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Smarter Business

リレーションの意識改革で、日本のエンジニアをもっとクールに!

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取材・文:安田 博勇、写真:佐坂 和也

 
断言しよう、「エンジニアの未来は明るい」と。クラウドとAIの登場は、企業のみならずあらゆる人がオープンソースのテクノロジーに触れ、働く場所に依らず、エンジニアとしてシステムを構築できる環境を生み出した。日本の男子中高生が将来なりたい職業の1位は「ITエンジニア・プログラマー」(2017年ソニー生命保険調べ)になり、2020年には小学校でプログラミング教育が義務化されることも決定している。エンジニアがもっと生き生きと働き、新たなイノベーションを生み出すために必要な考え方や能力とは何だろうか? IBM デベロッパー・アドボカシー事業部長の大西 彰氏にその展望と、6月11日に開催を予定しているDeveloper Dayイベントへの意気込みを聞いた。

 

いま、デベロッパーの仕事が注目される理由

——昨今、デベロッパー(ITエンジニア)の仕事が注目を集めているように感じます。

大西:彼らが重要視されるようになったのは「ITのコンシューマー化」を受けて、アジャイル(俊敏)なものづくりができるという点に尽きるでしょう。生まれた頃からデジタルデバイスやクラウドに親しむ若い世代は、開発作業でも仲間とオンラインで会話をし、クラウド上でプログラミングも行います。パソコン1台あれば、場所を問わず、どんなところでも真にグローバルな仕事ができるのです。さらに統計上で見ても、欧米諸国やアジア太平洋諸国の5割くらいのデベロッパーは、すでに単なる技術屋の枠組みを越えて、ビジネスにおける何らかの「意思決定者」になっているといいます。

インタビューに答える大西さん

日本IBM デジタル・ビジネス・グループ デベロッパー・アドボカシー事業部長の大西 彰

——日本の場合はいかがでしょう?

大西:デベロッパーを含む国内のIT人材は約92万人(経済産業省『IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果』より)いますが、残念ながら「意思決定」まで担えるデベロッパーはごくわずかというのが現実です。
旧来型の日本企業では「ITへの投資は単なるコスト」と見なされがちで、時間のかかるウォーターフォール型の開発案件では階層構造的な商慣習もあって、エンジニアに分配される報酬も多いとは言えません。しかし、今後はもっとアジャイル型のプロジェクトが増えてくるでしょうし、日本のデベロッパーも企業の変革を担う「意思決定者」として、報酬はもちろん、人材的な価値も高まってくると考えています。

——意思決定者になれるデベロッパーとなれないデベロッパーの差は、どこにあるのでしょうか。

大西:やはりコミュニケーション力です。海外では、勉強会などの場でデベロッパーが自分の意見を積極的に発信するシーンをよく目にします。日本のデベロッパーは、もっと外部のコミュニティーへ出かけて行くべきです。
民間企業に勤めていると、つい「内(社内)」に閉じこもりがちですが、もっと「外(社外)」に目を向け、リアルなコミュニティーに行動範囲を拡げたほうがよいと感じています。

インタビューに答える大西さん

 

Share/Connect/Feedbackでイノベーションを起こす

——外部のコミュニティーに踏み出すメリットについて教えてください。

大西:外部のコミュニティーに参加したら、自分が抱いている疑問やそれまで取り組んできた仕事などはどんなささいなことでも、臆せず他の人に伝えてみる。すると、同じ興味を持つ人とつながれますし、貴重な意見をもらえます。こうした 「Share(共有する)→ Connect(つながる)→Feed back(意見をもらい、学ぶ)」という習慣が根づくと、デベロッパーのなかでマインドチェンジが起こります。

——日本のデベロッパーには、マインドチェンジが必要だと?

大西:その通りです。さらに付け加えるならば、デベロッパーは自身の専門分野に留まらず、ビジネスのこと――つまり、業界の動きや現場の様子をもっと知る必要があります。海外に目を向けるなら語学力も必要になるでしょう。

いずれにせよ、与えられた仕様通りに淡々と開発するのではなく、定義されていない問題を自らが「意思決定者」となり定義するのが、これからの時代のデベロッパー像になるはずです。イノベーションを生み出すために、既存のやり方をいったん壊して他者とのリレーションを自ら築いていかなければなりません。

インタビューに答える大西さん

——IBMの「デベロッパー アドボカシー」は、デベロッパーを支援するチームだと伺いましたが、どのような仕事をしているのですか?

