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中国銀行がTSUBASA汎用ペーパーレスシステムで働き方DXを実現

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鈴木 和幸 氏

鈴木 和幸 氏
中国銀行
総合企画部次長

2002年中国銀行入行。2012年よりTSUBASAシステム共同化プロジェクトの営業店事務リーダーを担当。2017年よりBPR推進プロジェクトを担当、店頭タブレットの導入などの事務改革を推進。2020年より店頭改革プロジェクトを立ち上げ、事務、システム、店頭体制など営業店の改革実施。汎用ペーパーレスシステムの導入および高度化をリードしている。(中小企業診断士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士)

 

安達 俊光 氏

安達 俊光 氏
中国銀行
システム部調査役

2007年中国銀行入行。2009年よりシステム部に配属となり、勘定系システム、個人インバン等の開発に従事。2017年より、BPR推進プロジェクトに参画し、ペーパーレス基盤(汎用ペーパーレスシステムの前身)や店頭タブレットの導入について、システム部リーダーを担当。2020年より店頭改革プロジェクトにて、汎用ペーパーレスシステムの導入および高度化のシステム対応を実施。

 

塩山 容太郎

塩山 容太郎
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
金融サービス事業部 営業部長

 
2006年IBM入社。入社後、営業として地域金融機関様を担当。2011年、チームリーダーとして上位地域金融機関様における基幹系共同化プロジェクトの立ち上げに従事。その後デジタル領域への取り組みを強化し、基幹系とDXの「両翼戦略」、「共創」および「内製化」モデルによるデジタルパートナーシップ構築に取り組む。営業部長に就任後、大手金融機関様も含めた複数のお客様を担当。

 

中国銀行は2018年に「ペーパーレス基盤」を導入し、記名捺印による事務処理を電子サインで可能にするなど、渉外活動の効率化を進めてきました。2022年4月にこのシステムを機能拡張した「汎用ペーパーレスシステム」により、「店内・店外を問わず受付から保管まで一貫したペーパーレス処理」、「ワークフロー化によるペーパーレス化・印鑑レス化・オペレス化」、「受付後即時の後続事務・検印の集中化」、「内製による対象帳票の拡張」を実現。業務効率化や働き方改革の観点で、他の金融機関からもさまざまな銀行実務に適用できると高い評価を受けています。システムの導入経緯から開発した機能とその効果、今後の拡張計画について中国銀行総合企画部次長の鈴木和幸氏、同行システム部調査役の安達俊光氏、そしてパートナーとしてシステムの共創支援に携わった日本IBMの塩山容太郎に話を聞きました。

 

店外業務に利用していた「ペーパーレス基盤」を銀行業務全体で活用したい

鈴木氏 インタビューカット

中国銀行が営業BPR施策として最初にペーパーレス基盤を開発したのは2018年のことです。外出の際の資料準備時間短縮や出先での申し込み受付完結など、効率的な営業スタイルへの変革を意図していました。この結果、特に投資信託や保険などの業務で、タブレットでの説明、電子サイン契約など「店外の活動」で書類が発生することがなくなり、ファイリングや控えの保管などに要する時間が大幅に削減されました。

さらに、同行は2019年に営業店ローカウンターに店頭タブレット「TSUBASA Smile」を導入し、新規口座開設や諸届事務など、難易度の高い受付事務を誰でも簡単に受け付けできるようにしました。
しかし、銀行業務全体を見渡すと、受付後の後方処理には紙による事務が残存し、各店舗には事務処理のため一定の人員配置が必要なままでした。そこで中国銀行は、受付から、後方での事務処理、集中部署などへの外部連携の手続きが全てデジタル完結できるワークフロー・インフラの構築に着手しました。

「現場スタッフからは、『せっかくデジタルで受付しているのだから、その後の処理もペーパーレスにできないのか』という声が上がっていました。どうしたらデジタルで手続きを完結できるのか、銀行員が喜ぶワークフロー・システムとはどのようなものなのかを千葉銀行様、IBM様と共に考え始めたのです」と鈴木氏は開発経緯を説明します。

 

ペーパーレス、印鑑レス、オペレスを目指して一貫したワークフロー処理の仕組みを構築

2022年に構築した「汎用ペーパーレスシステム」は、勘定系システムや前述のTSUBASA Smileなどさまざまなサブシステムと接続し、受付から保管まで、一貫したワークフロー処理を実現する仕組みです。

 

汎用ペーパーレスシステムの全体構成出典:中国銀行

 

店内・店外とも、タブレットで受付をした伝票情報を当システムに連携することで電子的なワークフロー処理を実現します。印鑑が必要な取引についても印鑑スキャナを導入し、照合を可能にしています。格納している電子帳票を店頭タブレットに呼び出すことによって、さまざまな業務を行えます。

受付後は、勘定系システムとAPI連携させることで勘定系の照会および更新処理を自動化しています。
「紙事務であれば、営業店端末による多くのオペレーションが必要となりますが、汎用ペーパーレスシステムではここを一気に自動化しています。それにより、業務処理時間を短縮できるだけでなく、事務の精度も向上します」(鈴木氏)

また、為替の被仕向け事務を処理するE為替や、ファイリング、印鑑照会などのシステムとも自動連携し、ペーパーレス、オペレーションレスを推進。一部の手続きでは、従来は紙をメール便などで送っていたものが、ワークフロー処理、役席承認完了後に即時でサブシステムに連携しています。

 

従来の課題を克服する「集中検印」と「内製による機能拡張」

安達氏 インタビューカット

 
ワークフローの機能は従来の基盤にも備わっていました。ただ、役席が検印する際に必要な情報が集約されておらず、他の端末や紙帳票の参照なしには検印できないという課題がありました。これを克服するために、新システムでは承認に必要な一連の情報を同時に回付することで、ワークフロー操作のみでの検証を可能にしました。

