「メタバース」という言葉を耳にする機会が近年急速に増加しています。近い将来、メタバースが生み出す価値は数兆米ドルに達するといった予測もあり、サービス提供者のサービス開発、宣伝、マーケティングの競争が激しくなりつつあります。
一方でユーザーの視点から見た場合、個人のメタバースに対する理解や体験はあまり進んでいないことが、本レポートの調査の結果明らかになりました。
メタバースおよび、メタバースで活用される技術の体験有無と理解
また、足元のデジタル・トランスフォーメーション(DX)で手一杯の企業や官公庁がいまだ多いこともあり、ビジネス変革や社会課題解決を目的としたメタバース事例も限定的とみられます。メタバース市場が本格的に広がるためには、個人、企業/官公庁が抱えるニーズや課題をサービス提供者が的確に捉え、ユーザーにとって真に求められる価値を提供することが不可欠と言えます。
本レポートでは、個人が認識する現状をWebアンケートを通じて把握し、課題/ニーズを整理すると同時に、そこから推測される企業の課題/ニーズについてまとめています。また、そうした課題/ニーズに応えるべくメタバースがどのように広がり、どのような役割を果たすのかについて「①ユーザー」「②技術要素」「③サービス提供者」の3 つの観点から考察し、関連事例を紹介します。その上で、メタバースのサービス提供者が取り組むべき方向性を示唆します。
本レポートがカバーする「メタバース」のスコープ
メタバース市場の本格的な拡大に向け、サービス提供者にはどのような施策が求められるでしょうか。まずイベント、ショッピング、ゲームといったB2C 領域のメタバースについては、一部の先行する事業者間での競争が特に激しくなっています。したがって後発のサービス提供者としては、既存の先行プレイヤーと直接競合しないジャンルを中心に、斬新なアイデアや先進技術を駆使して市場開拓を進めることが肝心となります。
また、B2B およびB2B2C の領域では、サービス提供者はメタバースに関わるケイパビリティーのみならず、多様なIT 製品/サービスやビジネス知見/ノウハウなどを含めた「総合力」を獲得する重要性が高まっています。「メタバースありき」ではなく「企業の課題解決ありき」でのビジネス共創を進めるべく、幅広い視野でエコシステムの形成を進めることも必須と言えます。
一方、サービス提供者のパートナー/顧客としての立場にある企業においては、「アジャイル型経営」の実践が重要なポイントと考えられます。近年では、VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)という言葉で表現されるとおり、近い未来であってもビジネスや社会の変化を予測することが困難な時代になりつつあります。ただそうした状況であるからこそ、変化を当たり前のものとして捉え、目まぐるしい環境の変化に臨機応変に対応しスピード感を持ってビジネスを推進するための、アジャイル型経営が不可欠となります。
加えて、サービス提供者と企業の双方においては、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)といったテーマを考慮せずには、事業を継続することが難しくなりつつあります。特にメタバース空間で人々が交流し活動する世界観は、経済産業省がSDGs を実現するためのビジョンとして掲げたSociety 5.0 が実現された社会としての「デジタルとリアルが高度に融合した社会」でもあります。サービス提供者と企業がメタバースに積極的に取り組むことで、そうしたサステナブルな社会の実現に向けて大きく前進することに寄与するでしょう。
本レポートが、個人消費者、企業/官公庁が抱えるニーズや課題を基に、真に求められる価値をメタバースが実現することに寄与し、社会課題の解決や人々の幸せに貢献する上での一助となることを期待します。
著者について
監修:藤森慶太, 日本アイ・ビー・エム株式会社 執行役員 IBM コンサルティング事業本部 カスタマー・トランスフォーメーション事業部長著者:鳥巣悠太, 日本アイ・ビー・エム株式会社 Future Design Lab. Institute for Business Value マネージング・ストラテジー・コンサルタント
共著者:堀越諒太, 日本アイ・ビー・エム株式会社 Future Design Lab. Future Design and Creative シニア・コンサルタント
発行日 2023年2月12日