やすことなく予測に基づく調達・仕入の最適化やスタッフィングの最適化は勿論のこと、マーケティング戦略への活用やデータに基づくスピーディーな経営判断・意思決定といったユースケースも十分なポテンシャルを備えている。

コストやスキルといった点が課題となって、これまでデータの積極的な分析と活用に二の足を踏んでいた企業にとっても、データドリブンなビジネスへと舵を切る上で最初に立ちはだかるハードルを大幅に引き下げることを可能にした、コンパクトで使い勝手の良いプラットフォーム。それこそがADFだ。

データが21世紀の石油であるならば、データの分析や利活用はいずれ、あらゆる企業にとって身近なものになるはずだ。いや、そうでなければならない。そのような未来を見据えた際に、ADFのようなクラウド・プラットフォームが果たす役割が間違いなく存在する。

高度なデータ分析を、あらゆる企業の手元に。ADFの挑戦は、始まったばかりだ。