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Smarter Business

日本でも始まったSaaSによる企業変革 IBM×Bluewolfのサポートとは

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クラウドCRMの代名詞とも言えるセールスフォース・ドットコムのビジネスが、日本では世界を上回る成長率で伸びている。Salesforceは営業支援の「Sales Cloud」、サービスの「Service Cloud」、マーケティングの「Marketing Cloud」などのフロント業務を支援するSaaSを持つが、クラウドの導入は簡単ではない。IBMでSalesforceのコンサルティングおよび導入支援を行うBluewolfは、早期からSalesforceのパートナーとして導入支援を行ってきた。その証拠と言えるのが、Salesforceの導入効果についての年次報告書「The State of Salesforce」。今回その日本語版が公開されることになった。それを記念して、BluewolfのCRO(Chief Relationship Officer)を務めるGreg Kaplan氏、日本IBM グローバル・ビジネス・サービス事業本部 理事、セールスフォース・プラクティス・リーダーの浅野智也氏のおふたりに日本のSalesforceクラウドの現状、SaaSを最大活用するためのポイントなどについてお聞きした。

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浅野智也
日本アイ・ビー・エム株式会社 グローバル・ビジネス・サービス事業本部 理事、セールスフォース・プラクティス・リーダー

 

 

Greg Kaplan氏の写真

Greg Kaplan 氏
Bluewolf CRO(Chief Relationship Officer)

 

 

 

米国企業では事業部をまたいでSaaSを活用

――米国企業はクラウドで世界に先駆けていますが、競争優位性を保つためにどのようにSaaSを活用しているのでしょうか?

Kaplan 現在は第四次産業革命と言われる変革の時代です。ここで企業が知っておくべきことは、顧客の期待が変わっているということです。顧客はサービスを受けるに当たって、企業が自分のことを知った上でサービスを提供してくれるものだと期待しています。情報はいたるところにあり、企業はこれを活用して顧客の期待に答える必要があります。このトレンドは米国だけでなく世界的なものと言ってよいでしょう。

米国では、サービスや製品を市場に提供するまでの時間を短縮することが重要だという認識が進んでおり、それを実現するためにSalesforceのSaaSを選択する企業が多くあります。最近では、複数のクラウドを組み合わせて使うマルチクラウドがトレンドです。

Bluewolf カスタマー・サービス担当バイス・プレジデント兼グローバル・サービス・リードのBob Furniss氏は、「顧客はブランドが有名ではないからではなく、サービスが低レベルだから離れる」と分析しています。

――クラウドの活用には組織の変革も必要になりますか?

Kaplan ホテルなど47件の施設を世界で展開するホスピタリティー企業である米Caesars Entertainmentは、デジタルのホスピタリティー企業を目指すことにしました。ITプロジェクトというより、ビジネス、マーケティングなどの事業部が協業して顧客戦略を構築した例です。協業の結果、顧客はVIP体験を望んでいると理解し、滞在中の顧客がデジタルでオファーを受けたり、レストランの予約が可能になったら通知したりするなどのVIPプログラムを提供しています。

CaesarsはVIPプログラム構築にあたってSalesforceの「Marketing Cloud」とPaaSの「Heroku」を導入しましたが、稼働後も継続的に改善を図るBluewolfの独自プログラム「Bluewolf Beyond」を利用してプロジェクトを進めました。Bluewolf Beyondは柔軟性のあるモデルで、顧客のその時その時のニーズに合わせてBluewolfの開発リソースやSaaSの専門知識を提供するものです。

Greg Kaplan氏と浅野智也の写真

 

日本企業でようやく始まった“本当”のSaaS

――日本でのクラウド活用の状況はどうでしょうか。日本企業にとってもクラウドは選択肢になり、クラウドを最優先する“クラウドファースト”という言葉も聞かれます。実際の活用は進んでいるのでしょうか?

浅野 セールスフォース・ドットコムは2000年に設立されました。セールスフォース・ドットコムは当時、日本企業は要件が厳しくパッケージをそのまま使わないと判断し、「Force.com」を売り込みました。Force.comはその上にサービスを開発できる“PaaS”で、パートナー企業は顧客の要望に合わせて作り込みができます。この戦略は功を奏したのですが、真のSaaSとは言えず、セールスフォース・ドットコムが年に3回行うバージョンアップで提供される数々の新機能をそのまま利用できません。企業は「クラウドだと思っていたが、クラウドではない。SaaSの部分を自分たちでもう一度スクラッチで作り直さなければならないのか?」と気付き始めました。

米国企業のようにSaaSを競争力に変えるためには、SaaSを基本にして使いこなし、カバーできないところだけ自分たちでつくるやり方があるべき姿と言えます。全体から見ると2~3割ぐらいですが、市場はこの方向にシフトしています。自分たちでつくってしまった営業管理の仕組みなどを、もう一度「Sales Cloud」を使ってどうやるかということを考えている顧客が増えています。情報システムを担当するCIOだけでなく、経営陣もクラウドを使おうという認知が進んでおり、日本のトップ企業はSaaSをベースにという機運が高まっています。

――SaaSをなるべくそのまま使うということが大切なのですね。それ以外に、米国の先進的な事例から日本企業が学べることはありますか?

