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“市町村にとっての使いやすさ”を第一に成長を続ける「IBM災害対応情報システム」

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森 隆志

森 隆志
日本アイ・ビー・エム株式会社
コンサルティング事業本部
官公庁サービス事業部
ソリューション推進部 部長
Project Management Professional

災害対応情報システムの事業責任者。IBMに入社以来、エンジニアとしてメインフレームを中心としたシステム基盤設計・構築、運用管理を担当。プロジェクト・マネージャーとして、中央官庁、独立行政法人向けの大規模システム開発に多数従事した後、プロジェクト・マネージャーやアーキテクトを部下に持つシステム開発部長として多くのプロジェクトを統括。

 

大橋 将之

大橋 将之
日本アイ・ビー・エム株式会社
コンサルティング事業本部
官公庁サービス事業部
ソリューション推進部
防災・GIS担当部長
Project Management Professional

災害対応情報システムのソリューション責任者。IBMに入社以来、官公庁向けシステムの構築・運用を担当。2011年から、災害対応情報システム・ソリューションを担当し、ソリューション提案からシステム構築・運用まで一貫して支援。

 

荒川 一誠

荒川 一誠
日本アイ・ビー・エム株式会社
コンサルティング事業本部
官公庁サービス事業部
ソリューション推進部 課長
Project Management Professional
情報処理安全確保支援士

2017年から災害対応情報システム・ソリューションを担当し、ソリューション提案からシステム構築・運用まで一貫して支援。災害対応情報システム・ソリューションの提供だけでなく、現地災害対策本部で実際の災害対応業務を経験。

 

和田 愛也子

和田 愛也子
日本アイ・ビー・エム株式会社
コンサルティング事業本部
官公庁サービス事業部
ソリューション推進部 係長
 

2018年から災害対応情報システム・ソリューションを担当し、都道府県・市町村向けの防災システム構築の設計・開発責任者及び運用保守サポートを担当。

自然災害大国といわれる日本において、激甚化する災害に対して、自治体レベルでの迅速かつ的確な対応が求められています。IBMは自治体の防災対策を総合的に支援するために「災害対応情報システム(DMIS:Disaster Management Information System )」を提供。DMISは東日本大震災時における災害支援をきっかけに開発され、多くの災害発生時に実際に被災した自治体で活用され、改善を積み重ねてきました。現在、多くの官公庁・自治体で採用が進み、導入自治体は国土の約4割、人口の約3割をカバーしています。「災害対応の最前線に立つ市町村の職員の方が使いやすいように」を最も重視しているというDMISの特徴、開発・提供に込める思いを、製品開発チームのメンバーに聞きました。

システムの活用で自動化・省力化し、災害対応担当者を支援したい

地震や台風、豪雨、豪雪、洪水、土砂災害など、さまざまな自然災害に見舞われる日本。近年は激甚化が進んでおり、災害時に的確な避難指示や救難・支援・復旧活動をすみやかに行うために、政府および都道府県や市町村などでは災害対策に力を入れています。

災害が発生した際、自治体においては発災から救援・支援、復旧・復興に至るまで、膨大な作業が発生します。一刻を争う状況の中で「情報の集約と発信」が大きな課題になっているとコンサルティング事業本部 官公庁サービス事業部 ソリューション推進部 課長の荒川一誠は指摘します。

「気象庁や国土交通省、内閣官房などからの情報に基づいて自治体の職員は対応していますが、情報の発信元や種類が多様化しており、伝えるべき情報の選別に時間がかかっていました。さらに、それらの情報をSNSや地域の防災アプリなど地域住民に発信するためのオペレーションも大きな負担になっています。もっと早く判断できればよかったと振り返る声も聞かれました」(荒川)

大橋、インタビュー時の様子

製品開発をリードしてきたソリューション推進部 防災・GIS 担当部長の大橋将之も「大量のデータを職員がチェックして判断するには限界があります。システムの活用で自動化・省力化をして、現場の職員の方には人の判断が必要なところに注力していただく環境が必要だと思います。また、情報を一元管理することで、被害の発生状況や避難所における必要物資の量などが正確に把握できます」と補足します。

さらに、行政機関では定期的に人事異動があるため、ノウハウの継承が難しいという課題もあります。災害対応情報システムを活用することで、関連する業務を整理し、必要な知識やノウハウをシステム上で共有・継承していくことが可能となります。

