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コグニティブ・ビジネスのための4つのステップ

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コグニティブ・コンピューティングは、自然言語処理や機械学習といったテクノロジーを駆使して自ら理解・推論・学習するシステムにより、大量のデータから素早く洞察を導き出し、意思決定を支援するものである。コグニティブ・コンピューティングは私たちの生活やビジネスの定義を劇的に変える可能性を秘めており、いち早く取り入れた企業はその恩恵を受けて急速に進化している。その動きは、医療、ライフサイエンス、政府、銀行など、世界中のあらゆる業種に及ぶ。

しかし、コグニティブ・コンピューティングをビジネスに導入する方法や、何から始めたらよいのかをまとめた情報は数少ない。今回はコグニティブな取り組みを始め、これを加速するための4つのステップをIBM Institute for Business Valueがまとめたレポートから紹介したい。

 

ステップ1: コグニティブな取り組みのために道筋を決める

成功を収めた事例はすべて、きちんとした戦略と計画を練るところから始まっている。そのためにまずは、自社のミッションやコグニティブ・コンピューティングに何ができるのかを理解したうえで、何にコグニティブ・コンピューティングを適用するかを検討し「ユースケース」の候補を特定することが重要である。コグニティブ・コンピューティングは次の3つの領域で力を発揮する。ここにどのような潜在的な機会があるかを検討しよう。

エンゲージメント: コグニティブ・コンピューティングは、これまでの人間とシステムの関係を根本的に変える。コグニティブ・コンピューティングを適用したシステムはデータを理解して専門家の意志決定を支援し、人間の能力や可能性を大幅に拡げる。

決定: 明確な根拠に基づき意思決定することを支援する機能。コグニティブ・コンピューティングを適用したシステムは、新たな情報や結果、アクションに基づき学習を重ねるため、精度が継続的に向上していく。

発見: コグニティブ・コンピューティングを適用したシステムは、人手では到底処理しきれないような世界中の膨大な情報を理解して知見や関係性を見出し、洞察を導き出すことができる。

次に、選択したユースケース候補がビジネスでどのような利益を上げられるか、仮説検証を行う。これはコグニティブ・コンピューティングを実際に展開した後に実現される価値を測定・評価するための指標の定義につながる。

さらに、ステップ1ですべきことは、ロードマップの作成だ。自社の戦略とユースケースの優先順位に基づき、コグニティブ・コンピューティングで実現したいことのロードマップを作る。ロードマップではガバナンス、組織的なコミュニケーション、利益の測定にどう取り組むかのプランを含めたチェンジ・マネジメント戦略を明確に定義しておこう。

 

ステップ2: コグニティブ戦略を検証する

革新を成し遂げるためには試行錯誤が必要だ。すなわち、ステップ2は、プロトタイプを作成し、ユースケースを検証するためのステップとなる。プロトタイプ作成の目的は、視覚的にわかりやすいようにユースケースのシナリオのワークフローを作り上げ、これから開発するユースケースが最終的にどのようなものになるか、ユーザーが確認できるようにすることだ。

ユースケースを検証して改善するだけでなく、実際にコグニティブ・コンピューティングが導入された後にユーザーとなる人々からの理解と賛同を得るというのも、このステップで重要なことだ。

コグニティブ・コンピューティングを適用したシステムは進化し続けるため、時間の経過とともにその価値は高まっていく。このシステムの進化を理解して、まず信頼できるユーザーに利用してもらうことが重要だ。この初期ユーザーがメリットを実感していることを検証した上で、より多くの人々へと展開していくべきである。

さらにこのステップでは、ユースケースの基となっているビジネスケースの仮説を、より深く検証すべきだ。

 

ステップ3: 「チーム」をトレーニングする

次は、いよいよ導入のステップだ。ステップ3では、ステップ1で定義した優先順位の高いユースケースに対してコグニティブ・コンピューティングを適用したソリューションを構築し、さらにシステムとユーザーの両方をトレーニングする。

ここからは実際の作業が始まるため、人材とコア・テクノロジーへの投資が必要になる。投資の内容や規模は、ステップ1からここまでの過程で導き出した要件に基づいて決定する。

「コグニティブ・システムは、自発的に情報を取り込むことはできません。特定の分野についてコグニティブ・システムをトレーニングするには、人の手が必要です」(IBMフェロー、グラディブーチ)

コグニティブ・コンピューティングを適用したシステムは対話や新しい情報から「学習する」。つまり、それはトレーニングするもので、あらかじめプログラムされているものではない。システムをトレーニングし、学習すべき質問と答えの組み合わせを定義するためには、その分野に特化した専門知識 (例えば業界の専門職、科学的専門分野など) を持った「人間」が必要だ。その分野の専門家が技術チームに加わり、組織固有のミッションやプロセス、システムやデータについての情報を提供しなければならない。

さらに、システムがユーザーに専門的な支援を提供できるようにするため、十分な時間をかけてデータを選択し、質が高く十分な量のデータをシステムに与えて学習させ、良質な「知識ベース」を構築していく。

また、このステップでは、ユーザーが確実にこの新しいテクノロジーを理解し受け入れることができるよう、ユーザーに対してもトレーニングを行う必要がある。特に重要なのは、システムが生成するレコメンデーションに対する期待を管理することだ。高い精度のレコメンデーションを実現することは、ソリューションを導入する際の最大のチャレンジである。システムは学習を重ね精度を向上させるが、現実には精度が100%になることはない。ユーザーは早い段階で、いまシステムがどの程度の精度を実現しているかを知っておくべきであり、定期的に精度がどれくらい向上しているかについてレビューし、改善していかなくてはならない。

 

ステップ4: 組織のコグニティブ機能を継続して進化させる

ソリューションの展開は、いわばひとつのチェックポイントに過ぎず、ソリューションの展開後も継続的な取り組みが必要となる。このステップでは、主に以下のようなことを行う。

  • 組織のオペレーション全体へのソリューションの展開
  • システム自体とシステムのユーザーの両方に対する継続的なトレーニング
  • 知識ベースの継続的な改善
  • システムと当該領域のプロセスのさらなる進化
  • コグニティブ・コンピューティングを適用するための、さらなるユースケースの探索

このステップでは、ビジネス上の利益とソリューションの精度のレベルを継続的にトラッキングし、ステップ1で定義した指標に対して創出価値とその進捗を評価しなければならない。これらはソリューションが存続する間、継続して行う必要がある。

 
これまで、コグニティブ・コンピューティングを導入するための4つのステップを紹介したが、一番重要なのはステップ1。つまり、コグニティブ・コンピューティングを適用するユースケースと、それがどのようなビジネス上の利益を生み出すかを特定することである。このプロセスでは実際の導入事例を参考にしながら、自社でどのようにコグニティブ・コンピューティングを活用できるかイメージすることをおすすめする。

すでにさまざまな業種・業務でコグニティブ・コンピューティングを適用したソリューションが導入されており、きっと参考になる事例が見つかるだろう。