そこが紙事務からの変革の一番のポイントだと鈴木氏は強調します。
「ワークフローは地理的に離れた部署をつなげることができます。これにより、店頭受付した事務処理の検証や後続事務を、離れた部署でも即時に連携し『集中検印』が可能になるのです。その結果働き方改革に繋がります」

さらに、新システムは「内製による対象帳票の拡張」が可能です。一般的には業務量が少ない「低頻度取引」のシステム開発は、行内承認を通すこと自体困難です。そこで「汎用ペーパーレスシステム」では、ベンダーに開発依頼することなく、所管部とシステム部門で新規帳票を随時追加できる仕組みを整えました。

システム構築に携わった安達氏は次のように説明します。
「帳票の追加作成に特段のプログラミングの知識は必要ありません。所管部担当者がExcelベースでフォーマットを作成し、システム部でAPI処理を設定し、テスト実施の上、システムに登録します。現在、月に2~5帳票ずつ追加しています」と説明します。

なお、さまざまな帳票のペーパーレス化、電子化は、株式会社スカイコム様の「SkyPDF」と汎用ペーパーレスシステムのアプリケーションとを組み合わせて実現しています。「住所や電話番号などは勘定系システムから取得するため、お客様自身が何枚も同じ内容を書く手間がなくなり、好評です」(安達氏)
 

定性面・定量面で目に見える効果が生まれた

当システムを導入してからの成果を、鈴木氏は「定性面、定量面の双方で大きな効果があった」と話します。
一般的なペーパーレス化の効果として、利便性の向上や保管スペースの削減が挙げられますが、それ以上に期待を寄せるのは次の3つだといいます。

まず「働き方の自由度の進展」です。集中検印の実現により、在宅等、離れた場所でも店頭の後続事務が可能になります。2点目は「店舗戦略への寄与」。ワークフロー処理の仕組みによって、受付は店舗で行い、後続処理は母店や集中部署で行うことで、小さな拠点(超軽量店舗)でも一定のサービスレベルを提供できます。鈴木氏は、「今後は新たなタッチポイントの店舗戦略としてさらに検討していきたい」と意欲を見せます。3点目は「営業店端末の削減」です。ホストの自動更新、API処理の活用で、従来型の高価な営業店端末の削減が可能になります。

また定量効果としては、年間360万枚の印刷コスト削減と、業務時間については役席約3万時間、パートでは約13万時間の削減を見込んでいます。
「これらはミニマムで見込める量です。汎用ペーパーレスシステムによる各種の効果は広範囲に及ぶため、取り組みの推進により、一層の効果を得られるのではないかと期待しています」と鈴木氏。

 

ペーパーレス化の効果出典:中国銀行

 

オプション機能の追加開発でより多様な業務へ展開

中国銀行では汎用ペーパーレスシステムをさまざまな業務で活用しており、すでに定着しています。システムの特徴である、ワークフロー、電子サイン、データ保管の各機能を発展させて、「海外送金の電子化」や「取引時確認記録書の電子化」、「融資事務の遠隔相談」等に関するオプション機能を追加開発し、運用しています。

同行では今後さらに機能を拡張し、システムを進化させていく計画です。まず、取り扱い件数が増加している非対面(アプリ、Web)申込分の後続処理の効率化です。これについてもワークフローで処理することで事務手続きをオンラインで完結し、バックオフィスの事務を大幅に効率化する予定です。また、現在約1,100台ある営業店端末を大幅に削減することを検討しています。さらに、専門性が高い「外為業務のペーパーレス化」についても、取り組んでいく計画です。

起案からシステムの構築、さらには拡張計画へと次々とデジタルトランスフォーメーションを進める中国銀行の取り組みについて、プロジェクトを支援したIBMの塩山氏は次のように話します。
「汎用ペーパーレスシステムは、その高い汎用性ゆえに、各部門が関与する壮大なシステムです。一方、さまざまな部署に横串を通して横断的かつ俯瞰的にシステムを導入、活用していくことは容易ではありません。従来型の縦割り文化の枠を超えて、デジタルトランスフォーメーションを推進する中国銀行様の熱い情熱と強い意志を感じます」

 

「痒いところに手が届くシステム」
実現のカギはユーザー目線、銀行主導と共創

IBM 塩山 インタビューカット

 

鈴木氏は、TSUBASA汎用ペーパーレスシステムの構築プロジェクトを振り返り、こう話します。
「今回のシステムは、ユーザー目線で構築した点が一つの特徴です。千葉銀行様、第四北越銀行様をはじめとするTSUBASAアライアンスで共に考え、作り上げました。どの銀行でも有効に使える形を追求したところが革新的な部分ではないかと思っています」

またIBMの塩山氏はこう付け加えます。「銀行様主導で作られているシステムを、IBMは“Co-creation(共創)”する形で取り組みました。社内では最高のチームを組成すべく、顧客視点のデジタル戦略や顧客・従業員Experienceの向上のための改革を推進する専門集団であるCustomer Transformationチームによるプロジェクト管理と、高い品質と生産性を誇る札幌の「IBM地域DXセンター」と連携し、中国銀行様とコラボレーションをしながら、プロジェクトを進めました」と話します。

このようにTSUBASA汎用ペーパーレスシステムは、金融機関の業務を変革するための知見、経験、実績ある仕組みです。鈴木氏は「当システムはインフラなので、実際に現場でちゃんと使ってもらえるように意識して企画しないと、大きな効果にはつながらない」と気を引き締めつつも、「ワークフロー化で事務処理を効率化できた分、対面だからこそできるお客様に寄り添ったご提案ができる時間を増やしていきたい」と抱負を語りました。

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