自治体にとって本当に役立つ災害対応情報システムとは

では、自治体はどのようなシステムを備えればよいのでしょうか。
大規模な災害発生時には、ネットワークが停止する可能性もあります。近年は官公庁や地方自治体のシステムもクラウド・ファーストで導入されるケースが増えていますが、DMISではクラウドだけではなくオンプレミスでも使えるハイブリッドクラウド型のシステムを提供し、災害対応に支障をきたさないようにしています。

また、防災担当者だけでなく、普段は触れる機会がない職員にとっても使いやすいシステムが不可欠だとソリューション推進部の和田愛也子は指摘します。

「災害対応で実際に活用された実績は重要です。実効性がなければ意味がありません。加えて大切なのが『使いやすさ』です。災害対応に関するシステムは平時の訓練を頻繁に行わない限り触れる機会が少ないため、使いづらければ、万一の際にうまく活用できない可能性があります。災害時には防災担当者だけでなく、全職員が災害対応にあたります。普段はシステムを使わない方も利用するため、使いやすさは極めて重要です」(和田)

和田、インタビュー時の様子

こうして、「災害対応の最前線に立つ市町村の職員にとって本当に使いやすいシステム」を目指して開発されたDMIS。災害の情報発信やリアルタイムの映像共有、罹災証明書の申請・発行など初期フェーズから復旧・復興フェーズまでの活動をトータルで支援する多彩な機能を提供しています。(図)

図:IBM災害対応情報システム支援範囲

日本で生まれ、多数の経験とヒアリングを基に成長を続けるシステム

DMISの最大の特徴は、日本における災害経験と現場の声を基に開発された点だとソリューション推進部 部長の森隆志は強調します。

「2011年に東日本大震災が発生した際、IBMはスマトラ島沖地震(2004年)で活用実績のあるオープンソースの避難所管理システムを急遽ボランティアで日本語化して提供し、被災地の自治体様にご活用いただきました。このとき、既存の災害対応情報システムには現場で本当に役立つものがないことを知り、いろいろな自治体様のニーズを細かくお聞きして、私たちで新たにDMISを開発しました。誕生からまだ十数年と最後発の製品ですが、だからこそ最新の技術と知見、現場の方々の声を反映したシステムにできたと自負しています」(森)

森、インタビュー時の様子

また、大橋も「平成28年熊本地震や平成30年7月豪雨(西日本豪雨)など、多くの激甚災害への対応で活用されました。その都度、実際に利用いただいた方から『この機能が役立った』『こういう機能が欲しい』といった声を伺うだけでなく、導入いただいていない官公庁や自治体の担当者様にも広くご意見を伺い、機能の改善に努めてきました。例えば、避難者数の把握も日ごとではなく、時間帯による人数の変化や過ごし方等の入力項目も加え、施策の改善につなげていただいたこともありました」と説明します。

現場からのリアルな声を反映し、改善を重ねてきた結果、DMISはユーザーの口コミで評判が広まって各地で採用が進み、現在は導入済みの官公庁・地方自治体が国土の4割、人口の3割をカバーするほどに成長しました。

オープン指向でLアラートなど広範なシステム連携を実現

改善が重ねられているDMISですが、技術的には次のような特徴があります。

最初にあげられるのは、広く普及しているオープンな技術をベースに開発されていることです。各種のIT標準規格に準拠しており、さまざまな外部システムとの連携が可能です。

例えば、ある県に災害対応情報システムを導入する際に、同県内の市町村で既に別のシステムが稼働しているケースがあります。DMISでは標準規格に基づくデータ連携により、市町村側で入力されたデータを自動的に取得して都道府県側のシステムに反映します。

また、DMISは地方自治体やライフライン事業者が発信する地域ごとの災害情報の共通基盤「Lアラート(災害情報共有システム)」へのデータ連携もサポートしています。「Lアラートは避難指示などの防災情報をきめ細かく発信することを目指しており、2019年からは地図情報の配信も可能になりました。DMISはいち早くこれに対応し、テキストと地図により避難対象地区などの情報をわかりやすく発信することができます」(荒川)

荒川、インタビュー時の様子

なお、Lアラートへ避難地図を登録するには、正確な地図データが必要です。現状では各自治体が持つ避難地図はデジタル化されていない場合もあり、それが地図情報の配信のハードルの一つとなっています。DMISの開発チームでは、各市町村が保有する紙の地図情報を逐一デジタル化し、システムと合わせて提供しています。

