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スーパーエンジニアに聞くビジネスを変える企画の作り方

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「クライアントの要望に応える仕事」というイメージが強いエンジニア。しかし今は、「テクノロジーの最先端を知るエンジニアこそが新しく面白い企画を提案できる」時代だ。 作り手の能動的な思考が、これからのビジネスをより明るくするのかもしれない。

「エンジニアはものづくりの仕事だ」セオ商事の瀬尾浩二郎さんはこう言う。エンジニアとしての顔を持つ一方「そのサービスやプロダクトが世に受け入れられるためにはどうすれば良いか」と、ユーザーやクライアントを見つめ、サービスの企画制作から開発まで担当している。瀬尾氏にとって、ものづくりは企画から始まる。その「極意」をのぞいてみよう。

瀬尾 浩二郎 (株式会社セオ商事)

大手SIerを経て、2005年に面白法人カヤック入社。Webやモバイルアプリの制作を主に、エンジニア、クリエイティブディレクターとして勤務。自社サービスから、クライアントワークとしてGoogleをはじめ様々な企業のキャンペーンに至るまで、サービスの企画制作を担当。2014年4月よりセオ商事として独立。「企画とエンジニアリングの総合商社」をモットーに、ひねりの効いた企画制作からUI設計、開発までを担当。
Twitter: @theodoorjp
ホームページ: http://theocorp.jp

エンジニアとして活躍していた瀬尾氏の転機は、前職であるカヤック時代のクライアントワーク経験だった。Googleやマイクロソフトをはじめとする企業の案件で、テクノロジーを良く理解していることが良い企画につながると確信し、自分のスタイルを確立していったという。その後、独立。常に新しい技術やユーザー体験の観点からものを見つつ、企画から開発までを行う。

「新しいテクノロジーを使いこなす技術を持ちながら、一から企画をしてプロダクトを作れる人は珍しい。エンジニアは“ものづくり”の仕事なのですが、エンジニアが自ら主導して企画を考えることはなかなか浸透していないのではないでしょうか」

 

企画に必要な4つのステップ

自分が作りたいものを思い付いても、それを実現するのはなかなか難しい。では、エンジニアが企画を一から作るためにすべきこととは何だろうか? 瀬尾氏は次の4つのステップが企画作りの役に立つと話す。

  1. ハッカソンや勉強会に行こう
  2. 人と話してアイデアを深めよう
  3. シンプルな企画書を書こう
  4. アイデアを形にするための環境づくりをしよう

各ステップの詳細を見てみよう。

ステップ1:ハッカソンや勉強会に行こう
「何か作ってみよう」と思っても、やり方や進め方がわからないもの。本やSNSを参考にインプットしたり、休日プログラマーになってみるのもありだ。さらなる刺激が欲しい人は、ハッカソンや勉強会に行って「ものづくりをしている」仲間を増やしてみるのもよい。参加費無料のイベントもあるので、ネットで自分に合うものを見つけて参加してみよう。

ステップ2:人と話してアイデアを深めよう
アイデアを出す時のおすすめの思考法は、企画書を書く前にまずは人と話してみることだ。SNSに投稿して反応を見るというのも一つの手段。一人で考えていると自信が持てないかも知れないが、誰かにアイデアを共有するとイメージを固めやすい。そこから手書きでラフなイメージを書くと効率的だ。

ステップ3:シンプルな企画書を書こう
最低限書くべきことは次の3点。分かりやすくシンプルな企画書にしよう。

  • わかりやすいタイトル
  • 何のために作るか
  • どういう機能があるか

要素を詰めこんだ資料を作る必要はない。箇条書きでもいいのでシンプルな内容から始める。サービスを作る場合、余裕があれば「トップ画面のラフスケッチ」などがあると、なお良い。「実際に動いたら面白そう」だと思わせることが大事だ。そこから徐々に詳細な機能やスケジュールといった要素を増やしていくと進めやすい。

ステップ4:アイデアをかたちにするための環境づくりをしよう
会社でも個人の仕事でも、企画を形にするためには、理解を示してくれる同僚や、企画の手助けとなる人や組織へつなげてくれそうな人を味方につけることが大事だ。考えていることを人に伝え、周りを巻き込みながらアイデアを実現するために必要なことを企画に盛り込んでいこう。一番大変なのは世に出した後。作ることはゴールではなくスタート。「でも、あまり先を考えずに出してみて経験していくのが大事ですね」。

