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ビッグデータの波を乗りこなせ! IoT時代を勝ち抜く製品開発の挑戦

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IoT(※)の普及によって、石油や化学のプラント、道路や橋などの社会インフラ、自動車や家電といった製品、さらにはヒト自体にセンサーが付けられ、データを活用できるようになっています。こうしたIoT時代に製造業、非製造業はどう対応していけばよいのか。ここではIoTを活用した「モノ売りから”コト売り”への変革」、「ビッグデータから得た洞察の製品機能への反映」という2つの切り口から考えていきます。

※IoT: Internet of Things モノのインターネット

寺門 正人
グローバルビジネスサービス事業本部


IoT&ビジネストランスフォーメーション 理事。サプライチェーンの分野で20年弱のコンサルティングの経験を持つ。サプライチェーンの構想策定や業務改善支援を中心に実施し、生産や販売など、現場における指標策定・運用のコンサルティングを強みとする。また、新興国におけるサプライチェーン推進の経験も豊富。IBMが提唱する次世代SCMの推進にも従事し、次世代SCM・指標運用に関する執筆多数あり。

 

今再び直面する価値変革の時代

IoTというモノの価値や、製品自体の作り方を変えてしまう大きなドライバーに、どう立ち向かっていくのかについて考えるとき、いつも思い出すのは2008年当初の家電業界の状況です。日本のメーカーが韓国メーカーに対してかなりの苦杯をなめた時代です。

当時、国内家電メーカーTOP30の利益総額のほぼ半分を、韓国メーカーが1社単独で計上したことに、大変な衝撃を受けました。国内メーカーがテレビの解像度を上げることに必死だった一方で、韓国メーカーはコストを抑え、デザインやマーケティングを強化することよって売り上げを伸ばしていたのです。モノの価値、あるいはモノに対する考え方に大きな変化が起こりました。

こうした構造をIoT時代に当てはめてみると、製品あるいはサービス提供における新たな戦い方が見えてくるのではないでしょうか。

まず挙げられるのが、コストの考え方です。生産コストの削減に対する努力は今後も続けていかなければなりませんが、従来のように、労働資本の低コスト化を求めて新興国に生産拠点を移していくというより、IoTを活用したより効率的かつ自律化されたモノづくりによって、低コスト化を図るべきでしょう。

もう1つは、製品のIoT化による付加価値の提供です。センサーやストレージの低コスト化が進み、さまざまな種類のデータを大量に収集して、蓄積できるようになりました。しかし統計調査によれば、ビッグデータのうち現在活用できているのはたった12%です。手付かずのまま残っている88%のデータには、より多くの可能性が秘められているはずです。

IoT時代における戦い方

 

IoTによる「コトの価値の提供」という考え方

今、活用できていないデータを活用することで何を達成することができるのでしょうか。その1つが「コトの価値の提供」です。言い換えればIoTを活用した「コト売り」、すなわちサービスビジネスへの変革です。センサーからのデータでお客様を理解し、生活に根ざしたサービスをタイミングよく提供することで“コト化”が成立します。

あるアメリカの家電メーカー は、洗濯機にセンサーを付け、洗剤がなくなる前に届けてあげるというサービスを開始しました。センサーによって、日々の水の使用量、洗濯量、洗濯物の種類などのデータを取得し、そこから使用した洗剤の量を計算して、なくなる前にネットで自動発注し、消費者に事後通知するというわけです。

また、ある農耕機メーカーでは、IoTを活用したコンサルテーションを提供しています。農耕機の位置情報と気象情報、作物の情報を結び付けて、水やりや種撒きのタイミングを通知したり、不作のリスクを算出し、状況に応じた保険のレコメンド情報を提供したりします。また、農耕機のどの部品が壊れそうかをセンサーデータから予測し、収穫期に機械が止まることがないように、早めに適切なメンテナンスを行えるよう支援したりもします。

農耕機メーカー-IoTによるサービス拡大事例

これらは製造業の事例ですが、IoTはモノを作っていない、非製造業でもコトの価値を提供できます。IBMはVISAカードとアライアンスを組んで、モノが相互に通信し、自動で決済ができる仕組みを開発しています。例えば、ガソリンスタンドで燃料を補給する際に、車と燃料ポンプが通信しあい、自動で支払いを済ませることができます。2020年までに200億個ほどのモノに決済システムを導入する予定です。

 

IoTが変革する新しい製品開発とは

もう1つの価値の提供が、データを活用したフィードバックループの構築です。製品に組み込まれたセンサーにより、使用されている環境、製品の稼働状況などの情報を取得し、潜在的な顧客ニーズや製品の不具合を把握して、新機能の追加や新製品の開発に活用することで、製品開発の好循環を生み出すものです。

ビッグデータを活用した製品開発の良循環

ただ、IoTによって得られた洞察を活用していくためには、要求仕様から設計仕様、テスト仕様といった製品開発の基本的な流れの中で、どの要求に対してどういうチェックポイントが設定され、どうテストされているかを体系的に把握している必要があります。トラディショナルな製品開発が正確に実行されていて初めて、製品の改善や次の製品開発につなげることができるのです。

すでに市場に出た製品のセンサーからはアラートが一気に吐き出されてきます。これを受け止めてモノづくりのV字プロセスに反映させていくには、これまで以上に要求仕様とテスト仕様の関係性を整理し、厳密に把握しておくことがビックデータ時代において非常に重要になります。

センサーを介して人々のライフシーンを把握し、それに応じたサービスを提供することと、市場に出た後も製品の状況を把握し、よりユーザーの想いに応えること。この「コトの価値の提供」と「継続的な製品開発」の2つの観点からIoTのテクノロジーを活用することが、製品価値の向上につながります。是非、一緒に取り組んでいきましょう。

photo:Getty Images

 

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