災害情報をWeb地図上に軽快表示。クラウドとオンプレのハイブリッドで提供

災害時には、災害発生状況の確認や避難対象地域などのすみやかな情報共有、確認など多くの対応が求められますが、その際に必要不可欠となるのが地図情報です。DMISは、地図での情報共有においても強みがあります。国土交通省の統合災害情報システム(DiMAPS)でも使われているタイル・マッピング技術を採用しており、防災に関するさまざまな情報をWeb地図上に重ね合わせて軽快に表示します。被災現場で撮影・入力した写真や動画、テキストなどの情報を手軽かつすみやかに登録し、災害対策本部や現場で確認することができます。

DMISは表示処理をクライアント側で行うことで高いパフォーマンスを実現しており、平成30年7月豪雨の際には1時間あたり200万件のアクセスを受けてもスムーズに動作しました。「災害対応情報システムは災害時にアクセス数が急増しますが、クラウド上で動作するDMISは高いスケーラビリティーを持ち、災害時にもダウンすることなく防災情報を発信し続けます」と大橋は胸を張ります。

「DMISはクラウドでも提供しますが、オンプレミス版も用意しており、庁舎のPCにインストールして使うことも可能です。インターネットがダウンした際には、LGWAN(総合行政ネットワーク)など専用の防災ネットワーク上にシステムを構築してハイブリッド構成でご利用いただけます」(大橋)

※ 地方公共団体が設置するLGWAN接続ルータ、都道府県ノードなどから構成されており、インターネット網には直接接続されていない閉域のネットワーク 

図:令和2年7月豪雨時の避難情報発令状況(人吉市) 出典:防災情報くまもと図:令和2年7月豪雨時の避難情報発令状況(人吉市)

図:東京都の避難所案内画面 地図上で避難所の特性が一目でわかるようになっている 出典:東京都防災マップ図:東京都の避難所案内画面 地図上で避難所の特性が一目でわかるようになっている

使い手である市町村のニーズに合わせてセミオーダーメイドで提供

こうしたさまざまな特徴を備えるDMISの開発思想を、大橋は「市町村の職員の方が実際に使ってもらうためのシステム」と表現します。

「市町村の災害対応業務でシステムをしっかりと使っていただければ、現場でさまざまな情報が入力され、それが都道府県にも迅速に共有されます。これにより、迅速かつ的確な災害対応が可能となります。DMISを都道府県で導入いただく場合も、市町村に必要な情報まで管理できるよう配慮しています」(大橋)

また、市町村の現場で使ってもらうためには、単に画面や機能が使いやすいだけではなく、同じ業務であっても都道府県ごとに異なる細かな要件に合わせてシステムを提供する必要があります。
例えば多くの市町村を抱える県の中には、地域ごとに県庁の業務を統括する「振興局」と呼ばれる出先機関があります。災害時はこの出先機関を通じて、市町村の情報収集や支援などが行われますが「各都道府県によって、その業務範囲や権限、連携フローなどが異なります。状況に応じてカスタマイズし、それらに合わせたシステムでなければ、災害の際に現場の役に立ちません」と和田は説明します。

そのため、DMISはベースとなる基本パッケージを、各市町村や出先機関の業務に合わせたセミオーダーメイドで提供しています。

ドローン連携も計画。少ない職員でも効果的に対応できるプラットフォームに

官公庁、地方自治体における災害対応業務を強力に支援していくために、DMISは今後もさまざまな機能拡充を予定しています。例えば、被災地域で撮影された写真や動画を中央省庁や消防、警察などの関係機関で共有するための機能開発を進めており、来年度はドローンで撮影した空撮写真をリアルタイムに共有する機能のリリースを計画しています。

また、多様な災害情報の収集と選別、様々なメディアを通じた発信を支援するための機能拡充も進めます。「将来的には、収集した情報をシステムが分析して予測的に対応し、限られた人員で活動する職員の皆様をより効果的にサポートするプラットフォームに育てていきたいです」と大橋は展望を語ります。

さらに、DMISのチームを率いる森は、ともにソリューションの開発・提供に携わる仲間を求めていると呼びかけます。
「災害時の緊急を要する活動をサポートし、実際に目に見える形で貢献できるソリューションであることから、私たちのチームは非常に高いモチベーションで製品の開発・提供にあたっています。災害対応業務に関心のある方は、IBM社内外を問わずぜひ私たちのチームに加わっていただきたいですね」(森)

日本におけるこれまで数々の激甚災害の経験から生まれたDMISは、官公庁、地方自治体のより迅速かつ的確な災害対応を支援していくために、今後も改善と進化を続けていきます。