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駐車違反に異議あり!大学生が開発した弁護士ボット「DoNotPay」の実力

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例えば、マイカーで街へ買い物に出掛け、目的の店の近くに車をつける。周辺に駐車禁止の標識が見当たらないのを確かめて路肩に駐車し、ゆっくりと買い物を楽しんで車へ戻ると、フロントガラスに違反切符が貼り付けられている。よくよく見れば、物陰に隠れていた駐車違反の標識が姿を現した。わだかまりを抱えつつ、渋々ながらも罰金の支払いに応じる――。

都市部に住むドライバーであれば、多かれ少なかれこのような苦い記憶を持っているかもしれない。しかし、時として思いがけない行動で周囲を驚かせる「天才」が登場する。英国出身の19歳の大学生、ジョシュア・バウワーも、そんな天才の一人かもしれない。

「理不尽な」違反切符

イギリスは路上駐車の取り締まりが厳しく、特に駐車禁止の標識が立てられていたり、駐車用にパーキングメーターが設置されていたりする場所での取り締まりには容赦がない。明らかな違反はもちろんのこと、冒頭で示した例のように、駐車違反の標識が物陰に隠れて見えにくいような場所では、ドライバーの勘違いによる違反が多発する。そんな場所で敢えて待ち構え、取り締まりをするようなケースもあるという。

駐車違反の罰金は自治体の収入源の一つでもあるため、取り締まりにも力が入る。より効率的に違反を取り締まるため歩合制の監視員を配置したり“怪しい”場所にカメラを仕掛けてドライバーが違反するのを待ち構えていたりすることもあるようだ。明らかな違反は別として、そうした「行き過ぎた取り締まり」に常に従わなければならないとしたら、確かに理不尽かもしれない。

駐車違反の異議申し立てをする弁護士ボットの誕生

そこで、イギリスでは違反切符を切られた場合、一度だけ不服の申し立てを行うことができる制度が設けられている。申し立てが認められれば駐車違反切符は撤回され、罰金を支払う必要もなくなる。ただし、申し立てに必要な嘆願書の作成は素人には難易度が高く、申請しても敢え無く却下されてしまうことが多いという。

そうした状況の中、1年間で数十枚に及ぶ駐車違反チケットを切られたというジョシュアは、苦い経験をバネに理不尽な取り締まりに毅然として立ち向かう決心をした。手始めにさまざまな情報を収集し、嘆願書の作成に必要な知識を身につけた。そして、何件もの不服申し立てを成功させただけでなく、嘆願書の作成を自動化する弁護士ボット「DoNotPay」を開発した。

DoNotPayはLINEのような対話型のインタフェースを備えた、いわゆる「チャットボット」と呼ばれるアプリケーションだ。「駐車禁止の標識ははっきり見える場所にありましたか?」といったボットからの質問に答える形で必要な情報を入力すると、ボットが情報を元に過去の判例を検索したり「Google Map」で切符を切られた場所を検索したりして状況の切り分けを行い、理不尽な取り締まりに対する不服申し立ての嘆願書作成を支援してくれる。

ジョシュアは開発したDoNotPayを無料サービスとして公開。わずか21カ月で25万件の利用数があり、なんと16万件もの違反切符の撤回に成功したという。一般的に民間人は法律に関しては弱者であり、法律を知らないばかりに不利益を被ることも少なくない。DoNotPayのように便利で手軽なサービスが今後一般化していけば、より多くの人が基本的な法律の知識にアクセスしやすくなり、理不尽な取り締まりや法外な請求に対して正当な反論ができるようになるかもしれない。

Watson APIでヒアリング精度が30%向上

ところで、弁護士ボット「DoNotPay」の開発過程には、IBM Watsonの技術が活用されている。もともと、入力された情報を独自の方法でキーワードを解析して処理を行っていたそうだが、Watson APIを組み込んだことで、解析の精度が30%もアップしたそう。

現在、公開されているバージョンはチャット画面に文字を手入力してやり取りする形式だが、Watsonの「Speech to Text(※1)」や「Text to Speech(※2)」といったAPIを利用すれば、あたかも実在する弁護士に電話で相談するかのような感覚で、サービスを利用できるようになるだろう。

※1)Speech to Text:音声や会話からテキストを書き起こす機能
※2)Text to Speech:テキストから自然な音声を合成し、発生する機能

現在、ジョシュアはDoNotPayにアラビア語対応機能を組み込み、シリア難民の英国への亡命申請を支援するサービスの開設を検討しているという。WatsonのようなAI技術の活用はビジネスの分野において目ざましいものがあるが、DoNotPayのように社会問題の解決にも役立つ可能性を秘めている。今後もDoNotPayの更なる躍進と、DoNotPayに続くユニークなソリューションの誕生に期待したい。

photo:Getty Images

 

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