浅野智也の写真

 

浅野 2点あります。

1つ目はマルチクラウドです。Gregが指摘しているように、Salesforceの複数のクラウドを使いこなすという課題が次に必ずやってきます。Salesforceはプラットフォームの機能をいくつか持っており、それを組み合わせることで新たな価値を生むことができます。ですが、その際もやはり自分たちでつくり込むと拡張や発展性がなくなります。コストもかかるでしょう。

2つ目は導入後の継続的な改善です。導入すれば終わりではなく、継続して新しいモジュールを追加して価値を高めることです。例えばクラウドで提供されているIBM WatsonのAIサービスを使えば、付加価値として適宜機能を追加できます。ここでは、ダメならやり直すというアジャイル開発のアプローチが必要です。

日本では、顧客がベンダーを管理する能力、ベンダーがアジャイルに提供する能力、それらが共に成熟する必要があります。典型的な例が、要件を出すのはユーザー側で、それをITが開発するというやり方。項目を満たさなければ次に進めないウォーターフォール型で開発されます。これに対して、アジャイル開発は繰り返し導入する、つくり変えながら改善していく考え方で、企業、ベンダーが共にアジャイルにプロジェクトを進めていくことが重要だと考えます。

 

Bluewolfが“真のクラウド”実装をサポート

――Salesforceのクラウドを活用しようと思った企業が、Bluewolfを導入パートナーに選ぶメリットは何でしょうか?

Kaplan Salesforceを導入すればよいというものではなく、顧客の期待を継続的に満たすにはSalesforceのクラウドを管理するフレームワークが必要です。ここにBluewolfの強みがあります。

クラウドから最大の機能を得るには、技術だけでは不十分です。技術の実装から、クラウドを利用してユーザーや顧客にサービスやユニークな顧客体験を提供するためのフレームワークが必要です。

我々Bluewolfは、Salesforceのクラウドを実装するためのメソドロジーを構築しています。ビジネス上の目標、顧客の期待、そして従業員の体験などを理解して、実装を反復適応するアジャイル開発メソドロジーで、顧客企業はこれを利用して迅速に変化に対応できます。

グローバルの事例としては、全米4大通信事業者の1つであるT-Mobile USがあります。T-Mobileは10年来のSalesforceユーザーで、リードのキャプチャ(案件取得)、契約更新などのアプリケーションを店舗で実装しています。営業担当はSalesforceのアプリケーションを利用していましたが、使いやすいものとは言えませんでした。そこで、Salesforceの古いインターフェイスから、新しいインターフェイス「Lightning Experience」に移行することになりました。その際に利用されたのが、Lightningへの移行サービスであるBluewolfの「Lightning Transition Factory」です。その結果、契約更新の手続きで120のクリックが必要だったのが、8クリックで完了するなど、操作性を大きく改善できました。

LightningはSalesforceの新しいインターフェイスの総称で、直感的に使えることを目指しています。ですので、これを導入するだけで操作性は改善されます。ただ、BluewolfのLightning Transition Factoryは、Salesforceを利用した業務の進め方など我々のノウハウが詰まっているため、Salesforceの機能を利用して業務を行う従業員の体験に合わせてインターフェイスを個別化できます。

浅野 クリック数を削減するということは、何かを省略するということです。省略して本当に業務は回るのかをコンサルタントが理解して落とし込む必要があります。顧客向けの設定をどのようにするか、業務フローをシンプルにしながらできるのか――そこはスキルが必要で、この能力をBluewolfは持っています。

Salesforceはクラウド型CRMでは人気が高く、日本にも多数のビジネスパートナーがいらっしゃいます。Bluewolfを選んでいただくためには、これらのビジネスパートナーとは違う価値を提供したいと思っています。我々はつくり込み型ではなく、SaaSをベースにした真のクラウド活用のための豊富な経験を持っており、これを差別化と考えています。

――BluewolfはSaaSがまだ一般的ではない頃からSalesforceと特別な関係を構築しているそうですね。

Kaplan Bluewolfの共同創業者兼CEOのEric(Eric Berridge氏)は、セールスフォース・ドットコムの共同創業者であるMarc(Marc Benioff氏)と共にOracleに勤務しており、その後それぞれのビジネスをスタートさせました。当初Bluewolfはサービス・コンサルタントとしてスタートしたばかりで、MarcがEricを説得して、Salesforceを手がけるようになったという経緯を持ちます。

Greg Kaplan氏の写真

このように我々は早期からSalesforceのパートナーで、豊富な経験を持っています。それを示すものとして、7年前から「The State of Salesforce」として、Salesforceのクラウドを導入する企業の導入効果を年に一度レポートにまとめています。Salesforce以外の企業がSalesforceのメリットについて解説するという点で唯一の存在です。背景には、他社がSalesforceをどのように使っているのか、ベストプラクティスやトレンド、洞察を知りたいという声がありました。

今年は2500社以上からのヒアリング、18万以上のデータポイントからデータを収集しました。これまで英語のみでしたが、初めて英語以外の言語として、日本語版を用意しました。

 

Bluewolf✕IBMで顧客のCRM体験向上を実現

――Bluewolfは2016年にIBMにより買収されました。IBMとBluewolfが合体するメリットは何だと感じていらっしゃいますか?

