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第4回“旧料金システム”のモダナイゼーション|公益業界におけるプラットフォームの現状と方向性

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加藤 礼基
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
公共・通信メディア公益デリバリー
プラットフォーム・コンサルティング 部長

連載「公益業界におけるプラットフォームの現状と方向性」

第4回 “旧料金システム”のモダナイゼーション

今回と次回(第5回)はシステムのモダナイゼーションについて整理したいと思います。
システムのモダナイゼーションは特定のシステムのみを対象にするのではなく、企業が保有するすべてのシステムを対象に検討を実施します。一方、変化が多い領域においてはモダナイゼーションの必要性が高いのも事実です。

図 : 全体概念図 width=

上図は営業系システムの全体概念図です。最上部にあるデジタル・デバイスは技術革新により進化し続けます。スマートフォンやタブレットは一般的に広く利用されていますが、最近ではスピーカーやウェアラブル・デバイスの活用も進んでいます。フロント・サービス(デジタル・チャネル・サービス)層で変化の激しいデバイスへの対応を行い、デジタルサービス層にはサービス・ロジックを実装します。デジタルサービス層は必要に応じてビジネスサービス層で提供するサービス及び外部サービスを活用して利用者に対して魅力的な体験を提供します。

左側の「サービス」と右側の「データ」は取組むべき重要な2つのテーマです。これらのテーマについては次回整理したいと思います。

ビジネスサービス層が保有する「サービス(機能)」及び「データ」をデジタルサービス層から利用可能にするためにシステムのモダナイゼーションを実施します。

モダナイゼーションという言葉は広義には企業が保有するIT全体の近代化を示します。下図を参照して下さい。最下部の矢印は利用者に新たな体験を提供し、企業における新規ビジネスを生み出すエリアです。デザイン思考をトリガーにしてプロトタイプで検証し、早いタイミングで市場に公開します。成果が出なければサービスを廃止し、新しいアイデアに切り替えます。

最上部の矢印は本来企業が実施していた業務プロセスをシステム化したエリアです。このエリアについても最適化を行い、変革領域との連携を実施する準備を進めます。これらをバランスよく進めるためには、新たな仕組みの導入やガバナンスの確立が必要となります。

図 : モダナイゼーションの進め方 width=

システムのモダナイゼーションの手法についてもう少し詳しく整理してみます。現行システムの再利用割合が低い方式から順に列記します。

再利用割合が最も少ない方式として、現行システムを全く再利用しない方式が考えられます。「リップ&リプレイス(全面再構築)」方式においてはパッケージやSaaSが有力な選択肢となります。パッケージやSaaSは成熟し様々な規制に準拠しています。公益業界における標準的な業務を遂行する為の部品が揃っているため、若干のカスタマイズで利用することが可能です。多くのカスタマイズを実施することは将来の移行難易度を高めることに繋がりますので、カスタマイズを最小限に止めることは重要です。カスタム全面再構築も広義にはリップ&リプレイスに含まれるかもしれません。パッケージやSaaSは、それを採用すること自体がモダナイゼーションであるという側面も存在しますが、カスタム全面再構築においては新システムの設計(ミッションクリティカル・クラウド等)が重要となります。

現行システムの一部の処理を再利用する方式として「プログレッシブ・リノベーション」があります。現行システムから画面制御、データ、ビジネスルール、およびビジネスロジックを段階的に削除し新システムに移行します。現行システムには移動困難な一部の処理のみを残して継続的にメンテナンス出来るように最適化します。スリム化された現行システムは新システムと連携することで求められる業務の部分的な処理の役割を担います。

これに対して、現行システムを大幅に分解削除することなく新技術と融合する方式として「ハイブリッド・アプローチ」があります。現行システムの一部を機能コンポーネントとして再利用し、オープン・テクノロジーと組み合わせて新サービスを提供するように設計します。APIラッピング等が代表的なアプローチです。

図 : 戦略的アプロー width=

企業としてのモダナイゼーションには現行業務プロセスが存在しない新規ビジネス対応がありますが、該当する現行システムが存在しないケースにおいては、クラウドネイティブ技術を活用するためのプラットフォーム(新技術基盤)を準備して新システムを構築します。ビジネスの変化に対応するために、スピード・柔軟性・拡張性を意識して設計する必要があります。

システムごとに適切なアプローチを判断することは簡単ではありません。現行システムの特徴、システムが構築された時代(採用されているアーキテクチャー)、プログラミング言語、企業として保有しているスキル、今後の技術トレンド等々の複数の要因を分析して決定することになります。

次にシステム全体をどのようなアーキテクチャーにすべきか検討してみます。下図は公益業界のアーキテクチャーの例を示したものです。

フロントサービスではリアルとデジタルを融合したトータルな利用者体験(トータル・エクスペリエンス)を提供します。少し前にOMO(Online Merges with Offline)が脚光を浴びた時代がありましたが、仮想現実等の技術革新によりデジタル活用が進化しています。加えて、データ層から生成される情報を活用したパーソナライズにより利用者の体験は継続的に向上します。

デジタル・デバイスは進化を続けます。デジタルフロント層がデバイスの進化に追従し、常に魅力的な体験を提供する為にクラウドネイティブ技術を活用したチャネル・サービスを実装します。

デジタルサービス層は、システム間連携や認証の機能を保有し、企業内の各種業務をサービスとして提供することに加えて、シームレスに外部サービスに接続し提供することで、フロントサービスの変革に対応します。外部サービスは具体的にはパートナー企業や他インダストリープラットフォーム、サステナビリティープラットフォーム等があります。デジタルサービス層はこれらとダイレクトに接続・連携し統合したサービスを提供します。

ビジネスサービス層ではサービス制御層がバックエンドシステムを識別しオーケストレーションを実施します。デジタルサービス層と連携し、柔軟性・俊敏性向上のために、営業システムが2つ存在する(自由化, 経過措置)場合においても、シングル・システム・イメージでサービス提供します。

データ層に蓄積された情報の活用は多岐に渡ります。従来の情報系・分析系という業務エリアに加えて、エコシステム全体の効率化・業務自動化・自律的なワークフローの最適化を実現するために活用されます。

コスト構造変革、柔軟性・拡張性・俊敏性向上のために、クラウドネイティブ・プラットフォームを活用し、パートナー企業を含めたエコシステム全体の最適化を実現しセキュリティーを統治します。

図 : 公益業界におけるエコシステムとアーキテクチャー width=

次回は 「公益業界におけるモダナイゼーションの壁」について整理したいと思います。


連載「公益業界におけるプラットフォームの現状と方向性」