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国際金融取引サービス「Swift」の今とこれから

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林 真衣

林 真衣
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
金融サービス事業部
インダストリー・トランスフォーメーション・マネージング・コンサルタント

コンサルタントとして、金融機関の合併に伴うシステム統合推進や次期システム構想策定等に多数携わる。大手銀行様の決済系システムの刷新においては、海外の最新事例などをもとに基本計画の策定から支援している。

 

植月 徳仁

植月 徳仁
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
金融サービス事業部
サスティナブル・フィナンシャルマーケッツ・マネージング・コンサルタント

入社後、銀行・証券インダストリーにて主に勘定系システム更改等に従事。直近では大手銀行様の市場系システム更改プロジェクトにてシステム構想立案から構築までをリード。

海外送金サービスの多様化とSwift(スイフト)

コンビニエンスストアやスマートフォン上のアプリからも手軽に手続き可能となった海外送金サービス。100万円以下の小口取引においては、このような身近な手段による個人間送金サービスが定着してきており、母国へ仕送りする在日外国人の需要等を満たしています。一方で、大口取引においては銀行を介した資金移動の習慣が色濃く残っており、特に国際金融取引サービス「Swift」が利用されてきました。送金サービスの多様化によってSwiftに変化は起こるのでしょうか。今回は、Swiftに焦点を当てて、決済サービスにおける現状や課題を概観します。

世界有数の金融取引サービス提供者であるSwift

国際銀行間通信協会(Swift)は、世界中の銀行が加盟して運営している協同組合です。200以上の国や地域から11,000以上の金融機関が参加しており、Swiftを介して行われる取引は1日当たり平均4,200万件以上、サービスの可用性は99.999%となっています。これらの数字から見て取れる通り、今日においてSwiftは安全性の高い金融取引サービスの世界有数の提供者です。
出典:Swift Traffic Highlights | Swift (IBM外のWebサイトへ)

一方で、銀行をはじめとする金融機関においては、Swift加盟機関や中央銀行が運営する即時グロス決済(RTGS)と接続するための基盤ネットワークとしてSwiftを利用しているため、万一、専用回線にトラブルが生じた等によりSwiftが利用できない場合の外国為替決済の不履行リスクがSwiftに集中しているとも言えます。

Swift加盟機関へのインタビュー

IBMでは、Swiftについての満足度や、近年のビジネス上の課題に対する対応への懸念の深さを測ることを目的とし、Swiftに加盟する金融機関に対してインタビューを実施しました。

はじめに、国際金融取引の現状について確認を行いました。これらの回答(図1、図2)からは、金融機関におけるSwiftの利用率が高い水準にあることがわかります。

――国際金融取引において、主な取引先はどこですか。(複数回答可)

図1 国際金融取引の主な取引先図1 国際金融取引の主な取引先(出典:IBM)

――国際金融取引のうち、Swiftを利用している割合はどの程度ですか。

図2 国際金融取引におけるSwift利用の割合図2 国際金融取引におけるSwift利用の割合(出典:IBM)

次に、国際金融取引の将来について、どのような考えを持っているかの確認を行いました。これらの回答(図3)からは金融機関のSwiftへの信頼の高さを窺い知ることができるとともに、市場の変化に対して前向きに捉えている金融機関があることもわかります。

――Swiftの代替案を検討していますか?また、その理由は何ですか?(複数回答可)

図3 Swiftの代替案の検討状況図3 Swiftの代替案の検討状況(出典:IBM)

最後に、Swiftに対する懸念についての確認を行いました。この回答(図4)からは、決済データの取り扱いについてセキュリティー上の懸念を感じている金融機関があることがわかります。

――Swiftに対して懸念はありますか?(複数回答可)

図4 Swiftへの懸念の例図4 Swiftへの懸念の例(出典:IBM)

Swiftと守る世界

Swift加盟機関においてはSwiftの利用率が引き続き高い水準にあることがわかります。しかしながら、セキュリティーその他の脆弱性に関して、少なからず金融機関の懸念はあるようです。昨今、デジタル空間が戦争の「第5領域」として利用されていることからも、データやコンピューターを攻撃から守るためのセキュリティーが重要なテーマであることは明らかであり、アンチ・マネー・ローンダリング(AML)やID管理の重要性は周知のとおりです。金融機関は手を緩めることなく、これらの対策を継続する必要があります。

Swiftと目指す未来

これまでSwiftで利用されてきたMTと呼ばれるメッセージ・フォーマットは40年以上前に定義された固定長の形式によるものです。安全に運用されてきた実績がある一方で、柔軟性や拡張性がないことから、各国の中央銀行システムその他との相互運用性の欠如等が課題となっていました。今次、Swiftは2023年よりカテゴリー1、2および9の国際送金等に係るメッセージ・フォーマットについて世界的に導入が進む国際規格“ISO 20022”に準拠したMXの利用を開始し、2025年末以降は従来のMTの利用を廃止することを発表しました。新たなメッセージ・フォーマットは拡張性の高いXML形式が採用され、従来比で約10倍の情報を保持できます。
この大きな変化に先行する形で、データ蓄積・参照機能のSwiftへの標準装備とAPIによる接続も開始されています。従来のデータ伝送の仕組みと決別し、送金から入金までの一連の取引の可視化、決済機能への簡易でシームレスな接続が可能となるものです。これらの結果、本邦においても日銀ネット・全銀ネットとの親和性が向上して情報処理が高度化するほか、各金融機関の固有のシステム環境とのSTP化の促進が期待されます。さらには、新たに開始されたSwift Goサービスによる小口取引の利用機会の増加も見込まれます。

これらのことからわかるのは、先のインタビューにてSwift加盟金融機関から寄せられたデータ・セキュリティーや競合するソリューションなどへの懸念に対して、Swiftは対処する方向であるということです。Swiftはこれまで築いた強固な地盤を活かして、金融機関とともに明るい未来を目指すでしょう。
より先進的な金融機関においては、Swiftを介して送られる決済データをこれまで通り安全に保存・運用することはもとより、与信管理への利用や企業の経営戦略を立てる上での分析材料として活かすといったデータの利活用の検討を水面下で始めています。これらの活動が新たなビジネスモデルによる付加価値の拡大や企業としての競争力強化に繋がっていくでしょう。これからの金融機関は“守り”だけでなく”攻め“の姿勢でデジタル・トランスフォーメーションに積極的に参加することが重要です。