Kaplan IBMにはコグニティブ技術の「IBM Watson」、セキュリティーなど幅広い技術があり、Salesforceのクラウドを実装する顧客はこれらも活用できます。また、IBMが展開するグローバル市場にリーチできるようになったことも重要なメリットです。

BluewolfはSalesforceとともに成長しました。例えば、我々はMarketing Cloud、Service Cluod、Sales Cloud、さらにはアプリケーションプラットフォームのHeroku、製品構成・価格設定・見積機能のCPQをはじめとした拡張など、複数のクラウドにまたがる実装を手がけることができます。このような“クロスクラウド”を我々のように拡張性のあるかたちで実装できる企業はありません。SAP、Oracleなどサードパーティーの統合も可能です。IBMとの合併後は、Bluewolfの製品である「AppConnect」や、セールスフォース・ドットコムの一部となったMuleSoftを使ったシステム統合を手がけています。

浅野 CRMで中心となるテーマは顧客体験の向上です。それを実現するために、IBMのグローバル・ビジネス・サービス(GBS)はインタラクティブエクスペリエンス(iX)部門を立ち上げています。Bluewolfが進出していない世界の主要都市であっても、GBSのiXスタジオがあるところならお客様にサービスを提供できます。

――IBMとSalesforceは2017年に戦略的提携を結びました。Marc Benioff氏とGinni Rometty氏、2社のトップが握手を交わしましたが、この提携によりどのようなことを実現していくのでしょうか?

Kaplan 例えば、Bluewolfには約25のAIの実装テンプレートセットがあり、Salesforce EinsteinとIBM Watsonの両方のAIを、クラウドや業界をまたいで活用できます。

浅野 IBMのWatsonチーム、SalesforceのEinsteinチーム、Bluewolfでそれぞれ人を出し合って、WatsonとEinsteinをどのように組み合わせて機能を提供できるかについて考えています。

例えばIBMには性格診断の「Personal Insight」があります。IBMがリサーチで研究してきたテーマで、人間の性格を5つの指標で表現するものです。例えば、Watsonに性格診断の機能を入れてSalesforceの「Service Cloud」と統合して、コールセンターの担当者の画面に相手の性格の分析を表示させる、あるいはお客様の性格により担当する営業の性格を分けるなどのことが考えられます。

IBM自身も、Salesforceの「Service Cloud」を実装してコールセンターを一新しました。Salesforceとの提携が結ばれた2017年第1四半期に着手し、段階的に進め、機能を加えています。

 

日本でSaaS導入を成功させる3つの鍵

――日本企業がクラウド導入に成功するポイントは何だとお考えですか?

浅野 一番重要なのは、大きな方針をつくってそれ以外は認めないという強いリーダーシップです。リーダーシップを取るのは、部門のトップかもしれませんし、変革のリーダーに任命された人かもしれません。

先述のIBMのコンタクトセンター事例は、300ものレガシーシステムを使っていた大きな組織を変革するにあたって、「Salesforceでやる」「Salesforceでできないことはない」というトップによる強い意思決定がありました。基本はアウト・オブ・ザ・ボックス(そのまま使う)で、仕様の変更は絶対に認めないと意思決定を下し、変革していったことが成功のポイントと言えます。

Salesforceは年3回バージョンアップしており、長く使っているユーザーを含め、さまざまなユーザーの意見を取り入れて機能の開発を進めています。つまり、業界の業務で外れた機能は少なく、基本的にそれでやっていくことができるのです。

そのようなSaaSとの付き合い方や考え方を理解する会社は少しずつ増えており、真のクラウドを実装して価値を最大化しようという企業に我々は選ばれています。

――The State of Salesforceの日本語版が出ましたが、8年前にスタートした時からどのようにトレンドは変わりましたか?

Kaplan 当時は、SaaS導入を考える顧客の懸念は、(1)データの安全性、(2)クラウドで提供されるアプリケーションの統合性、(3)拡張性の3つでした。

現在、この3つの懸念はほぼクリアされており、顧客体験――どうやって独自の体験を提供できるか、イノベーション、市場に提供するまでに要する時間などにフォーカスが移っています。

今年はトレンドとして、(1)従業員の満足度がイノベーションを推進する、(2)顧客体験戦略には一元化された土台が必要、(3)部門横断的なガバナンスが継続的なイノベーションを促進する、と3つを挙げています。

浅野 3つとも日本企業にも当てはまることだと思います。例えば(1)ですが、日本でも従業員の満足度と働き方が重要になっています。

Kaplan 日本市場はセールスフォース・ドットコムにとって世界平均より高い成長率で伸びており、我々にとっても重要な市場です。そこで英語以外の言語として、日本語を最初に選びました。2019年のThe State of Salesforceでは、日本市場固有の洞察も入れたいと思っています。