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保険編|データが利活用された世界と踏み出すべき初めの一歩

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児玉 大

児玉 大
日本アイ・ビー・エム株式会社
保険・郵政グループサービス事業部 保険インダストリーコンサルティング
シニア・マネージング・コンサルタント

生命保険業界で20年以上に渡りセールス、マーケティング部門に在籍。戦略マーケティングが長く、市場調査の他、特に銀行マーケットでの新規事業企画・開発、販売推進などを担当。IBM 入社後はコンサルタントとしてデータ利活用を中心に営業活動の効率化、生産性向上などのプロジェクトに従事している。

保険業界でもデータ利活用は戦略の柱に

保険会社が保有するデータや情報は非常に多岐に渡ります。
業界共通として、契約者情報や保険金支払い履歴、コンタクトセンターで得られる対応履歴などがあり、生命保険会社であれば、自社で抱える営業職員やコンサルタントの活動データの他、被保険者の健康状態・病歴に関する情報など、損害保険会社であれば不動産や車両情報の他、事故情報や自然災害情報、企業の信用情報などがあります。

この他にもチャットボット、自社アプリケーション、SNSなど多様化した接点で得られる顧客情報などが加わり、保険会社が保有するデータや情報はテクノロジーの進化によって今後もますます増え、そしてより正確なものになっていくことが予想されます。

これまでリアルの世界だけで提供されていたものが部分的にデジタルでも提供可能になり、同時にデジタルならではの新しいサービスが次々に生まれるなど、テクノロジーの発展と共に私たちの生活スタイルや行動様式も変わってきました。
テクノロジーがさらに進化を遂げる2025年以降、リアルとデジタルが一体化した世界が訪れることが想定されます。

データや情報視点で見たとき、例えば営業職員やコンサルタント、またコンタクトセンターなどがお客さまに接することで得られる情報にデジタル上のタッチポイントやサービスの利用で得られる情報が加わり、これまで以上に一人ひとりのお客さまを多角的に捉えることができるようになり、商品やサービス開発に活用されるだけでなく、申し込みやサービス利用の体験そのものの価値向上が期待されます。

お客さまへの提供価値を高め、お客さまに選ばれる競争優位性を維持するには、すべての情報が融合され、意味あるデータとして利活用されることが重要です。
また、今後ますますIoTデバイスの利用が拡がり、多種多様なデータが長期にわたり蓄積され、そして短時間で分析可能な時代がやってきます。
これらのデータを活用して、市場動向や競合他社、消費者の行動などを分析し現状を捉え、将来予測や戦略策定などに繋げることで、正確な意思決定を可能にします。

この結果、例えば生命保険分野では、個々人のライフスタイルや健康状態に応じパーソナライズされた商品・サービスの開発と提供が進むと予想されます。一方で、損害保険分野では、膨大な事故情報、事故多発道路の解析が進み、事故を回避するルートをナビゲーションするなどのサービスが既に始まっており、事故が起こってしまった後のサポートに加え、事故を起こさないためのアドバイス・情報提供へとその提供価値の領域が拡がっています。

さらに、業界を超えた共創プラットフォームの構築が加速することで、他業界との協業による商品・サービスの提供も進み、ここ数年欧州を中心に市場が拡大している組込型保険(Embedded insurance)などは、テクノロジーの発展にも支えられ、日本でも新たな保険のカタチとして拡がることが予想されています。

データの重要性の認識が深まるとともに、データ分析を専門に行う組織が誕生し、人財育成と同時並行的に外部人材の獲得も積極的に行われていることは周知の通りです。
これに伴い、それらを支えるデータ基盤の構築、セキュリティーの担保、ガバナンスの体制整備などもこれまで以上に強化が求められます。

最新デジタル技術の導入だけでは、現状は大きく変わらない

データ利活用のイメージ width=

しかし一方で、保有するデータが複数部門に跨り、別々のシステムで管理されていることも珍しくなく、データ分析、利活用に向けたデータ統合が課題の一つとなっています。また、データや情報管理の社内ルールが異なることで、同じ会社でありながら、情報の共有に壁が存在しているケースもあります。