大西:「デベロッパー アドボカシー」はグローバルのチームで世界の主要10都市に拠点を持ち、デベロッパー・アドボケイトと言う役割のメンバーが、各エリアのデベロッパーに向けてさまざまな活動を行なっています。今後も拠点は増えて行きます。例えば、企業ではよくあるケースですが、上長から突然、「AIに関するプロジェクトを何かやりなさい」と命じられても、どうしていいかわからないですよね。
そこで私たちは、IBMが持つAI、クラウド、セキュリティーなどのコアテクノロジーをどう活かせばよいのか伝える活動を行なっています。デベロッパーが何に困っているのか、あるいは何の技術に興味があるのか……。デベロッパーの視点で必要とされる情報提供やイベントなどを企画するのが、デベロッパー アドボカシーの役割です。

いま、チームとして推進しているのは「IBM Code」(※現在は英語版のみ)というウェブサイトの拡充です。このなかにある「Code patterns」いうコンテンツでは「ブロックチェーンでアプリを作るには?」「画像認識APIを使ってアプリを作るには?」といった具体的な100以上のストーリーごとにシステム構成やソースコードを提供しています。
また、私はグローバルチームにおいてTokyo City Leaderを拝命していますので、各エリアの責任者とコンタクトを取り、成功事例の共有なども行なっています。

 

For Developers, By Developersで「変化」を

——6月に「Developer Day」と銘打った日本IBM主催のイベントが開催されるそうですね。

大西:その日は「For Developers, By Developers」と掲げたキャッチコピー通り、デベロッパーのリレーション形成を目指したセッションを予定しています。MicrosoftやLINEなど、IBM以外のITベンダーにも参加いただきますが、他社や日本のコミュニティーを巻き込んだ大々的なイベント開催は、日本IBMの歴史のなかでも初めてかもしれません。

 
Think Japan Developer Day イベント告知
 

——どのようなセッションを予定しているのですか?

大西:私が登壇するセッションでは、コミュニケーションスタイルや自己表現の話が多くなると思います。
私はIBMに入社する以前は、Microsoftでエバンジェリスト(伝道師)として、デベロッパーリレーションに関する業務に長年従事してきました。未知の領域に対してどのようなスタンスを持ち、誰とどういったコミュニケーションを取って、ゴールに向けてプロジェクトを遂行してきたのか。こうした、一見「デベロッパーらしからぬ」非・テクニカルなこともたくさん行ってきました。そのあたりの経験をさらりと共有したい(笑)と思います。
今回のイベントもそうした方向性、来場者とインタラクティブになれるような企画を検討中です。

インタビューに答える大西さん

——多くのデベロッパーが来場すると思いますが、IBMとしてどのようなテーマを持って臨みますか?

大西:「今のIBM」を知っていただきたいと考えています。

デベロッパーの方に「今のIBMが何をしているか知っていますか?」と聞けば、皆さんきっと答えに困るのではないかと思います(笑)。しかし、「Watsonを知っていますか?」と聞けば、皆さん「はい」と言うでしょう。マーケティングとしては成功しているのですが、同時に弊社の課題でもあると思うのです。

IBMのイメージはどちらかといえばビジネス寄りで、デベロッパーとの間には「見えない壁」のようなものが存在していました。その壁を、少しでも動かしたいというのが本心です。「Watsonを作っている会社」としてなんとなく認知されるのではなく、デベロッパーの視点で必要な技術を提供してくれるテクノロジー・カンパニーだと、今回のイベントを通じて広く知ってもらいたいと考えています。

——最後に、デベロッパーの皆さんにメッセージをお願いします。

大西:日本のデベロッパーは、世界的にもたいへん高い技術を有しています。あとは、先述した「Share/Connect/Feed back」の体験があれば、もっと「クール」な存在になれるはずです。
6月のイベントでは、セッション終了後に「Developer Night」というパーティ形式の交流会も予定しているので、来場いただく皆さんにはそこでいろいろな方とのリレーションを作っていただきたいです。特に会場内、2箇所で一般公募によるライトニングトーク・セッションも行いますので“Share”のチャンスです。イベント後もデベロッパーを起点にたくさんのイノベーションが起こせるよう、今後もさまざまな活動をつづけていきます。