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ますます拡がるAIの適用領域——IBM Watsonの競争優位性とは?

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IBM Watson Summit 2017 セッション・レポート

大盛況のうちに閉幕した「IBM Watson Summit 2017」2日間に渡り80以上のセッションと100を超えるデモストレーションでIBMのコグニティブ・ビジネスが紹介された。今回紹介するのは、初日に開催された、日本アイ・ビー・エム株式会社執行役員(ワトソン事業部長)の吉崎敏文氏によるキーノート。「IBM Watsonが広げるビジネスの可能性——Watsonを活用したお客様事例」から、国内外におけるAI(Augmented Intelligence)市場について解説していこう。

 

IBM Watsonを構成する4つのレイヤー

キーノートに登壇した日本アイ・ビー・エム株式会社執行役員(ワトソン事業部長)吉崎敏文氏は、冒頭で「日本のAI市場は完全に立ち上がった」と宣言する。

すでに世界45カ国、20業種以上で活用されているIBM Watsonは、欧米諸国を軸に世界各国へ広まっていくと同時に、現在は10カ国の言語に対応できるようになり、日本でのWatson導入実績は200社以上にものぼっている。今年、設立から80周年を迎えた日本IBMは、幅広い業界・業種別の“学習済みWatson”を80種類発表したばかりで、吉崎氏は「指数関数的にまだまだ増やしていきたい」と提言する。

では実際のところ、Watsonはどのような形で提供されているのか。吉崎氏はワトソン事業部長として、Watsonの基本的な構造から丁寧に解説していく。

「Watsonのプラットフォームは、アプリケーション(Watson API)、AI、データ、クラウドという4つのレイヤーで構成され、それぞれが独自に進化を遂げています」

なかでも、音声認識(Speech To Text)、画像認識(Visual Recognition)、性格分析(Personality Insights)といったWatson APIsを組み合わせて提供されるアプリケーション群は「今すぐにでも提供できる状態」と語る。例えば「顧客接点」という適用領域で使われるコールセンターのオペレーター支援では「自然言語理解をはじめとしたいくつかのAPIが組み合わされ、コールセンターへの問い合わせにある意図・対象・感情・背景まで理解できます」と話す。

日本IBM 執行役員 ワトソン事業部長 吉崎敏文氏

 

日本IBM本社事業所に気象予報士がいる理由

コールセンターのみならず「顧客接点を確実に変えるケースが国内外に拡がっている」と吉崎氏。その例として、倉庫等の在庫切れを確認し音声注文してくれるStaples社のサービス、チャットbotを用いてWatsonがギフトのお花選びを支援してくれる1-800-Flowers.comのサービスを紹介した。

また、日本でもよく知られるパナソニック株式会社は、アメリカで試験的にデジタル機能を搭載したミラーによるコンシェルジュ・サービスを進めている。「想定しているのは、ホテルなどでの活用。ホテルの宿泊客がミラーに向かって問いかけるとWatsonが自然言語を解析し、ホテルのサービスやショッピング、さらには交通機関や天気などの情報を提供してくれます」

近年、新たに始まった「Watson Company Profiler」も紹介された。これは、世界中の企業データを検索できるツールであり「M&Aを検討するとき、競合会社をリサーチするときなどに有効となる」という。最後に吉崎氏は「Watsonはこうして、ソーシャルデータ、ライフサイエンスなデータ、経済レポート、ニュース、法令文書といった知識をすぐに有用なものへと変えることができる」と前半を締めくくった。

キーノート後半では、2015年にIBM傘下となったThe Weather Company(ウェザーカンパニー)との協業による新ビジネスが紹介された。同社は2016年には新たな気象予報サービス「Deep Thunder」を発表。ここでWatsonの機械学習のより、気象データの実績を学習することが可能となった。

さらに日本IBMでは先般、企業向けの気象情報提供サービスを開始した。24時間365日、アジア・太平洋地域の気象予報をリアルタイムで行う気象予報センター「アジア・太平洋気象予報センター(APFC)」を本社内に開設したという。ここに気象予報士を置き、国内外の気象データ、Deep Thunderなどの数値予報モデルのデータ等を組み合わせ、より高精度の気象予報を“企業向け”に提供する予定だ。

吉崎氏は気象情報の有用性についてこう語る。「降雹(こうひょう)による車両損害額は年間10億ドルとも言われています。ほかにも航空業界ならフライトキャンセルの影響もありますし、エネルギー業界、小売業界など、気象の変動に関する情報は特定の業界にとって大変貴重なもの。例えば、損害保険会社が事前に降雹があることを会員に通達できれば、そのお客様は自動車を車庫にしまえる。そうすることで52%のお客様が損害を回避できるというデータもあり、今後具体的な成果を示していきたいと考えています」

 

IBMは「人間中心」であり続けたい

「AIといえば、機械学習、深層学習という視点だけで語られがちです。ですが、Watsonの価値とは、医療、製造、税務といった専門領域の専門家の知見を学び、その知見をまた特定のドメインに対して返すところにあると考えています。それによってまた新たな発見があったり、アドバイスに対するフィードバックにつながったりするのです」

日本IBM 執行役員 ワトソン事業部長 吉崎敏文氏

Watsonの価値についてそう説明する吉崎氏はキーノートの終盤、Watsonの適用領域の進化についても次のように話す。

「照会応答、探究・発見といったフレームワークを得意とするWatsonの適用領域は、これまでコールセンターのオペレーター支援のような顧客接点が多かったのですが、近年はオンラインショップ、トレンド分析、営業・エンジニア支援、法令遵守といった業務プロセスの領域にも拡がっています」さらには、自社の新サービス・製品の開発にも寄与し、新しい市場をつくりつつあるとして、確定申告支援サービスや人材マッチングサービスについてもダイジェストで紹介された。

こうして吉崎氏による講演は終了。およそ50分のキーノートを、次のように締めくくった。

「我々IBMは、最終的にデータもナレッジもお客様にオーナーシップがあるものだと考えています。AIに関するさまざまな議論が交わされていますが、かのトーマス・J・ワトソン・ジュニア〈1914〜1993〉は、50年も前から『コンピューターは決して人の仕事を奪うものではない』と言っている。私たちIBMはこれからも一貫して人間中心であり続けたいと考えています」

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