仮に社内の膨大なデータや情報が集まったとしても、目的やテーマ、仮説がないまま分析がスタートし、最先端の分析ツールを用いて何かしらのグラフや表が瞬時に出るようになったものの、結果として何も得られていないという話も伺います。

各部門に異なるシステムや社内ルールで分散管理されているデータや情報をどう繋げ、それらを分析し、「意味あるデータとして見える化」することが重要であることはご承知の通りです。そして、いち早くデータが「集まった」を抜け出し、マーケティング・プランや販売推進計画の立案、商品・サービス開発や業務改善など保険会社やステークホルダーの戦略に「使える・役立つ」、さらに価値を「生み出す」まで利活用することを各企業が求めていると理解しています。

では、データ利活用は何から始めるべきなのか?

まずは、以下の問いに答えることから始めてみてはいかがでしょうか?

  • そもそも誰の何のためにデータを集め、分析するのか?
  • それを具体的にどう使うことでどのような変化を起こし、結果としてどのような問題解決や何の向上に繋げるのか?
  • そして、そのために本当に必要なデータや情報は何で、何から手をつけるべきなのか?

例えば、営業やマーケティングであれば、具体的に現場の行動変化、お客さまの意識変化を関係者間で具体的にイメージできるところまで落とし込む必要があります。
その上で、必要な情報を質高く収集・蓄積するためのプラットフォームを構築し、集まったデータや情報を最大限有効活用するための分析環境を整備、さらに、必要とする相手にタイムリーで使える・役立つデータ・情報の提供方法を確立することが重要です。

IBMはこれまで、データ利活用戦略構想策定の他、AIの適用による高度な顧客ターゲティングやニーズ分析、与信・引受・支払査定、不正検知、解約予兆モデルの構築、さらにこれらを支えるデータガバナンスなど幅広い領域で多くの保険会社さまをご支援してきました。

IBM Garage手法の活用による、トップ・マネジメントの方々から実務担当者までを含めた様々なレイヤーの皆さまが共創するデータ利活用領域の選定と課題解決の方向性検討、営業活動のコンサルティング力を高める最適な活動レコメンドのモデル構築などを行っています。

これまでの経験から、データ利活用を含むデータドリブンでの業務改革は、全社が一つになり、地道な改善の繰り返し・積み重ねが欠かせないと考えています。
ここで全てを語ることはできませんが、最後に『変革のための6つの取り組み』をご紹介します。

データドリブンでの業務運営を阻む壁と改革のポイント(考察)データドリブンでの業務運営を阻む壁と改革のポイント(考察) width=

1.ビジョン
データドリブンで何を実現したいのか、その先にどのような組織の姿を描いているのかを発信し続ける

2.システム・教育投資の継続
掲げられたビジョンの具現化をリードする人財への期待を明確に定義し、実態にあった仕組み・基盤を構築する

3.データを重視する組織文化の醸成
組織全体に共通して、社員全員が容易に理解できるKPIの設定からスタート。社内での説明会・研修などを繰り返し行う

4.データ利活用の目的の明確化
なぜデータを収集、分析し、活用(意思決定)するのかを定義する

5.「使える・役立つ、生み出す」
「現状の理解を深める、気付きを得る」を抜け出し、実ビジネスの問題解決で価値を出す

6.スモール・サクセスの積み上げ
データドリブンでの改善や意識改革など、小さくてもこれまでにない成果を積み重ねることで知見を蓄積し、大きな成果に繋げる

データ利活用は会社全体で進めていくことが求められ、それは業務効率化だけでなく、お客さまへの価値創造や生産性の向上に大きな可能性をもたらします。

私たちIBMも「そもそも誰の何のためにデータを集め、分析するのか?」の基本を大事に、これからもデータ視点での業務改革をご支援していきます。