瀬尾氏の企画書(作らずに終わった幻のIoTガジェットの企画書)

作らずに終わった幻のIoTガジェットの企画書

 

瀬尾氏の企画書(Olympusのカメラデバイスをつかったアイデアの企画書)

Olympusのカメラデバイスをつかったアイデアの企画書

 

サービス設計に必要なこと

成功するサービスは全体のわずか数パーセントという厳しい世界。多くのサービスに携わり、何度も失敗を乗り越えたという瀬尾氏が「サービス設計に欠かせない」と考えるものは何だろうか。

1. タイミングを見極める
まず「タイミング」。よくある失敗の原因は「早すぎる」こと。タイミングを見極めるのは難しいが、もし早すぎて失敗しても、例えばメッセンジャーアプリのブームが何度も来ているように、流行はループする。またタイミングが合えば再チャレンジしてみよう。

「iPhoneが出始めた頃に、楽器アプリが流行るだろうと思って1個つくったら反響がよかったんです。調子に乗って、もっと高機能な2個目を出したら、大コケ。まだ早すぎたと思って、実は次のタイミングが来るのをずっと待っています。失敗するとヘコむけれど、反省はそこそこにして早く立ち直ることも大事です」。

2. ユーザーテストを行う
良い企画でもユーザーテストのかけ方で仕上がりはかなり変わる。モックの段階からユーザーテストを行い、速やかに軌道修正し、成功率を上げることが大切だ。ユーザーテストのやり方もさまざま。実際に人を呼んでテストする一般的なやり方から、最近ではオンラインでユーザーテストを依頼することもできる。ここ数年ほどでUI/UX設計におけるユーザーテストの技術が上がっているので、サービスの初歩的な箇所での失敗は減っている。

3. リスクを把握する
新しいことを行う際につきものなのがリスク。使っている技術が不安定だったり、ユーザーが想定外の行動をすることもある。できる限り事前に把握したいところであるが、問題が生じた時には、それを解決するための前向きなアイデアをいつでも出せるような柔軟さも大切。例えば現行のAPIが規約変更で使えなくなった場合には、代替となるAPIを探すか、自分達で新たに開発することができる。場合によっては、APIを利用せずユーザーに価値を提供できるよう、サービス設計を見直すことも必要だ。

4. 「新しいものに挑戦している雰囲気」をつくる
新しいテクノロジーが出れば出るほど、クライアントに提案できることは増える。セオ商事の最近の例でいえば、ユーザーとのコミュニケーションで困っている会社に対し、チャットボットの提案をしているという。逆に、話題になったテクノロジーを見て「うちの会社でもできる」といった話が来ることも。

瀬尾氏がジェスチャーを使いながら話している

日々クライアントから「これできる?」と問われるので、新しいAPIやプラットフォームが出てきたら、試したり何かを作ったりしてみますね。こちら側が「柔軟に作っている雰囲気」「新しいことをやっていそうな雰囲気」があると話が来やすいんです。こんなことできたら面白いよね、みたいな話を普段からして、企画のタネをまいています。

 

エンジニアがよりよい社会をつくるには

いま、サービス設計においてユーザー体験を構成するものが目に見えにくくなってきている。例えば、ユーザーの動向によってUIが変わるサービスや、専用のUIを必要としないチャットボット、また画面を持たない音声インタフェースなど。そんな時代にエンジニアに求められるものは何か。

「ユーザーの問い合わせに対して、どのような応答を返すのか」「どのようなロジックがユーザーにとって快適なのか」ということがサービス企画の根本に関わってきていると思います。「例えば機械学習とルールベースのAI、それぞれ何ができて何ができないか」ということを理解しながら企画を進めるには、プログラム知識は必須となるでしょう。またユーザーの要望に応えるために、ただ言われた通りに実装するだけでなく、エンジニアが企画を考えるための知識を身につけることも重要になってくると考えています。

そうなってくると、エンジニアが考えて生み出したテクノロジーが、よりダイレクトに社会を変えます。ですから、現場にいるエンジニアが社会に何が必要かを見極め、より良いものを作ろうとする姿勢が大切だと思っています。

瀬尾氏が立っている

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